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歓楽街を禁止された男爵庶子、言葉の通じない娘を買う 〜実は彼女は日本から来た異世界人?〜   作者: 三多来定


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106/107

106. 2年後の沙月とユレシア

 沙月が日本からこの世界に来て、2年の月日が経っていた。


 いろいろな事があった。

 奴隷としてユレシアに買われて、ユレシアの恋人になった。

 カロリーヌとルルと一緒に旅をした。

 エミールに公国の姫だと言われた。

 本当の母親であるアリエノールに会えた。

 なんと妖精と話が出来る「二代目ルナベル」だった。

 父親と弟にも会えた。

 エミールの娘になり、「奴隷」から一気に「公爵令嬢」になった。



 

 沙月はベッドから起き上がり、窓の外を見た。

 外は漆黒の闇、時間は真夜中。

 日本風に言うのなら、草木も眠る丑三つ時である。

 ところで、丑三つ時って何だろう……?


 沙月はサラサラの生地の丈の長いピンクの夜着を脱いで、透けた素材のミニ丈の夜着に着替えた。

 黒いコートを上から羽織り、ボタンを閉める。


「ルナベル、もしかして夜這い?」

 沙月の目の前に、淡いピンクのバラの妖精が突然現れる。


 沙月は大声を出しそうになるのを、口を両手で押さえて堪えた。


「……明日は結婚式なんだよ。明日からユレシアと寝室が一緒になるの。つまり、夜這いのチャンスは今夜までってこと。わかる?」

 沙月は小声で妖精に言う。


「わからないよ。寝る場所が明日から一緒になるなら今日夜這いする必要あるの?」

 妖精は珍しくかなり真っ当な事を言う。


「あるよ。私の中ではね。いつも言っているけど、取り込み中になったら……」

「ハイハイ、いなくなるよ。まあ、毎日楽しいのはルナベルのおかげだしね!」


 バラの妖精は沙月の頭の上に座る。


 2年前、沙月の考案した「妖精ランド(仮)」は、「フェアリーパーク」として王都に1年前にオープンした。

 安価な入場料と引き換えに、小さな切り花を渡す。

 それを持っていると、パーク内限定で妖精と遊べるのだ。

 もちろん、パーク内で妖精をいじめるのはもってのほかで、見つかり次第、騎士に捕まる。

 とはいえ、妖精は気まぐれなので、機嫌良く遊べる日と殆どいない日がある。

 それもまた、リピーターを増やす要素となっていた。


 切り花は出口で完全回収しているが、万一外に持ち出されても1日で枯れてしまうし、水をやっても妖精が見えるという効果は持続しない。


 パーク内にはレストランやカフェ、ショップがあり、大人も楽しめるし、デートスポットとしても人気を博している。


 沙月は妖精グッズのデザインと考案を主にやっているが、時々「町娘サツキ」としてレストランでも働いている。

 所作が貴族っぽくないおかげで、パークのアンバサダーの「妖精母娘」と同一人物だと全くバレなくて面白い。

 

「それにしてもさぁ、結婚まだしてなかったの?」

 部屋を出て、薄暗い廊下をそろそろと歩く沙月に、妖精は言う。


「私だって早くしたかったけど、ユレシアが貴族学院を卒業するまでダメだって言われたの」


 ユレシアは1ヶ月前、晴れて貴族学院を卒業した。

 公爵家の領地経営をしながらだったので、かなり大変だったようだ。


 なにせ、エミールが公爵になったことにより、領地が拡大してしまったのだ。

 エミールも日々とても忙しそうで、アリエノールがよく心配している。


 沙月だって、この2年は、家庭教師から言葉と文字と作法をみっちり教わっている。


 家庭教師は、ルル先生より優しい。


 そう、カロリーヌとルルは、沙月が公爵令嬢になってすぐにイルベルト家に移住した。

 沙月は後になって知ったのだが、テシアはエルレンとすでに別れており、騎士職を離れてカロリーヌと共にイルベルト領で経営をしている。

 なんと、1年前にはテシアとカロリーヌの赤ちゃんも誕生したのだ。

 とても元気な男の子で、イルベルト子爵家の後継である。


 心配していたカロリーヌの研究の功績も、ちゃんとカロリーヌ自身のものになっている。

 ケルバート伯爵も、ユレシアの作った契約書と功績の数値化の書類の前に、功績を横取りする事は出来なかったようだ。


 子爵となったガレシアは、なんと王家の専属騎士隊の隊長になった。

 王城に住んでいるので、時々会うことが出来るのは嬉しい。


 キサラも騎士職を離れてロウラン子爵家で経営の勉強をしている。

 キサラと奥様のクロエにも、半年前に第一子である男の子が生まれたので、こちらも喜ばしい。


 しかし、イルベルトは男しか生まれない。

 沙月もきっと男の子を生むのだろう。




 沙月はユレシアの部屋のドアを静かに開ける。


 書斎の奥に、寝室がある。

 寝室のベッドにユレシアが寝ている。

 まさか結婚式当日に夜這いに来るとは思ってもいないだろう。


 沙月は少し考えて、黒いコートを脱いでからユレシアを起こさないように、ベッドに潜り込んだ。


「夜這いって、隣で寝る事なの?」

 妖精は沙月の顔の横で首を傾げる。


「うん。起こすのも可哀想だし、眠くなったし、私も寝るよ。おやすみ……」


 妖精も「おやすみー」と言ってふっと消えた。






 窓から差し込む薄白い光で、ユレシアは目を覚ました。


 今日は結婚式だ。

 まだ早そうだが、式の前に仕事を1つ片付けて……、そんな事を考えながら隣を見ると、サツキがスースーと寝息を立てている。


「うっ!?」

 ユレシアは大声を出しそうになり、慌てて口を手で押さえた。


 いつ自分のベッドに来たのだろう!?

 全く気付かなかった!

 結婚式当日に夜這いに来るなんて、何を考えているのか。

 というか、夜這いになっていない。

 どうせ、来たものの眠くなって寝てしまったのだろう。


 いや、これはマズイ。

 花嫁の準備は、男の何倍もの時間がかかるはずだ。


「サツキ、起きて!」

 ユレシアはサツキの肩を揺らす。


「ううーん……」

 ゴロリと寝返りをうつサツキの夜着を見て、ユレシアはギョッとする。


 これは、サツキの夜着ユレシア的1位の「透けミニ妖精夜着」である。


「な、なんだ、この誘惑は……!」

「うーん、あ、ユレシア様、夜這いにきましたぁ……」

「いや、寝てたよね……」


 ユレシアは肩を落とす。


「あれ? もう朝?」

「うん。まだ早いけど、部屋に戻った方がいい。花嫁の準備は早朝からだから、メイドさんたちが心配するよ」

「大丈夫です。夜這いに行くって手紙を置いてきました……」

「それ、大丈夫じゃないやつ!!」

 ユレシアは早朝という事を忘れて大声を出す。


「……分かりました。ユレシア様、キスだけしてください。そしたら帰ります」

 サツキは体を起こし、寝起きのトロンとした目でユレシアを見上げる。


「キスだけしたら、帰る……」

 ユレシアは思わず復唱する。


 透けミニ妖精夜着のサツキに、キスだけして部屋に帰す?


「あの、俺さ、早く起きて仕事を1つ片付けようと思ったんだよ」


「そうでしたか! ごめんなさい、じゃあ帰ります」

 サツキはペコリと頭を下げる。


 ユレシアは帰ろうとするサツキの腕を掴んだ。


「本当に、仕事を片付けようと思ったんだよ!」

「え? 2回言いました? あ、大事なことってやつですね……」


 ユレシアはサツキの腕を引っ張って引き寄せ、ギュッと抱きしめる。


「ユレシア様、お仕事は……」

「もう、いいよ、仕事は……」


 ユレシアはサツキの唇を自身の唇で塞ぐ。

 サツキはゆっくり目を閉じる。


 しばらく唇を重ね合った後、ユレシアはサツキをベッドに寝かせた。


「今夜は初夜があるんだよ」

 ユレシアは真剣な目でサツキに言う。


「はい。先に初夜をしたことにしますか?」

 サツキも真剣に答える。


 そんなバカな! とユレシアはぐっと目を閉じて、少し考えて目を開けた。


「初夜は初夜でやるよ!」

「はい! 賛成です!」


 笑顔のサツキを、ユレシアはもう一度ギュッと抱きしめた。

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