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歓楽街を禁止された男爵庶子、お金が足りず言葉の通じない娘を買う 〜実は彼女は日本から来た異世界人〜   作者: 三多来定


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14.ユレシアの想い

 サツキの部屋の前で、ユレシアは、サツキを抱きしめていた。


 ただ、悲しかった。

 全てを諦めているサツキを見ていられなかった。

 泣かないでほしかった。

 ユレシアが出来ることなら何でもするから、笑っていてほしかった。


 そんな少し上からの立場でいられたのは、サツキの「ユレシア様、大好きです」という言葉を聞くまでだった。


 ユレシアは、サツキを抱きしめたままサツキの部屋に入り、後ろ手でドアを閉めた。


 そしてサツキの顔を両手で挟み、半ば強引に唇を重ねる。


 同意なんて、得なかった。

 間違いなく、無理矢理にキスをした。


 でも、最初は驚いて目を開けていたサツキも、目を閉じた。

 ユレシアの軽いとは言えないキスに、答える仕草を見せた。


 このまま……と思ったところで、サツキの部屋のドアが激しくノックされた。


 ユレシアは、心臓が飛び出るかと思うくらい驚いて、咄嗟にサツキから離れた。


「ユレシア! 令嬢をほったらかして、何をしているんだ!」


 キサラの声だった。

 ユレシアは、ここでようやく来客中だったことを思い出した。

 相手は伯爵令嬢だ。

 そんな時に、サツキと何をするつもりだったのか。

 さすがに、恥ずかしくなり、顔を覆った。


「す、すみません。今行きます」

 ユレシアは声を絞り出し、サツキを見た。


 サツキは呆然としている。


「サツキ、夜、俺の部屋に来て」


「は、はい!」

 サツキは大きな声で返事をする。


 ユレシアは微笑むと、サツキの部屋を出た。


 部屋を出ると、呆れたようなキサラとカラムがいた。


「お前、何してんの!? とっとと戻れ!」

「はい。すみません……」

 キサラの怒声も、今のユレシアには全くこたえなかった。


 サツキと想いが通じていた。

 夜はサツキと過ごせる、そんなフワフワとした気持ちでいっぱいだった。






 応接室に戻ると、カロリーヌはソファに座りニヤニヤとしていた。


「あら、お戻りにならなくてもよろしかったのに」


 この令嬢の場合、嫌味ではなく本気なのだろう。


「いえ、申し訳ありませんでした」

 ユレシアは深々と頭を下げる。


 カロリーヌはプッと吹き出した。


「……え?」

「だって、全然申し訳ないなんて思っていないんですもの! いえ、嫌味ではないんですよ? ユレシア様はまだ23ですものね。お可愛いこと!」


 ユレシアは顔を赤くした。

 この令嬢にかかると、ユレシアなんて子ども扱いだ。


「わたくし、ユレシア様もサツキも気に入りましたわ。でも、結婚はやめた方がよさそうですね。サツキとは仲良くなりたいのです」


 カロリーヌは「んー」と考えた。


「そうだ! ユレシア様のお兄様と結婚しましょう! 次期イルベルト男爵ですものね!」


「え、は、はあ?」

 ユレシアは、間の抜けた声を出した。


「確か28歳ですわよね? こちらの方がしっくりきますわ」

 カロリーヌは名案を思いついた子どものような顔をしている。


「ま、待ってください! テシア兄さんに適切な女性を紹介すると……」

「それは、ユレシア様とわたくしがまとまった時の話ですよ? わたくし先程ユレシア様に振られましたもの……そうね、ユレシア様に振られたわたくしをお兄様が慰めたことにしましょう!」


 ユレシアは、口をパクパクとさせた。

 振った覚えはないし、テシアはここにいないのに慰めたことになっている!?


「ユレシア様の評判は最悪ですので、今さら悪評がひとつふたつ増えてもいいですよね?」


「そ、それは構いませんが、私、カロリーヌ様を振った覚えはないのですが……」

 ユレシアは言ってから、結婚する気はないのだから、言及するところではなかったと後悔した。


「あら、伯爵令嬢であるわたくしを放っておいて、メイドの女性を追いかけたのですよ? ユレシア様は女性を年齢で差別されないので好印象でしたのに……」

 そう言って、カロリーヌは再びニヤニヤとする。


「そ、そうですね。私はサツキを追いかけましたので、確かに……。申し訳ありませんでした」

 ユレシアは、今度は本当に申し訳ないと思っていた。


 お見合い相手の令嬢がいるのに、メイドを追いかけたなんて、貴族令嬢にとっては侮辱されたも同然である。

 ユレシアは、やはり貴族社会を分かっていないのだ。 


 しかし、カロリーヌは少しも怒った様子を見せず、微笑んだ。


「謝罪を受け入れますわ。ところで、実際、ユレシア様は、女性は何歳までいけますの?」


 どうやら好奇心の方が強いようだ。


「年齢を気にした事はないのですが、全て終わった後に年齢をきいたら47歳だったということはあります」

 ユレシアは誠意を見せる意味も含めて、正直に答えた。


「まあ! それはユレシア様が何歳の時のことですか? 騙されたとは思いませんでした?」

 カロリーヌは興奮したように、矢継ぎ早に質問をする。


「20歳でした。騙されたとは思いませんよ。とても有意義な時間でしたので」

 もう何でもいいか、とユレシアは本心を話す。


「まあ! まあ! 下は? 年下では何歳なんですの? まさか10歳くらいでしょうか!?」


「ちょ、それはないです! 私は子どもには手を出しません! 誘うのは必ず年上と決めています!」

 さすがに、ユレシアは全否定する。


「あら、サツキは子どもではありませんか!」

「サツキは18歳です!」

 ユレシアは叫ぶ。


 カロリーヌは、ふと、表情を曇らせた。


「ユレシア様、正直な話、サツキは少し、状況的にも、おかしくありませんか?」


 先程の浮かれた雰囲気が、カロリーヌから消えている。

 ユレシアは、「公国の純血」についてもききたかったことを思い出した。


「あの、カロリーヌ様はサツキのことを『公国の純血』と言いましたよね? これはどういう意味ですか?」


 カロリーヌはユレシアを見て、ハァと息を吐いた。


「ユレシア様は少々閉鎖的すぎるようですわね。貴族社会がお嫌な気持ちは分かりますが、何も知らないというのも問題です。わたくしの知っていることはお話ししますが……、とりあえずお座りになってくださいな」


 カロリーヌに言われて、ユレシアは立ちっぱなしだったことに気が付いた。


 ユレシアは、お茶のお代わりをカラムに申し付けてから、カロリーヌの前に座ったのだった。

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