42.ユレシアとカロリーヌの仮定
「そんな面白そうなことに、わたくしを置いていくなんて、ユレシア様はひどいお方ですわ!」
ホテルのカロリーヌの部屋に朝食のルームサービスを頼み、ユレシアが昨夜の「サツキ失踪事件」の経緯をカロリーヌとルルに話したところで、カロリーヌは叫んだのだった。
「お嬢様! 話の論点はそこではありません! 私、ユレシア様はもう少し冷静な方だと思っていました。一歩間違えれば、お家取り潰しだったのですよ! お嬢様のことをどうなさるおつもりだったのですか!?」
ルルは紅茶を淹れながら、ユレシアを睨む。
確かにルルの言うとおりだ。
「それに関しては、本当に申し訳ありません。以後軽率な行動はしないように致します」
ユレシアはカロリーヌに頭を下げる。
カロリーヌはルルの淹れた紅茶を一口飲んで微笑む。
「謝罪を受け入れますわ。それにしても、『妖精』とは面白いことになりましたわね」
「サツキさんのどこが妖精なんですか! 確かに見た目はお綺麗ですけど、片言なのに失言が多すぎますよ! 普通、食べ過ぎて死ぬって王子に言いますか!?」
ルルはユレシアの前に、紅茶をガチャンと置く。
「それは、私もそう思いますけど……。あ、ルルさんも座って下さい。食べながら話しましょう。それで、カロリーヌ様、『妖精』が面白いのですか?」
ユレシアは苦笑しながら、カロリーヌに尋ねる。
「ええ。今は各地に『妖精』を題材にした物語がありますが、実は妖精の物語は、公国が発祥なのですよ」
「そうなんですか。それは知りませんでした。でも、実話ではないですよね?」
「実話ではないと言い切れますか? ね、そう思いませんこと?」
カロリーヌはユレシアに向かって楽しそうに笑う。
「お嬢様はいつもそうですよね。まず本当だと仮定して研究を始めますよね」
ルルはパンをちぎりながら言う。
「なるほど、本当だと仮定……。カロリーヌ様といるといろいろ勉強になります」
ユレシアは頷く。
カロリーヌとルルは顔を見合わせる。
「わたくしも勉強になりますわ。ユレシア様はその素直さで年上の女性を落とすのですね」
「『女狂い男爵庶子』と『片言失言妖精』でお似合いですよ……」
「もう、勘弁してください……」
ユレシアは肩を落とす。
「まあ、冗談はこれくらいにしまして、その妖精なのですが、とても臆病とされていまして、能力の1つに、『危険を察知して妖精の国に隠れる』というものがあるのです」
カロリーヌは指を一本立てながら言う。
「妖精の国に隠れる……。場所移動、ということですか……」
ユレシアは呟きながら、第2王子が「妖精の国」と言ったのもあながち間違いではなかったのかと頷いた。
「ええ。わたくし、場所移動だけでしたら、服が変わったり荷物がなくなったりする必要はないと思いますのよ」
「た、確かに。サツキは服や荷物を妖精の国で変更しているということですか?」
ユレシアは前のめりになって言う。
「サツキに自覚はないようですが、そう仮定して話を進めましょうか。そして、移動する場所ですが、妖精の国からは、決まった場所にしか行けないように思います」
カロリーヌは早速「仮定」して話を進める。
「決まった場所は、サツキの元いた世界ですね!」
「仮定」すると話が進む! とユレシアはさらに前のめりになる。
「そうです! そこともう一つ、ランドン伯爵領です!」
カロリーヌも前のめりになる。
「お2人とも! 白熱して顔が近づきすぎています!」
ルルは大声で2人を制する。
ユレシアとカロリーヌは、ハッとなり離れたが、すぐにカロリーヌが話し出す。
「何故その2つなのかということですが、まずは、『安全』ですわね」
「そうですね。ランドン伯爵領は『保護』という考え方が徹底しています。他の領で身元不明の女性がフラフラしていたら危ないですね」
ユレシアは頷く。
「きっとサツキの元いた場所も安全だと思います。事実サツキは18年間『移動』をしていません」
カロリーヌも頷く。
「でも安全な場所なら他にもありますよね? 妖精的に何かあるのでしょうか?」
ルルも参戦する。
「波長が合う、とか?」
ユレシアは腕を組む。
「波長はあるかもですね。他には、サツキに決定権はなく、誰かが、もう、そこに移動するように決めている……のかもしれませんわね」
カロリーヌは不敵に笑う。
「誰か……、もしかして、サツキの親ですか!?」
ユレシアはランドン伯爵が言っていた「アリエノール様」を思い出す。
「そうです。『アリエノール様』です。サツキの母親と仮定して、アリエノール様は、ランドン伯爵領が安全だと知っています。そして、サツキの元いた場所、つまり異世界ですが、そちらは、これです!」
カロリーヌは、『幻想冒険譚』をテーブルにドンッと出す。
「そういえば、サツキも作者に会いたいと言ってましたね!」
「まさに、そうですわ! サツキが戻ってきましたら、作者に会いに行きましょう!」
ユレシアとカロリーヌが盛り上がる横で、ルルは「あの……」と言う。
「サツキさん、18年過ごした元の世界? に帰ったのですよね? こちらに戻ってきますでしょうか……」
ルルの言いたい事はよく分かる。
この世界のサツキの身分は奴隷なのだ。
冷静に考えれば、戻ってくる意味がない。
でも、サツキは戻ってくる。
ずっと一緒にいるために、頑張ってくれる。
「戻ってきますわ、きっと」
カロリーヌはユレシアを見る。
「はい。今頃は、ランドン伯爵とこちらに向かっていると思います」
ユレシアは何故か確信を持って、そう答えていた。




