34.ユレシアも頑張る
「昨夜ユレシア様がお楽しみの間に、わたくし、サツキのことをこのようにまとめましたの」
次の日の馬車の中、カロリーヌは白いページしかない本に書き留めた文字をユレシアに見せた。
カロリーヌの隣に座っているルルは「お楽しみ……」と呟いている。
「お楽しみの間って……。あの、カロリーヌ様、サツキに変なことを教えるのはやめてください」
ユレシアは本を受け取りながら言う。
「それで、サツキの体はどうでしたの?」
カロリーヌは身を乗り出す。
「聞いてませんね……。別に、普通、ですよ……」
ユレシアはボソボソと言う。
「行為もですか?」
「とんでもないこときくのやめてもらえますか!?」
ユレシアが本気で怒ったので、カロリーヌは「大事なことですのに……」とふてくされている。
淑女とは一体? とユレシアは溜息をつく。
「えーと、カロリーヌ様は、サツキが公国の姫で、何らかの理由で赤ちゃんの時に、不思議な力によって異世界に送られ、何らかの理由と不思議な力によって、こちらに戻ってきたと……。『何らか』と『不思議な力』が多いですね……」
ユレシアは書かれた字を読みながら苦笑した後、ハッとする。
「この説なら、サツキは異世界人ではありませんよね? 体を調べる意味ありましたか?」
「念の為ですわ。ね、サツキ」
カロリーヌは悪びれもなく言うと、サツキに同意を求める。
「はい。カロリーヌ様」
ユレシアの隣に座っているサツキも、悪びれもなく頷く。
カロリーヌはともかく、サツキが何を考えているのか、ユレシアにはさっぱり分からない。
ユレシアの困惑顔を見かねたのか、ルルが「あの、発言よろしいでしょうか」と手を挙げる。
「はい。この4人の時は、気兼ねなく発言していいですよ」
「では……、サツキさんですが、ユレシア様には片言でものを知らない純粋な女性に見えているのかもしれませんが、そんなことはありませんよ?」
ルルのピシャリとした言い方に、ユレシアは驚く。
「い、いえ、えーと、どういう意味ですか?」
ユレシアがサツキとルルを交互に見ると、カロリーヌはふふっと笑った。
「ユレシア様の攻略法を聞きにきたのはサツキなのですよ。ユレシア様が『女狂い男爵庶子』なので、不安になったのでしょう。ユレシア様は女性を落とすのが本当にお上手ですものね」
「なっ!? え? サツキ?」
ユレシアはサツキを見る。
サツキはニコッと笑った。
「ユレシア様、サツキ、頑張る」
「え、頑張るって、だって、俺は……」
ユレシアは動揺していた。
サツキには、もう自分の気持ちを伝えている。
両思いなのだ。サツキが頑張る必要はないのだ。
「女狂い男爵庶子」だから、浮気すると思われているのか?
というか、「女狂い男爵庶子」って何だよ。
誰がこんなウワサを広めているんだ?
いや、今はウワサはどうでも良くて……
「ユレシア様、サツキいた場所、頑張らない、お別れ。サツキ頑張る、ずっと一緒いる……」
サツキは必死にユレシアに言う。
「それは、ここでも同じですね。貴族でも平民でも、頑張らない夫婦は離婚しますので」
ルルは淡々と言う。
「そうですわね。おしどり夫婦は、みなさん努力家ですわね」
カロリーヌも頷いている。
ユレシアは愕然とした。
今までは、その先がない前提で、頑張っていたのだ。
ユレシアは、女性を何人も知っていても、その先は知らないのだ。
サツキは違う。
サツキの言う「ずっと」は、頑張って続けていく「ずっと」なのだ。
「俺も、ユレシアも頑張る。サツキと一緒にいたいから、頑張るよ」
ユレシアは、本当に、心からサツキにそう言った。
サツキは「一緒、頑張る」と嬉しそうに微笑んだ。
途中休憩を挟み、王都には夕方に到着した。
ユレシアが最後に王都に来たのは10年前だ。
イルベルト領の町より断然大きな建物が立ち並び、人も馬車も多い。
馬車から降りたユレシアたちは、先程決めた各々の予定を確認しあった。
「わたくしとルルは、買い物に行きますわ。王都は1ヶ月ぶりですもの!」
カロリーヌは楽しそうに言う。
1ヶ月ぶりなんて、10年ぶりのユレシアからすれば、昨日も同然である。
「私とサツキは、騎士団に向かいます。手紙は出してありますが、正式なお見合いの日時を決めなくてはいけませんので」
ユレシアの言葉に、カロリーヌは「サツキは 買い物でもよくありませんか?」と意義を唱える。
「こんなにお店がありますのよ。サツキの服や小物を買いたいですわ! ユレシア様は1人で騎士団に行ってらっしゃいませ」
確かに、騎士団は面白くもないだろう。
男ばかりだし、サツキに危険かもしれない。
「それもそうですね。サツキ、別々、いい?」
「はい。ユレシア様、行ってらっしゃい」
サツキは笑顔でカロリーヌたちについていく。
女性同士仲良くやっているので何よりである。
サツキに似合う物だったら、ユレシアも選びたかったが、ここは我慢しよう。
ユレシアは、騎士団に向かって歩き出した。
この後、とんでもない事実が判明するとは思わずに……。




