55.ユレシアの兄たちの心配
ユレシアたちがエミール・ランドン伯爵家の別邸に泊まった次の日の朝、騎士団から派遣された騎士であるテシアとキサラとエルレンが伯爵家にやってきた。
エミールに挨拶をしたテシアとキサラはユレシアを囲む。
「ユレシア、お前何に巻き込まれてるんだよ? 護衛ってカロリーヌ様か?」
キサラはユレシアの肩をガシッと掴む。
「ユレシア、何でも相談してくれよ。私たちはお前の兄なんだからな」
テシアは心配そうにユレシアに言う。
エルレンは少し離れた場所で、3兄弟の様子を見ている。
先日は遠目で気づかなかったが、エルレンは金髪に近い明るい茶髪でくすんだ緑の目をしている。
顔が似ている訳ではないが、身長も外見の特徴も、ユレシアとかぶっているような気がする。
「ええと、詳しい話はお見合いの後でもいいですか? 護衛なんですが……」
ユレシアはエミールを見る。
エミールは頷くと、カロリーヌの後ろにルルと控えているサツキを指し示した。
「護衛対象者はイルベルト家のメイドのサツキだ。必ず守るように」
サツキはペコリと頭を下げた。
「え、ええ? なんでメイドを護衛……ですか?」
キサラは困惑顔になる。
「あの、当家のメイドに何か問題がありましたでしょうか?」
さすがのテシアは、礼儀正しくエミールに尋ねる。
「サツキに問題がある訳ないだろう。詳しくはユレシア君に聞いてくれ。お見合い時はそちらの騎士がサツキを守るようにしてくれ」
エミールはエルレンに顔を向ける。
エルレンは咄嗟に頭を下げる。
サツキも頭を下げた後、エルレンをじっと見る。
「エルレンさん、ユレシア様、似てる……」
「サツキさん! 片言失言が発動してます!」
ルルが慌ててサツキの口元を押さえた。
「それを言ってしまったら、お兄様がユレシア様の事を……って意味になってしまいます!」
「んんー?」
ルルの言葉に、サツキはしきりに首を傾げる。
カロリーヌは、ぱあっと顔を輝かせた。
「私も似ていると思ってましたの! つまり、テシア様はユレシア様に似ているエルレンさんを……」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
ユレシアは大声を出してカロリーヌとルルを制する。
ユレシアもエルレンが自分に似ていると感じていたが、話がおかしな方へ向かっている。
「ああ、似てるよな、エルレンはユレシアに!」
キサラは悪びれもなく言う。
「はい。入団した時に、お二人から弟さんに似ていると言われていました。お会い出来て嬉しいです」
エルレンは照れ笑いをする。
テシアも頷いている。
「ええ? なんですの? テシア様は本当はユレシア様を想っていて……という前提はありませんの?」
止めた意味なし。
カロリーヌはつまらなさそうに、全てを言ってしまっている。
「いえ、ユレシアの事は大切な弟と思っていますがそれ以上の感情はありません。エルレンの事は、似ているので、ついかまってしまったところはありますが……」
テシアはカロリーヌに真面目に説明をする。
「きっかけではあったのですね!」
「そうですね。きっかけではありました」
カロリーヌとテシアは微笑み合う。
真面目と好奇心は意外にも気が合うのかもしれない? とユレシアは首をひねる。
「エミール様、わたくしお見合いにはぜひエルレンさんも同席していただきたいのです。護衛の観点から、サツキもお見合いの席に同席させてもよろしいでしょうか?」
カロリーヌは振り返ってエミールに問いかける。
「君たちは勝手にするといいが……、サツキにその話を聞かせるのか?」
エミールは顔をしかめる。
「エミール様。わたし、同席、だいじょぶです」
きっと内容をよく分かっていないだろうサツキはエミールにお願いをする。
メイドのサツキが伯爵を名前呼びしたことに、テシアとキサラに緊張が走る。
「サツキがいいのなら、まあ……。昼食はサツキの好きなミートパイを用意させている。フルーツもあるからな」
「ありがとございます」
エミールとサツキの会話を聞いて、キサラはユレシアを肘でドンと小突く。
「お前、メイドを寝取られたの?」
「いえ、違いますけど、まあ、そう思いますよね……」
ユレシアも最初は一晩でそうなったと思ったくらいだ。
それぐらい、伯爵が他家のメイドに名前を呼ばせるなんて異例なのである。
チラリとテシアを見ると、納得した表情で頷いている。
完全にイルベルト家のメイドがランドン伯爵のお手付きになったと解釈したようだ。
エミールは仕事のため私室に戻り、ぞろぞろと応接室に向かう途中でキサラはユレシアの肩を抱き寄せる。
「ロウラン家にさ、若くて可愛いメイドがいるんだよ。良かったら紹介しようか?」
「いえ……」
「だめです! ユレシア様、メイド、わたし!」
話が聞こえたらしいサツキが後ろで叫ぶ。
キサラは顔をしかめた。
「いや、君、あきらかに……」
「ユレシア様、わたし、いる。ユレシア様、わたし、1番……」
自信がなくなったのか、サツキの語尾が小さくなる。
でも、サツキのこんな一言が、ユレシアをただ幸せな気持ちにさせるのだ。
「うん、俺の1番はサツキだよ」
ユレシアはサツキに微笑む。
「ユレシア!? お前伯爵とメイドの取り合いはやめておけよ?」
キサラはユレシアの肩をさらに強く掴む。
「あの、サツキだっけ? 君は何故ランドン伯爵を名前でお呼びしているんだい?」
見かねたのか、テシアがサツキに質問をする。
「エミール様、名前呼ぶ、言いました」
「そうなんだろうね。ええと、どういった流れでというか、場面で言われたの?」
サツキの片言に慣れていないテシアは、戸惑いながら質問を重ねる。
「エミール様、ベッド部屋、言われました」
「寝取られてんじゃん!」
キサラは叫ぶ。
「えーとですね……」
ユレシアもこれを聞いた時は、膝をついたのでキサラがそう思う気持ちも分かる。
「あ、あの、発言よろしいでしょうか?」
ルルはおずおずと手を挙げる。
テシアが「ああ、どうぞ」と言う。
「サツキさんは、片言失言ですけど、ユレシア様一筋なんです。ランドン伯爵ともそういう関係ではありません。お嬢様もなんとか言って下さいよ!」
ルルはカロリーヌを見る。
「ええ、そうですね。つい、面白くて……。ユレシア様、やはりお見合いより先に説明にしませんか? このままではサツキにあらぬ疑いがかかりますわ」
やっぱりカロリーヌは、面白くて黙っていたようだ。
「はい。ではその話を先にいたします」
ユレシアはそう言うと、応接室のドアを開けたのだった。




