25.ユレシアは伝えたい
ケルバート伯爵家の別邸のユレシアにあてがわれた客室に、ユレシアはサツキを連れてきていた。
ユレシアは心に決めていた。
今夜は絶対にサツキに手は出さないと。
サツキは今、「奴隷」だと言われて傷ついている。
そんな時に手を出したら、「性奴隷」だと思われてしまう。
いや、もちろん、そのつもりでサツキを買ったのだが、今はもう、そんな軽い気持ちではないのだ。
身元の証明が出来ても出来なくても、サツキと生きていきたい。
そのためには、一番大事だと伝えなくてはいけない。
サツキはこの数日でかなり聞き取りが出来ているように思う。
おそらく、ユレシアの女遊びもバレている。
今日は手を出さずに、しっかり話をする。
とても残念だが、これがベストだろう。
ユレシアは、サツキをソファに座らせて、自身は部屋に備え付けられていたポットでお茶の準備をする。
「ユレシア様! サツキやる!」
サツキは驚いて立ち上がる。
「サツキは座っていていいよ。これでも実家はカフェなんだ。実はお茶を淹れるのはカラムより上手いんだよ」
ユレシアはジェスチャーを交えながら、サツキに座っていてと伝える。
「実家、カフェ、何……?」
サツキは立ったまま、呟く。
「ああ、そうか。じゃあそこから話そうか……」
ユレシアは淹れたお茶をローテーブルに置き、サツキの向かい側に腰掛けた。
「俺はイルベルト家の三男なんだけど、テシア兄さんとキサラ兄さんとは母親が違うんだよ」
サツキは驚いた顔をしている。
やはりかなり聞き取りが出来ている。
「母親はイルベルト家のメイドだったんだ。親父様が手を出しちゃったんだよ」
ユレシアは笑ったが、サツキは微妙な顔をしている。
「あ、その時には奥様とは死別していたんだよ。だから浮気ではなかったんだけど、あまり体裁は良くなくてね。母と俺は田舎にカフェが出来る家を与えられて、そこで暮らしていたんだ」
「カフェ……」
「そう、カフェ。お茶やお菓子や軽食を母が作ってお客様に出していた。俺も毎日手伝っていたんだ」
「すごい……」
何故かサツキは目をキラキラとさせている。
カフェが気になるのだろうか。
「でも俺が6歳の時に、お店がガラの悪いゴロツキの溜まり場みたいになってしまって、母は親父様に相談の手紙を書いたんだ。親父様はすぐに来てくれて、ゴロツキを二度と店に来れないように追っ払ってくれた。それでその時にさ、俺をイルベルト家に迎え入れたいって話になったんだよ」
「ユレシア様、途中……?」
「そう、俺は6歳からイルベルト家の三男になったんだよ。最初は貴族なんてって思ったんだけど、親父様も兄さんたちも妙に人が良くて、すぐに馴染んだんだ。でも3人とも脳筋で、これは俺が経営をやらなくちゃって子ども心に決心したんだよね」
ユレシアが笑いながら話すと、サツキもふふっと笑った。
「俺は、イルベルト家をもっと良くしたいんだ。いずれテシア兄さんが後を継ぐけど、その手伝いがしたいんだよ」
サツキはウンウンと大きく頷いている。
ユレシアは、ここかも、と思っていた。
ここで、そんな自分のずっと隣にいて欲しいと伝えれば、ユレシアがサツキを奴隷とは思っていないと分かってくれるかもしれない。
「サツキ、それで……」
「ユレシア様、母、会えない、さみしい?」
「え?」
サツキの目は真剣だ。
「あ、あー、そうだね。別れた時は寂しかったかな。今は手紙のやり取りだけだし、機会があれば会いに行っても……」
そうだ。
サツキを連れて母に会いに行くのもいいかもしれない。
カフェに興味があるようだし、親に会わせる行為は、ユレシアの本気度を示すことが出来る。
しかし、ユレシアが口を開く前に、サツキは「分かった!」と言った。
「ユレシア様、寂しい、だから、女遊び!」
「あ、そっちにいくんだ……」
ユレシアは肩を落とした。
出来ればそのあたりはうやむやにしたかった。
「あ、あのね、サツキ、それは昔の話で、サツキに会ってから遊んだことは……」
「ユレシア様、年上好き、母好き、寂しい!」
年上好きはカロリーヌから聞いたのだろうか。
しかも、母恋しさに、年上の女性とばかり遊んでいたと、とられている……?
いや、でも、そうではないと言い切れるだろうか。
確かに、年上の女性の、抱擁感が好きだった。
流行りの話より、お互いの弱い部分を舐め合うような、そんな展開が多かった。
ユレシアは顔が熱くなるのを感じていた。
これは恥ずかしい!
口説こうとした年下女性から、マザコンだと言われたのだ。
女遊びを責められた方がまだマシだった。
サツキはソファから立ち上がって、下を向くユレシアの横に立った。
そして、ユレシアをぎゅっと抱きしめる。
「ユレシア様、サツキいる。寂しい、ない」
「なに、それ……。それは俺がサツキに言いたかったことで……」
ユレシアもサツキを抱きしめる。
「じゃあ、サツキはずっと俺の側にいてくれるの?」
「はい。サツキ、ユレシア様、ずっといる」
ユレシアは少し涙ぐんでいた。
寂しかったのかどうかも分からなかったが、サツキがずっと側にいてくれるということに、ただ、感動していた。




