44.ユレシア、サツキと再会する
サツキが消えた次の日の午前、カロリーヌとルルが本屋に『幻想冒険譚』の作者について調べに行っている間、ユレシアは王都の貴族用ホテルで婚姻の契約書の下書きをしていた。
昼食は別々と言っていたのでまたルームサービスでもとるか、と部屋を出ると、通路をこちらに向かってくる大荷物が目に入った。
「ユレシア・イルベルト男爵子息様でしょうか?」
大荷物の先頭にいた貴族家の使用人らしき男がユレシアに話しかける。
「そ、そうですけど、これは……?」
「ランドン伯爵からサツキ様への贈答品でございます。お部屋にお運びしてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。……ええっ!?」
ユレシアのワンテンポ遅い驚きを全く気にしていない男は、後ろにいた使用人に命じてホテルのユレシアの部屋にどんどん荷物を運び入れる。
「あ、あの、ランドン伯爵はどちらに……?」
ユレシアは何とか男に尋ねる。
「旦那様はサツキ様と洋品店を回っておられます。夕刻までにはこちらにみえますのでそれまでお待ち下さい」
男は平然と答えた後、ユレシアに一礼して通路を引き返していく。
「洋品店……? え? まだ何か買うつもり……? ていうか、サツキを連れてきて下さいよ!」
ユレシアはクローゼットから上着をとると、とにかく、街に向かって走り出した。
ユレシアは、王都はイルベルト領とは全然違う、ということを忘れていた。
洋品店の数が多すぎて、サツキとランドン伯爵を見つけられないのだ。
「これは、大人しく待っていた方が良かったか……?」
あの洋品店を最後にするか、と店内を覗くと、大量買いをした客がいたようで、荷物を抱えた女性店員が出てきてぶつかりそうになった。
「も、申し訳ありません!」
女性店員は荷物が多すぎて前が見えない状態で謝っている。
これはさすがに危ない。
「いえ、あの馬車まで運ぶのですか? お手伝いしますよ」
ユレシアは荷物をひょいと持ち上げ、馬車まで持って行く。
「そんな、申し訳ありません!」
「危ないですよ、少しずつ運ばないと……」
ユレシアは馬車の家紋を見て、荷物を落としそうになった。
家紋はランドン伯爵家の紋である。
あのオジサン、なにやってるんだ!?
ユレシアは急いで店内に入り、さらに何かを購入しようとしているランドン伯爵に向かって叫んだ。
「ランドン伯爵!」
「ああ! ユレシア君」
「ユレシア様!?」
試着室から、下着姿のサツキが飛び出してくる。
「サ、サツキ!? ちょっと待った! 服、服が途中だから!」
ユレシアは慌ててサツキを試着室に押し戻す。
「ユレシア様! サツキ、服、いらない!」
サツキが試着室から叫んでいる。
「わ、分かった、ちょっと待ってて……」
ユレシアは、んんっと咳払いをする。
「ランドン伯爵、ここまでサツキを連れてきていただき、ありがとうございます」
「ああ、それはいいんだよ。私も王都に来る用事が出来たからね」
ランドン伯爵は言いながらも支払いを済ませていく。
「あの、今ご購入されているお品物は、誰の物でしょうか……?」
ユレシアは積み上がる商品を横目で見る。
「サツキのだよ。どれも彼女を彩るには不足な気がするんだが……」
やっぱりか!
というか、サツキはランドン伯爵の恋人ではない!!
「お心遣い大変ありがたいのですが、その、それ以上は、部屋に入りきらないと申しますか、サツキには身にあまります故……」
すると、服を着替えたサツキが試着室から出てきた。
「エミール様! 服、もう、いい!」
名前呼び!? と、ユレシアはギョッとする。
いや、サツキは、ルルの指導により貴族を許可なく名前で呼んではダメということは知っているはずだ。
ということは、名前で呼べと言われたということで、え? まさか、たった一夜で2人はそういう関係になってしまった……!?
こちとらひとつ屋根の下でも2ヶ月以上かかりましたけど!?
「サ、サツキ、昨夜元の世界に帰って、その後どうしたの!?」
ユレシアはサツキの両肩を掴んだ。
「え!? 元の世界、後? あ! エミール様、ベッド(の部屋)、ぽんっ(と移動した)!」
「エミール様、ベッド、ぽんっ!?」
ユレシアはガクッと膝をついた。
「ち、ちょっと! 片言恐ろしいな! ユレシア君、言っておくけど何もないから! とりあえず君のホテルに戻って話そうか」
ランドン伯爵は、サツキが着ている服の支払いを済ませながら言う。
何もないのに、名前呼びとこのプレゼントの量は一体何なのだ!? とユレシアは立ち上がることが出来ないでいた。




