2.ユレシア、奴隷商会に行く
ガレシアに「奴隷を買っていいから、歓楽街に行くな」と言われた翌日、ユレシアは召使いのカラムと共に、馬車で3時間程かかる、ランドン伯爵が治める町に来ていた。
というのも、イルベルト男爵領には、奴隷の売買所がないからだ。
「カラムはさ、奴隷の売買をどう思う?」
ユレシアは、馬車の中で、60歳の召使いのカラムに尋ねた。
「正直申しまして、好ましくは思いません。ですが、坊ちゃんにはよろしいかと……」
カラムは今だにユレシアのことを「坊ちゃん」と呼ぶ。
「坊ちゃんはやめてよ……。で、俺にいいってどういう意味?」
ユレシアは、カラムと話す時は、自分のことを「俺」と言っている。
「ぼ……ユレシア様は、奴隷の女性を大切に扱うはずですので、その女性にとっては救済になると思われます」
「それ、俺にいいんじゃなくて、その相手にいいって話だよね」
ユレシアは、ハァーと溜息をついた。
結局、ガレシアも見抜いているのだ。
だから金貨を渡してきた。
「わかんないよー。無理矢理襲うかもしれないじゃん……」
「ユレシア様は、時間をかけて仲良くなる過程を楽しんでおられますので、それだけはないかと」
まるでいつも見ているかのようにカラムは話す。
「そうだけど、それは、その先がないから出来るっていうか……」
ユレシアは再び溜息をついた。
1日、もしくは2〜3日かけて、歓楽街の女性を誘う。
その際は、全くお金を持っていないフリをする。
まあ、実際、ユレシアはあまりお金を持っていない。
歓楽街の女性は金のない男には見向きもしない。
その最初は乗り気ではない女性を振り向かせるのがいいのだ。
もちろん最後はちゃんとお金を渡す。
「楽しかったよ、ありがとう」
と、ユレシアはどの女性にも言う。
そして同じ女性は誘わない。
先がないから、全力を注げるのだ。
「……奴隷の女性とも、先はないでしょう」
カラムは低い声で言う。
「それも、そうか……」
ユレシアは納得したように呟いて、馬車を降りたのだった。
奴隷の売買所、「スラサル商会」の中に入って、ユレシアとカラムは驚いていた。
一言でいうと、とても綺麗だったからだ。
行き届いた掃除、落ち着いた調度品、奴隷たちは並べられているのではなく、書面を見て気に入った奴隷と面会するというシステムだった。
「わたくし、少々誤解しておりました……」
カラムの呟きに、ユレシアは「俺も……」と小声で答えた。
面会室に入る前に、奴隷の詳細について書かれた書面を見るのだが、2人はここでも驚いていた。
「た、高い……!」
そう、お値段が高いのだ。
ガレシアから貰った金貨では、到底足りない。
ユレシアは、値段だけ見て、書面をパラパラとめくる。
「あ、この60歳の男性なら買えそう……」
ユレシアは書面を指差しながらカラムに言う。
「それでは、何の意味もないでしょう」
「カラムの茶飲み友だちにはなるんじゃない?」
「茶飲み友だちなら、若い女性がいいです」
「ワガママ言うなよ……」
全ての書面を見て、ユレシアは溜息をついた。
これは、ユレシアもガレシアも、奴隷のことを何も知らなかった、と言わざるを得ない。
奴隷は悲惨な状態で売られてはおらず、高級な人材だったのだ。
「条件に合う者はいましたでしょうか?」
スラサル商会の40歳くらいの男がにこやかにユレシアに尋ねてくる。
ユレシアとカラムは顔を見合わせた。
誤魔化しても仕方がない。
お金が足りないのだ。
「すみません。良い人材がたくさんいたのですが、私たちの持ち金では少々難しいようでして……」
ユレシアは書面を商会の男に返しながら言った。
むしろ、これで良かったのかもしれない。
奴隷を買わなくて済んだし、思わぬ市場調査にもなった。
「そうですか。あの、具体的にはどのような人材をお探しですか?」
お金がないと言っているのに、商会の男は会話を続けようとする。
「あ、えーと、女性を……」
ユレシアは口ごもった。
これでは、性的な奴隷を買いに来たと言っているようなものである。
お金が足りないというだけで恥ずかしいのに、恥の上塗りをしてしまった。
「……あの、1人ご希望に添えるかもしれない人材がいるのですが……」
商会の男は、書面に目を落として、言いにくそうにしている。
ユレシアは、雲行きが怪しそうな雰囲気に顔をしかめた。
問題のある女性と面会させるつもりかもしれない。
「いえ、絶対に必要というわけではありませんので……」
「坊ちゃん、面会してみては……」
カラムは小声でユレシアに言う。
その顔には「絶対に必要ですよね?」と書いてある。
どうしてこんなに信用がないのだろうか。
かくして、ユレシアは問題がありそうな奴隷の女性と面会することになったのだった。




