48.ユレシア、養子になる?
「エミール様、本当に、もしわけありませんでした。いご、カタコトシツゲンしません。なにとぞ、おゆるし、よろしくお願いします」
サツキはルルに言われたとおりに、ソファに座ったエミールに深々と頭を下げる。
隣でルルも「申し訳ありませんでした」と深々と頭を下げた。
「いや、その件はもういいよ。元々サツキはいらないと言っていたからな」
エミールは苦笑する。
「サツキ、嬉しいは本当です」
「ああ、分かっているよ。『妖精』は気まぐれだからな」
エミールの向かい側に座っていたユレシアとカロリーヌは顔を見合わせた。
「エミール様も、サツキを『妖精』だと思うのですか?」
カロリーヌは率直に尋ねる。
「ん? まあ、思うというか、先ほど王家から返事があって、その中に『妖精が消えた』とあったものでね。どうやら第2王子サイドでは、王子を救うために現れた『妖精』ということになっているようだ」
エミールはそう言うとカバンから書簡を出した。
「あの、第2王子はサツキの事を探しているのでしょうか?」
ユレシアは恐る恐るエミールに尋ねる。
「いや、先ほども言ったが、『妖精』は気まぐれなんだよ。誰も探すという概念はないだろう。また会えたらいいな、くらいのものだ。それよりちょっと頼みがあるんだが……」
エミールはそう言うとユレシアを見た。
「私に、ですか?」
ユレシアが驚いていると、エミールは頷いた。
「実は明後日王城に出向くことになったのだが、私に縁談を用意していると書いてあってね……」
エミールの言葉に、その場にいた全員が首を傾げた。
何故、エミールの縁談に、ユレシアが関係あるのかと。
「……まさか、男の恋人がいるというフリですか!?」
カロリーヌは目を輝かせながら言う。
テシアの件があったからか、カロリーヌは思考がそちらに寄っているようだ。
「エミール様! ユレシア様、とるの、ダメです!」
サツキは本気で焦っている。
「うん、いらないからね、男の恋人は。普通そっちにはいかないよね。そうじゃなくて、後継問題なんだよ、この話は」
エミールは呆れながら溜息をついた。
「ユレシア様に、後継のフリを、ということですか?」
カロリーヌはかなり残念そうにエミールに尋ねる。
ユレシアは、何故残念そうなんだ、と思いながらエミールを見る。
「それは、恐れ多いです……」
「いや、フリではない。ユレシア君、本当に、私の養子にならないか?」
室内が、しんと静かになる。
「え、いえ、私なんかが、エミール様の養子……」
ユレシアはあからさまに動揺して、上手く話せないでいた。
王家の血筋も入っているランドン伯爵家の養子?
貴族学院も出ていないのに、そんな資格があるのか?
ユレシアの様子を見て、エミールはふっと笑った。
「私なんか、などと言うのはやめてくれないか。私の目に狂いがあることになる。悪いがユレシア君の事は公国の調査を始めた時に調べたんだよ。まあ、女遊びも本当だったが、イルベルト領の改革も本当だった」
「あ……、すみません……」
自業自得だが、どこまでもつきまとう「女遊び」に、ユレシアは肩を落とした。
「ユレシア様、寂しかった! 今サツキいる、もうしない!」
「サツキさん! それが片言失言なんですよ! フォローのようでユレシア様の情けなさが増しています!」
「うっ……!」
サツキとルルが、ユレシアの傷をえぐる。
カロリーヌはクスクスと笑っている。
それを見て、エミールも笑った。
「私はもう結婚する気はないし、ランドン家は政略結婚をよしとしていない。私の父も養子だったから、すでに血筋も関係ないんだ。今決めてくれとは言わないが、イルベルト男爵とも話して前向きに考えて欲しいんだよ」
「し、承知しました」
ユレシアは頭を下げる。
「エミール様、質問してもよろしいでしょうか?」
カロリーヌは右手を小さく挙げる。
エミールは「ああ」といい、カロリーヌはコホンと咳払いをする。
「本当にご結婚はなさらないのですか? 良いご令嬢ならいらっしゃると思いますが?」
「カロリーヌ嬢にそれを言われるのは辛いな。確かに無難で見目の良いご令嬢はいるよ。でも、そのご令嬢に付随する『家』や『家族』まで考えると条件に合う方はいなのだよ」
エミールは不敵な笑みを浮かべる。
「ご令嬢全員を調べたのでしょうか?」
カロリーヌも微笑む。
「ああ、調べたよ。だから王家からの縁談も詳細を聞く必要がない」
エミール・ランドンという男は、思っている以上に狡猾な人物のようだ、とユレシアは息を呑んだ。
「分かりましたわ。ではもう一つお伺いいたします。何故ユレシア様なのですか? ユレシア様は貴族学院も出ていませんし、イルベルト男爵の庶子ですよ?」
カロリーヌは意地悪く言う。
それは、ユレシアが聞きたかったことだ。
やはりカロリーヌには敵わない。
「貴族学院は今から指定論文で卒業を目指せばいい。そしてイルベルト男爵家は叙爵されたのが30年前と新しい家だから貴族の繋がりがなく何の害にもならない。長男と次男はミリアム子爵家やロウラン子爵家と繋がりがあるが、ユレシア君は庶子だからこそ何もない。あとは……」
エミールはつらつらと語った後、サツキを見た。
「ユレシア君が息子になれば、サツキが手に入る」
「なっ……!? サツキが目当て……!?」
ユレシアは立ち上がった。
エミールは「なあ、ユレシア君」とユレシアを見る。
「アリエノール様の娘であるサツキは、赤子の時に親から離され、かなりの苦労をしたのではないか? こちらに来てからも身分は奴隷で、言葉も通じなくて……。何故サツキがそんな目に遭わなくてはいけないのか私には分からないんだよ。だから私はサツキのただ1つの願いくらいは叶えてやりたいんだ。その願いは君が一番よく知っているだろう?」
「はい……」
ユレシアがサツキを見ると、サツキは大きく頷いている。
『ユレシアと一緒にいる』とサツキはいつも言っている。
こんな自分と一緒にいるために、頑張ると言ってくれている。
「私たちは同志なんだ。一緒にサツキの願いを叶える同志なんだよ」
「はい! よろしくお願いします……!」
エミールの言葉に、ユレシアは大きな声で答えていた。




