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歓楽街を禁止された男爵庶子、お金が足りず言葉の通じない娘を買う 〜実は彼女は日本から来た異世界人〜   作者: 三多来定


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11.ユレシアの動揺

 ユレシアの縁談話はトントン拍子に進み、テシアとキサラがイルベルト家に2泊3日して王都に帰ったわずか1週間後、その崖っぷち令嬢がイルベルト男爵の屋敷に挨拶に来ることになっていた。


「テシア兄さんの件があります。こちらから断ることが出来ないので、女にだらしない最低男の演技をして、令嬢の方から断るように仕向けたいと思います」


 その前日の夕食時、ガレシアとカラムとジェンとサツキの前で、ユレシアは早口で「作戦」を話した。

 2人の兄が帰ってから、イルベルト家ではいつものように、使用人も全員同じ食卓に座ってご飯を食べていた。


「いや、それは、演技じゃないだろう」

 ガレシアは大真面目にユレシアに突っ込む。


「いつもの坊ちゃんでございます」

 カラムも頷く。


 料理人のジェンは寡黙なので黙っている。


 サツキはよく聞き取れなかったので黙っている。


「そうです。そのために私は女遊びをしていたと言っても過言ではありません」

 ユレシアは、またもや早口で言う。


「お前、サツキに分からないようにわざと早口で話しているだろう」

 ガレシアは呆れたように言った。


「それで、坊ちゃん、どうなさるのですか?」

 カラムはゆっくりとした口調で尋ねる。


「令嬢にサツキを妾にしたいと言い張ります」

 超早口でユレシアは言う。


「な、なんだって? 早口すぎて聞き取れなかったぞ」

「坊ちゃん、ゆっくり話してください」

 ガレシアとカラムは身を乗り出す。


 サツキは全く聞き取れなかったため、チラリとジェンを見た。


「ユレシア様は、サツキさんをお妾さんにしたいそうです」

 ジェンはかなりゆっくり、サツキに説明する。


「ちょっと、ジェン……!?」

 ユレシアはギョッとしてジェンを見る。


「おめかけ、教えて!」

 サツキはユレシアを見る。


 サツキは妾の意味が分からないらしい。

 それはそうだろう。

 妾なんて、教えたことがないのだから。


「え、あ、いや……」

 ユレシアは口ごもる。


「でも、サツキは、もう妾みたいなものだろう?」

 ガレシアはユレシアを見る。


「なっ!? 違いますよ! サツキには一切触れていませんので!」


 ユレシアの言葉に、食事部屋がしんとなる。

 サツキはやはりよく分かっていないようで、ユレシアとガレシアを交互に見る。


「い、いや、嘘だろう? 毎晩部屋に2人でいるじゃないか!」

 やっとのことで、ガレシアは大きな声を出した。


「言葉を教えているだけです! 私は最初に、仲良くなって、同意を得るまでは手を出さないって言いましたよね!?」

 ユレシアは早口でまくし立てる。


「仲良くって、もう仲良いじゃないか……」

 ガレシアは呆れたように言う。


 カラムとジェンは頷いている。


「……え?」


「2人でしょっちゅう町に買い物に行っているし、お前はサツキにいろいろ買ってやってるし、夜は2人きりで部屋にいる。とっくに同意を得て手を出しているんだと思ってたんだが……」


 ガレシアは「なあ」とカラムとジェンに言い、カラムとジェンは、先程より大きく頷いている。

 そもそもガレシアは、今までのユレシアの行動から、性欲を我慢できるとは思っていなかったのだ。


「な、何言って……、まだそこまで仲良くは……」


「え? 坊ちゃんとサツキは恋人のように見えますが……」

 カラムはユレシアのセリフにかぶせるように言う。


 ユレシアは、カッと顔が熱くなるのを感じた。

 

「と、とにかく、私が最低男だと理解していただき、令嬢の方から振ってもらいますので!」

 ユレシアはそう言うと、食器を持って厨房へ歩き出した。


「坊ちゃん、私がやりますよ!」

 カラムは慌ててユレシアを追いかける。


 サツキとジェンも席を立って、ユレシアを追いかける。

 同席してるとはいえ、ユレシアに片付けをさせるわけにはいかない。


 ガレシアはその様子を見て、「本気か……」と息を吐いた。





 片付けようとした食器をカラムに奪われたユレシアは、仕事が残っていると言い残して、自室に閉じこもった。


「恋人のように見える……?」

 ユレシアは呟きながら、椅子に腰掛ける。


 もう十分仲が良かったということだろうか。

 いや、でも、サツキはまだ言葉が話せるとは言えない。

 同意を得るには、まず言葉が必要だ。

 仲が良いからと手を出して、サツキに避けられたり泣かれたりしたら、もう話せなくなってしまう。

 サツキを泣かせるなんて、絶対にしたくない……。


 ここまで考えて、ユレシアは顔を上げた。


 サツキが泣いているところを見たことがない、と。


 サツキを買う手続きをした時も、イルベルト家に来た時も、両親に捨てられたと話した時も、サツキは泣いていない。

 隠れて泣いていた、という感じもしない。


 2ヶ月以上一緒にいたから分かるが、サツキは察しが良い。

 自分が奴隷として買われたと理解しているはずだ。


 知らない男に奴隷として買われ、知らない家に連れてこられ、怖くなかったはずがない。


 普通なら泣くだろう。

 女性はすぐに泣くのだ。


 サツキは全てを諦めている……?

 

 その上で、一生懸命働いている?

 ユレシアが買い与えた物を心から嬉しそうに受け取っている?

 ユレシアに笑顔を向けている?


「サツキ……」

 

 ユレシアは、胸の奥がギュウっと痛むのを感じていた。

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