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歓楽街を禁止された男爵庶子、言葉の通じない娘を買う 〜実は彼女は日本から来た異世界人?〜   作者: 三多来定


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36.沙月、第2王子に気に入られる

 沙月は、王都をカロリーヌとルルと歩きながら、ちょっと興奮していた。


 歴史は全く詳しくないが、中世ヨーロッパ風? の建物が立ち並び、お店がたくさんあるのだ。

 着飾った人もたくさんいる。


 イルベルト領とは全然違う。

 王都は、いわゆる、東京だ。


「サツキを着飾りましょう! ユレシア様を骨抜きにするのです!」

「承知しました。でもお嬢様、私にはそこまでするほどの男性とは思えません。良い方ではありますが……」

「ユレシア様の価値は、サツキだけが分かっていれば良いのですよ!」


 カロリーヌとルルが、ユレシアのことを話しながら歩いている。


 カロリーヌの言うとおり、ユレシアの良さは沙月だけが分かればいい。

 あの緑の瞳には、沙月だけが映ればいいのだ。


 でも、何故こんなにユレシアに執着しているのだろう。

 初めて沙月に優しくしてくれた男性だから?

 諦めてきたものが多すぎる反動?

 それとも、これが、普通の「恋」?


 よく分からないけど、綺麗になったら、もっと好きになってくれるかもしれない。


 ユレシアは、年上が好きだから、大人っぽくしてもらおう。


 サツキは、あの店はどうだなどと話している2人の後を必死についていった。 


 こんなに人の多いごちゃごちゃした場所ではぐれたらシャレにならない。

 

 沙月はまだ、話せるとは言い難いのだから。





 沙月とカロリーヌとルルは、3件ほど店をまわり、買い物を済ませていった。


 もちろん、購入したのはカロリーヌである。

 

 カロリーヌはとにかく買い物が豪快で、気に入った物をポンポン買うのだ。


 この人がイルベルトの女主人になったら、ユレシアたちは破産してしまうのではないか? と沙月が不安に思うほどだ。


「サツキには、これとこれと、ヘアメイクをお願いして……」


 大変だ!

 沙月の意思なしで買い物がなされていく!?


「カロリーヌ様! サツキ、年上……」

「分かってますわ。ユレシア様は年上がお好きですものね。サツキは少々童顔ですので、メイクとヒールとドレスで大人っぽくしましょう!」


 カロリーヌはウインクをし、沙月は「はい!」と返事をする。


「サツキさんって、本当に一途ですね。私、男性のために着飾ろうとは全く思いませんけど……」


 ルルは少し呆れているようだ。

 もちろん沙月だって、人のために綺麗になろうなんて初めて思ったことだ。

 洋服は、動きやすい、洗濯しやすいが一番だと思っている。


 沙月はカロリーヌと店員に言われるがままに着替えとメイクをした。


 大人っぽいメイク、髪をアップにして、真紅のドレスとパンプスを身につけた。


「サツキ、綺麗ですわ! 公国のお姫様みたいです!」

 カロリーヌはサツキと鏡を見比べながら大絶賛する。


「公国のお姫様はシャレになりませんが……、これは本当にお綺麗ですね。ユレシア様にはもったいないですよ」

 ルルもユレシアに厳しいが褒めてくれている。


 沙月は鏡を見て、目を見開いていた。


 こんな格好やメイクをしたのは初めてだが、自惚れではなく、鏡の中の沙月は、「とても綺麗なお姫様」だったのだ。


 ユレシアに、見てもらいたい!


「でもお嬢様、この格好をしたサツキさんを出歩かせる訳にはいきませんよ」

 ルルはカロリーヌに言う。


「そうでしたわね。平民は貴族の真似をしてはいけないのでしたわね」

 カロリーヌはとても残念そうに言う。


 沙月は、また「貴族」か、と息を吐いた。

 どこにでも上下関係はあるが、この世界は本当に「身分差」が大きくて大切なようだ。

 カロリーヌやユレシアは好きだが、貴族の何が偉いのか沙月にはさっぱり分からない。

 分かるのは、沙月がこの格好をユレシアに見せられないということだけだ。


 沙月がふと顔を上げると、お店の店員たちが何やら慌てているのが目に入った。


「お嬢様、大変です! どうやら第2王子がこの店に来る様です!」

 店員から話をきいたルルが、同じように慌ててカロリーヌに伝える。


「なんですって!? サツキ、すぐに着替えましょう!」

 カロリーヌも珍しく慌てて、沙月の腕を引っ張った。


 しかしその直後、お店のドアが開き、騎士と身なりの良い付き人を数名連れた、20代半ばの高そうな服を着た金髪のでっぷりと太った男が入ってきたのだった。


 お店の店員全員が膝をついて礼をする。

 カロリーヌとルル、他の貴族のお客も、同じように礼をする。

 沙月もすぐに真似をして膝をついて礼をした。


 しかし、沙月の頭の中は1つの事でいっぱいだった。


 あれが、第2王子?

 嘘でしょ!?

 太りすぎだよ!!


 第2王子ということは、「王子様」で、この国の、3番目くらいに偉い人だ。

 これ、誰に文句を言ったらいいのだろうか。

 王様か? それとも神様?


 沙月が大混乱を起こしながら礼をつづけているなか、第2王子は金切り声で店員に文句をつけている。

 どうやら、前回仕立ててもらった服のクレームのようだ。


 ヤバイ。

 器も小さそう。


 別に王子様への夢や憧れはないのだが、それにしたって、何かを裏切られた気分だ。


 あたりが静かになり、太った王子がこちらに来る足音が聞こえる。


「そこの、赤いドレスの令嬢、顔を上げろ!」


 この店内で、赤いドレスを着ているのは沙月しかいない。

 沙月は青ざめた。

 まさか、平民、いや奴隷が貴族の格好をしていると、もうバレた?


「わたくし、カロリーヌ・ケルバートと申します。恐れながら申し上げたいことがございます故、発言の許可をいただけないでしょうか」

 カロリーヌは頭を下げたまま、よく通る声で言う。


 沙月から見て、貴族度が高いカロリーヌでさえ、この態度だ。

 沙月は絶対に余計な発言をしてはいけない。


「ケルバートぉ? あー、伯爵家か。なんだ、申してみよ」

 第2王子は不機嫌そうな声で言う。


「恐れ入ります。実はその者は、わたくしのメイドで、身分は平民でございます」


 カロリーヌの言葉に、第2王子は「平民だとぉ?」とさらに機嫌を悪くした。


「平民が何故このような格好をしているのだ!?」


「恐れながら、この者の結婚式の衣装を選んでおりました。男爵子息と婚姻予定でございます」

 カロリーヌは頭を下げたまま、堂々と嘘を言う。


 第2王子は、チッと舌打ちをする。


「まあ、よい。ほら、平民、顔を上げろ! 髪色からして公国の者だろう!?」


 沙月が横目でカロリーヌを見ると、カロリーヌは小さく頷いている。

 顔を上げなくてはいけない場面のようだ。


 沙月が恐る恐る顔を上げると、第2王子と側近たちがざわついた。


「ほう、これは、なかなか……」

 第2王子はじろじろと沙月を見る。


 間近で見る第2王子は、ベルトの上にブヨンブヨンのお腹が乗っていて、二重あごの顔は油ぎっている。


「男爵子息にはもったいないではないか。おい、この者を連れ帰るぞ。私の愛妾にする!」


 ……え?


「お、お待ち下さい! 彼女は……」

「拒否権などない!」


 顔を上げて発言したカロリーヌを、第2王子が一蹴する。

 カロリーヌは「申し訳ございません」と再び頭を下げた。


 これは、沙月が抵抗したら、カロリーヌが酷い目に遭う!?

 チラリとルルを見ると、ルルの口が「おっしゃるとおりに」と動いている。


 「愛妾」は「おめかけ」と同じ意味だ。

 つまり、沙月はこの第2王子の、愛人になったということだ。


 いや、愛人ならまだマシかもしれない。

 おそらく「オモチャ」だ。

 夜の相手をする、オモチャ……。


 神様は、やっぱり沙月には残酷だった。

 たった1つの願いさえも叶えさせてくれないのだ。

 

 「ユレシア……」


 沙月は小さな声でユレシアの名前を呟いていた。

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