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歓楽街を禁止された男爵庶子、言葉の通じない娘を買う 〜実は彼女は日本から来た異世界人?〜   作者: 三多来定


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54.沙月とルル、カロリーヌの事情

 ランドン伯爵家別邸で話し合いが終わった後、沙月の好物が並ぶ夕食(おそらくユレシアが伝えた)を済ませて、沙月はルルと泊まる部屋に通された。

 エミール曰く、婚前なのでユレシアと同室はダメだということだ。


「サツキさん、元気がありませんね。ユレシア様と部屋が別れたのが嫌なのですか? まあ、婚前だから同室はダメって、今更ですけどね」

 ルルは荷物を片付けながら言う。


 ちなみにこの部屋は続きにカロリーヌが泊まる部屋がある、いわゆる侍女用の部屋だ。


「わたし、みんなに、めいわく……」

 沙月も荷物を片付けながら、小声で言う。


 ルルは、ハァーと息を吐いた。


「そんなことを気にしていたのですか? 片言失言よりは迷惑じゃありませんよ」


 沙月は「カタコトシツゲン……」と呟く。


「言っておきますが、片言失言はサツキさんのせいですけど、公国の内乱や『移動』能力はサツキさんのせいではありませんよ。むしろ被害者です!」


「ルルさん……」

 沙月はふふっと笑った。


 ルルは厳しい事を言うが、結局は優しいのである。


「そんなことより、今やれる事をやりましょう。サツキさんは、言葉と字の練習ですよね」

 ルルは絵本とノートとペンを、テーブルの上にドサッと置く。


「はい! ルルさん!」

 沙月は元気よく返事をして、椅子に腰掛ける。


「ランドン伯爵とお嬢様とユレシア様は、まだ何かお話を続けるようですしね……」

 ルルはフゥと息を吐く。


「ルルさん、ユレシア様、きらい?」

 

 実は沙月は、ルルがユレシアに対して厳しい事が気になっていた。

 ルルは苦笑いをする。


「嫌いではありませんよ。貴族らしくない良い方だと思っています。ただ……」

 ルルは遠い目をする。


「ただ?」


「いえ、私の実家はもうなくなってしまった男爵家なのですが、なくなった原因の1つがお父様の女遊びだったので、女遊びをする男性を心底軽蔑しているだけです」


 つまり、女遊びをしていたユレシアのことは、良い方だとは思うけど、軽蔑しているということか。

 うん、これは、仕方がない。


「まあ、貴族男性なんて、妾がいたり、侯爵以上になると第2夫人がいたり、みんな遊んでいるようなものですけどね! サツキさんは、嫌ではないのですか? そういう男性は……」


「女遊び、いや」


「はっきり言いましたね。ユレシア様はいいのですか?」

 ルルは沙月を覗き込む。


「……ユレシア様、今しない……。たぶん……」

 沙月は語尾を小さくする。


「たぶんってところが微妙ですね。昔やっていたのはいいのですか?」

 

「昔、変わらない。仕方ない……」

 沙月は小さな声のまま言う。


 これは沙月の本心だ。

 過去をどうこう言う気はない。

 沙月だって、中学生の時に引きこもっていた事を責められても、今は引きこもっていないし、どうしようもない。


「ま、そうですね。過去は変えられませんから仕方ありませんね」

 ルルはそう言うと、絵本とノートを開いた。


 沙月もペンを右手に持つ。


「まずは自分の名前と、ユレシア様の名前を書けるようにしましょうか」


「ユレシア様、名前、書く!」


 嬉しそうに言う沙月を見て、ルルはふふっと笑った。


「サツキさんは本当に一途ですよね」






 夕食後、マイルズを執事に送らせて、サツキとルルを部屋に案内させたエミールは、私室のソファにカロリーヌとユレシアを座らせた。


「騎士団から返事が来た。明日、テシア・イルベルトとキサラ・ロウランと、エルレンという者をこちらに派遣するとのことだ」

 エミールは手紙をカロリーヌとユレシアに見せる。


「迅速な対応ですわね!」

 カロリーヌは笑顔で頷く。


「エルレン……? エル……あっ!?」

 ユレシアは思わず大声を出す。


「なんだ? 知り合いか? 家名がないから平民の騎士だと思うが……」

 カロリーヌとユレシアの向かい側に腰掛けながら、エミールはユレシアに尋ねる。


「い、いえ、知り合いではありません……」


「もしかして、お兄様の恋人でしょうか!?」

 カロリーヌは目を輝かせてユレシアを見る。


 勘良すぎです、とユレシアは肩を落とす。

 しかも、伯爵の前で言ってしまったし……。


「え? どういうことだ?」

 エミールはいぶかしげにユレシアを見る。


「え、えーとですね……」

「テシア様は両性愛者で、男性の恋人がおりますのよ!」


 ああ、何故この令嬢は、全て言ってしまうのか……。


「ユレシア君……!?」

 エミールはユレシアを睨みつける。


「エミール様、お待ち下さいませ。ユレシア様もその事は知らなかったのです。それに両性愛者がダメだというのなら、わたくしもダメですわ」

 カロリーヌはニコニコとした顔のまま、重大発言をする。


「カ、カロリーヌ嬢も、その、両性愛者なのか……!?」

「カロリーヌ様もそうなんですか!?」


 エミールとユレシアの声が重なる。


「いいえ。おそらくですけど、わたくしは無性愛者なのではと思っておりますの。人としては好きな方はおりますけど、それは研究が好きと同じ感じでして、恋愛感情を持ったことはありませんわ」

 カロリーヌは笑顔のまま、エミールとユレシアに言う。


「そ、それは、初恋がまだ、ということではないのかね?」

 エミールはたどたどしく質問する。


「わたくし30歳ですよ? しかもこの行動力で、普通の令嬢よりいろんな方とお会いしています。そういう気持ちに一切ならないのです。ですので、結婚相手には恋人がいてくださらないと本当に困るのですよ」


「ええと、困る、ほどですか?」

 ユレシアもたどたどしく質問する。


「はい。ユレシア様には伝えたと思いますが、わたくし触れ合うのは本気で嫌なのです。それは他の方とやっていただかないと……」

 カロリーヌは大真面目に言っている。


 確かに、そう言っていた。

 これは、後継ぎは産まれない、ということだ。


「あー、もし私と結婚していても、その、触れ合うのは嫌だったと……」

 エミールがとても言いにくそうに尋ねている。

 

 エミールはカロリーヌに求婚していたので、気になるところだろう。


「わたくしも貴族令嬢ですので、務めは果たしますわ。でも、ユレシア様のように一晩で何回もは困ります……」

「わー!?」

 ユレシアは大声を出してカロリーヌの言葉を遮った。


「ちょ、ユレシア君はカロリーヌ嬢にも……!?」

 エミールは立ち上がる。


「出してません! 誓ってカロリーヌ様には何もしていません!! カロリーヌ様!?」

 ユレシアはカロリーヌを睨む。


「あ、すみません。わたくしではなくて、サツキですわ。一晩で何回も……」

「うわーっ!?」


 ユレシアは顔を覆う。

 何故、カロリーヌは、サツキは、全て言ってしまうのか!?

 こういう話は、秘め事ではないのか!?


「ユレシア君……!!」

 エミールは立ったままユレシアを睨みつける。


「も、申し訳ありません!」

 

 ユレシアは、何故エミールに謝らなくてはいけないのか分からなかったが、とりあえず謝った。


「エミール様、そういう訳ですので、わたくしテシア様に恋人がいた方がいいのですよ」

 

 そういう訳の中身が痛すぎる、とユレシアはうなだれる。


「そ、そうか……? いや、これ何の話だったか……」


「護衛の騎士が決まったという話ですわ!」


「あ、ああ、そうだったな。えーと、テシア・イルベルトとエルレンが恋人同士で、キサラ・ロウランは既婚者だから、まあ、サツキの護衛には安心か。サツキは妖精のように可愛いからな……」

 エミールは何とか自身を納得させようとしているようだ。


 確かに護衛騎士は安心だが、エミールは本当にサツキに恋愛感情はないのだろうか。

 サツキの好物を根掘り葉掘りユレシアにきいて夕飯に並べたり、ユレシアと部屋を別々にしたり、少し溺愛が過ぎる気がする、とユレシアはエミールを見る。


「そうだ、忘れるところだった。ユレシア君、これを……」

 エミールはユレシアに書簡を渡す。


「ケルバート伯爵の書簡ですね」

 ユレシアは封蝋を見て言う。


「さすがに私の別邸でお見合いを行うのに会っていないでは通らないからな。その代わり書類面で手伝えることは手伝おう」

 

「はい。何から何までありがとうございます」

 ユレシアは頭を下げる。


「わたくし、明日のお見合いが楽しみですわ! ぜひ恋人さんにも同席していただきましょう!」

 カロリーヌは目を輝かせている。


 世間一般では、お見合いに恋人を同席させたら修羅場である。


 でもカロリーヌの場合はそうならない。

 この令嬢は面白ければ何でも良いのだ。


 エミールは「いいのか、それは……?」と呟き、ユレシアは書簡を握りしめて溜息をついたのだった。

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