10.ユレシアの縁談
ユレシアの兄たち、テシアとキサラがイルベルト家に帰省してきた次の日、次男のキサラが、ユレシアの部屋に押しかけてきた。
「昨夜見たぞー?」
キサラはソファにどかっと座り、ニヤニヤとユレシアを見た。
ユレシアはキサラの向かい側に座る。
「見たって何を……」
「お前がメイドを部屋に招き入れるのをだよ! やっぱり手を出していたんだな」
ユレシアは、昨晩同様、頭を抱えた。
「あの、サツキは言葉の練習をしに来ただけです。誓って手は出していません」
「そんなこと信じるわけないだろう? ユレシアが女性に手を出さないなんてあり得ない!」
キサラはキッパリと言い放つ。
ユレシアの日頃の行いが悪すぎて、全く信じてもらえない。
「そんな事をわざわざ言いに来たのですか?」
ユレシアは弁明を諦めることにした。
「いや、ロウラン子爵の伝手を頼る件で補足をと思ってさ」
キサラはユレシアが認めたので、納得したようだ。
結局、テシアの縁談の件は、キサラの婿入りしたロウラン子爵家の伝手を頼ることになったのだ。
というか、もうここしか頼るところがない。
「補足?」
「ああ。昨日はテシア兄さんの話だけの方がいいと思ったから言わなかったんだが、ユレシアにも紹介出来そうな令嬢がいるんだよ」
ユレシアは顔をしかめた。
「いえ、私は……」
「まあ、聞けって。ロウラン子爵の従兄弟の娘なんだけど、いわゆる、庶子なんだよ」
ユレシアと同じ、ということだ。
しかし、男性と女性では勝手が違う。
「それでしたら、有力貴族の第2夫人になった方がいいでしょう」
「最後まで聞いてくれよ。今、その令嬢は、30歳なんだよ。第2夫人っていうと、若い女性が好まれるだろ?」
なるほど、とユレシアは頷く。
「それでしたら、親父様の後妻にどうでしょうか」
「それがさぁ、その令嬢、オジサンは嫌だって言ってるんだよ」
「えー……」
そんなワガママな……という言葉をユレシアは飲み込んだ。
ユレシアは年上の女性はむしろ大歓迎だが、他人もそうとは限らない。
「まあ、それは、おそらく結婚させられないための口実だと思うんだ。でも、ロウラン子爵の従兄弟はその令嬢にどうしても結婚して出て行って欲しいらしい」
キサラはフーッと息を吐く。
貴族令嬢もいろいろ大変である。
ユレシアは少しその令嬢に同情していた。
が、しかし、ユレシアは結婚はしないと決めている。
どんなにその令嬢が崖っぷちでも、ユレシアと結婚をしたら崖の下なのだ。
「キサラ兄さん、申し訳ありませんが……」
「ユレシアはこの話、断れないんだよ」
キサラはニヤリと笑った。
「え?」
「この話を通した見返りで、テシア兄さんの相手を探してもらうのだから」
ユレシアは「まさか!?」と言って立ち上がった。
「考えてもみろよ。成り上がり男爵令息で婿養子の俺が、ロウラン子爵に頼み事なんて出来る訳ないだろう? 2人でテシア兄さんとイルベルト家のために一肌脱ごうじゃないか!」
キサラはアハハと笑った。
「な、なんで昨日言ってくれないのですか……」
ユレシアの声は震えている。
「テシア兄さんは真面目だから気にするだろ? ユレシアに昨夜この話をしにきたら、お前はメイドと致すところだったから、仕方なく今日にしたんだよ」
「致してないです!」
ユレシアは叫んだが、キサラはやはり信じていない。
「ま、メイドの妾がいてもいいんじゃないか? サツキだっけ? 18歳くらいになればもっと美人になりそうだし……」
「サツキはすでに18歳です! いや、それはどうでもいいですよ! サツキとはそういう関係ではないのです! 言葉が話せるようになったら島国に帰してやる予定なんです!」
ユレシアが早口でまくし立てるので、キサラは少し驚いている。
「ユレシア、お前、かなり入れこんでるんだな。確かに公国風の美人だけどさぁ……」
「話聞いてました? そういう関係じゃないって……、え? 公国風……?」
ユレシアは瞬きをして、ソファに再び腰を下ろした。
「ああ、こっちじゃあんまり見ないか。隣のフィロリア公国あるだろ? 王都には公国からの観光客が結構いるんだよ。サツキは顔立ちが公国の女性とよく似ているよ」
キサラの言葉に、ユレシアは考え込んだ。
サツキは公国の出身なのか?
いや、だとしたら、言葉が話せないのはおかしい。
公国の公用語は、王国と同じはずだ。
それに、サツキは地図を見せた時も、公国の場所には見向きもしていなかった。
キサラは考え込んでいるユレシアを見て、溜息をついた。
「メイドのことはともかく、縁談の件は進めるからな? 悪いが拒否権はない」
「え? あ、はい……」
ユレシアは、心ここに在らずで、キサラに返事をしたのだった。




