46.沙月の気持ち
す、すごかった……。
早朝の微かな光が差し込むベッドの上で、沙月はボンヤリしていた。
隣には規則正しい寝息をたてるユレシアが眠っている。
こういうことって、一晩に何回もすることだったのか。
キスの回数も、多かった……というか、ずっと塞がれていたような気がする。
しまった。
先日、一瞬日本に戻って、スマホが手元にあったのに、このことについて調べるのを忘れてしまっていた。
……そういえば、スマホの電源、切れていなかったな。
場所を移動した時に、服や持ち物が変わったりなくなったりもかなり不思議だけど、そもそもその物は、どこにいったのだろうか。
孤児院の読書室に置きっぱなし?
濃紺のパンツスーツが人型に置いてあって、バッグと靴がころがっている?
うーん、軽くホラーだし、多分違う。
この世界に来たきっかけは、電車で背中を押されたことだ。
濃紺のパンツスーツは、その時に着ていた服なのだ。
エミール様の寝室に出た時は、第2王子の3階の部屋から飛び降りた時に着ていた赤いドレスだった。
でもまさか、寝室に出るとは思わなかった。
夜だったし、室内で助かったけど。
そういえば、この世界に初めて来た時は、身に覚えのないワンピースを着ていた。
これ、どういうことなのだろう?
沙月自身、いつ着替えているのかさっぱりわからない。
「……サツキ、起きてるの?」
考え事の途中で突然ユレシアから声をかけられた沙月は、驚いて「ハイ!」と返事をした。
「まだ早いな……」
ユレシアは、のそのそと沙月に覆いかぶさる。
「ユ、ユレシア……?」
「もう1回、いい?」
「え?」
待って!
朝もするものなの?
これ、普通!?
「ユレシア! 何回も、ふつう!?」
思わずストレートに聞いた沙月に、ユレシアは微笑んだ。
「うん、普通」
そ、そっか。
普通なら、いいのか……。
見るとユレシアは肩を震わせて笑っている。
「ユレシア、うそ!?」
「嘘じゃないよ。サツキは可愛いなぁって思っただけ」
可愛い!?
「ユレシア、女遊び! 口すごい!」
「口すごいって、口がうまいってこと? 女遊びに関しては……、そうだね、ちゃんと反省するよ……」
ユレシアはそう言うと、沙月からどいて起き上がり、ベッドに置いてあった服を着て、沙月にも服を渡す。
沙月は、もう1回はやっぱり嘘だったのか、と思いながら服を着てユレシアの隣に座った。
「俺、サツキの言ったとおり、寂しかったんだ。貴族として中途半端で、何にもなれなくて、どうせ平民になるからって全部諦めて、女の人になぐさめてもらっていた」
ユレシアの話す言葉は、多分全然カッコ良くないのに、沙月にはすんなりと入ってきた。
「でも、沙月が第2王子に攫われた時、驚くほど何も出来なくて、自分に幻滅したんだよ」
「身分制度、悪い……」
「そうだね。でも、俺は沙月とは違って、そんな事は百も承知だったんだ。知っていたのに、今まで何もしなかった」
ユレシアは沙月を見る。
ユレシアの緑の瞳に、沙月が映っている。
「俺はこれからは、全力でやる。サツキが奴隷でも、公国の姫でも、ちゃんとサツキと一緒にいられる身分を手に入れてみせる。女遊びもしない。どれくらいかかるか分からないけど、やってみせる」
こういう時、なんて言ったらいいのだろう。
ユレシアの瞳が真っ直ぐすぎて、かける言葉が見つからないよ。
頑張るユレシアに寄り添いたい。
一緒に頑張りたいってちゃんと伝えたい。
「あの、ユレシア、サツキ、身分、勉強する」
これじゃあ、伝わらない。
「ん? もう勉強してるよね?」
沙月は首を横に振った。
「身分、きらい。納得できない。でも、知識ないはダメ……。サツキ、ユレシア邪魔しない。助ける。だから、サツキ、ユレシアと結婚したいです」
結婚は唐突すぎたかも!
でも、ずっと一緒にいたいは、結婚であっているよね?
沙月がユレシアを見ると、ユレシアは顔を覆っている。
「ユレシア?」
「……ごめん、感動して……。うん、俺たち、結婚しよう。夫婦になって、ずっと一緒に暮らそう……」
ユレシアと結婚して、ずっと一緒に暮らす。
それは、すごく幸せだ。
沙月の瞳から、涙があふれていた。
たくさん勉強しよう。
身分制度をちゃんと理解して、文字も覚えて、諦める前に頑張ろう。
ユレシアと一緒に、頑張っていこう。




