47.ユレシアと貴族学院
『幻想冒険譚』の作者に会いに行く日の午前、ユレシアとサツキは早速行動を始めていた。
ユレシアとサツキの部屋にカロリーヌとルルを呼び、サツキは身分制度と文字の勉強をルルと1対1でやり、ユレシアは貴族学院の話をカロリーヌから聞いていた。
「貴族学院は、10代の貴族令息と令嬢がほとんどですわ。もちろん無理ではありませんが、ユレシア様が通うとなると、少々目立つかもしれないですね」
カロリーヌは、微笑みながら言う。
「さすがに10代には見えませんからね」
ユレシアは苦笑する。
「難易度は上がりますが、指定論文を提出して卒業する方法もございますわよ?」
「指定論文、ですか?」
「貴族令息の中には、すでに領地経営に携わっている方もいますので、そのような方は、学院に通わず、論文を提出して卒業するのです」
「なるほど、そちらの方が現実的ですね……」
真剣な表情のユレシアを見て、カロリーヌはふふっと笑う。
「わたくしではなく、エミール様に伺ってはどうですか? ランドン伯爵家は代々、貴族学院の論文審査をしておりますのよ?」
「そうなのですか! ランドン伯爵家は王家とも繋がりがありますし、普通の伯爵とは違うのですか?」
カロリーヌは、フゥと息を吐いた。
「ユレシア様は、貴族社会に本当に興味がありませんのね。割と有名な話なので言いますが、ランドン伯爵家は元は公爵家なのですよ」
「ええっ!? 二段階落ちたということですか!?」
ユレシアは驚きを隠せないでいた。
一体何があったら二段階降爵するのだろう……?
「……エミール様の曾祖父様の代ですので、もうずいぶん前のことですけど、曾祖母様が王家の方への刃傷沙汰をおこしたのです」
カロリーヌは目を伏せる。
「き、聞いたことがあります。ランドン伯爵家のことだったのですね。でも確か、事件を起こした夫人は王家の出であったと……」
ユレシアは記憶をたどり寄せるように言う。
「その通りですわ。事件を起こしたランドン公爵夫人は、当時の王の姪でした。とはいえ、王家への反逆罪です。ランドン公爵家は責任を問われ、二段階降爵となったのです……」
「反逆罪を犯して、伯爵位になったのに、王家と繋がりがあるままなのですか?」
「元々、ランドン公爵夫人は問題のある方だったのです。王家で手に余り、ランドン公爵家に降嫁されたのですよ。王家も責任を感じているのでしょう」
カロリーヌはそう言うと、溜息をついた。
手に余るからと、臣下に嫁がせた……。
この状況は、ケルバート伯爵夫人と全く同じである。
「エミール様は、ご結婚されていませんよね?」
ユレシアはハッとしたように言う。
「そうですね。きっと奥様を選ぶことに慎重なのでしょう……」
カロリーヌがユレシアから目をそらして答えたところで、ルルが温かい紅茶とクッキーを持ってきた。
「本当でしたら、お嬢様が、伯爵夫人でしたのに……」
ルルは紅茶とクッキーをローテーブルに置きながら悔しそうに呟く。
それに関しては、ユレシアもそう思う。
しかし、カロリーヌに二度と求婚しないというシャルモン侯爵家との約束を破る訳にはいかないだろう。
「もう流れたお話ですわ。ご縁がなかったのですよ」
カロリーヌは微笑んで、温かい紅茶を飲む。
「こうなったら、サツキさんを公国の姫と証明して、ランドン伯爵に押し付け、んんっ、婚姻させましょう! そうしてお嬢様の研究の功績の件を何とかしてもらうのです!」
ルルがとんでもない事を言い出した。
「いえ、サツキは……」
「サツキはユレシア様と結婚します!」
ユレシアがルルに言う前に、サツキがルルの後ろに来てキッパリと言う。
「結婚、約束しました!」
「うん、そうだけど、相変わらず全部言っちゃうんだね……」
ユレシアは苦笑する。
「まあ! それでユレシア様はやる気になっているのですね! 真実の愛ですわ!」
カロリーヌは目を輝かせる。
「サツキさん! どう考えても出世するかどうか分からない男爵子息より、お金持ちの有力伯爵ですよ!」
ルルは、部屋に山積みになったままの贈り物を指し示す。
確かにそのとおりだがルルは厳しい、とユレシアは肩を落とす。
サツキは贈り物の箱をチラリと見る。
「サツキ、これいらない。ルルさん、あげる」
「うわっ!? この『片言失言妖精』はとんでもない事を言いますね!? それ絶対にランドン伯爵に言ってはいけませんよ!? 卒倒してしまいますよ!!」
ルルはサツキの両肩を掴んでガタガタと揺らす。
「あー、すまん、もう聞いてしまったんだが……」
振り向くと、卒倒こそしてはいなかったが、明らかに落ち込んだ様子のエミールがドア前に立っていた。




