107.ユレシアとサツキの結婚式【最終話】
ユレシア・イルベルト子爵令息とルナベル・ランドン公爵令嬢の結婚式は、王城の中の教会で行われた。
サツキは純白のウェディングドレスとヴェールを身に纏い、妖精なのか天使なのか、とにかくとても輝いていた。
来場者全員サツキに注目しており、同じく純白の式服のユレシアはオマケ程度の扱いだった。
披露宴は、2年前に晩餐会が行われた王城内のバンケットホールで行われた。
披露宴は立食式で、ダンスのない夜会のような感じだ。
全て王城で行われたのは、ランドン家が公爵という事もあるが、ルナベル・ランドン公爵令嬢がレイサム王国にとって重要人物であるからに他ならない。
「サツキ! 今日も本当に綺麗だな! 妖精か天使かわからんぞ!」
第2王子がユレシアとほぼ同じ感想を言う。
なんと、この2年で第2王子は、痩せたのだ。
予想通り、痩せると第1王子とよく似ており、実は結構優しい性格も相まって、先日クレール公爵令嬢と婚約を発表した。
「ありがとうございます。王子もカッコよくなりましたね」
「サツキの言う通りにしたからな! 次はアレだ、筋肉だな!」
「筋肉ですね! ガレシア様にお願いしましょう!」
サツキと第2王子は盛り上がっているが、ガレシアにお願いしたら、第2王子はただでは済まないだろう。
「ルナベル! ああ、本当に綺麗だ!」
サツキの実の父親のベンジャミンは、すでに涙を流している。
「お父様! ありがとうございます!」
「お姉様、馬子にも衣装ですね?」
背が伸び、かなり凛々しくなったコンラッドが嫌味をまじえながら言う。
「コンラッド、ニイナと婚約しましたか?」
サツキは動じず、コンラッドに尋ねる。
「はあ!? するわけないでしょう! ふわふわ女だけは絶対にごめんですよ!」
実は、「公国の純血」であるニイナ・ハミルトン公爵令嬢(12歳)はコンラッドにご執心なのだ。
しかし、コンラッドは「公国の純血」だけは絶対に嫌だと彼女を避け続けている。
「実際、コンラッドとニイナ嬢では血が濃すぎるからなぁ。なるべく避けたいところだが、2人が愛し合っていると言うのなら……」
「だから! 全く愛し合ってません! お父様は何を見てそう思ってるのですか!?」
コンラッドは顔を真っ赤にして叫んでいる。
彼はこれからも苦労しそうである。
「ユレシア! サツキ!」
テシアとキサラとカロリーヌとルルがこちらに手を振っている。
「カロリーヌ様! ルルさん!」
サツキは嬉しそうに2人に駆け寄る。
「サツキ、とても綺麗ですよ!」
「サツキさん、おめでとうございます!」
3人は再会の懐かしさと嬉しさできゃあきゃあと騒いでいる。
「あれ、キサラ兄さん、クロエ様は?」
ユレシアは周りを見回した。
「あー、それがさ、2人目出来ちゃって、つわりが酷くて来られなかったんだよ。俺も心配だから挨拶終わったらもう帰るよ」
キサラは照れ笑いをする。
「そうでしたか! おめでとうございます!」
つわりは軽視できないが、おめでたい話である。
「あ、あー、ユレシア、私も2人目が……」
テシアが顔を赤くしてモゴモゴと言う。
「え!? そうなんですか!?」
ユレシアは振り向いてカロリーヌを見る。
カロリーヌはお腹を押さえながらサツキに何やら説明しているので、その話をしているのだろう。
「やっと安定期に入ったんだ。結婚式には絶対に行くと言っていたから良かったよ」
テシアは愛おしそうにカロリーヌを見つめる。
テシアとカロリーヌは、とても仲が良い。
結局はお互いを尊敬していることが一番大切なのかもしれない。
そういえば、ルルにも騎士の恋人が出来たらしいが、ユレシアがその話題を出すのも野暮だろう。
「イルベルト子爵家は安泰ですね」
ユレシアが笑うと、テシアはハッと思い出したような顔をした。
「ユレシア、子どものこともあって、今、イルベルトにユリンさんに来てもらってるんだよ」
「母さんが!?」
ユレシアの母であるユリンは、結婚式と披露宴には来ていない。
もちろん招待したのだが、「そんな高貴な場所には行けない」と断られたのだ。
「忙しいとは思うが、一度サツキと一緒にイルベルトに来てくれると嬉しい。ユリンさんは何も言わないけど、きっとユレシアとサツキに会いたいと思うんだ」
「そうですね、はい、ぜひ伺いたいと……。あの、テシア兄さん、母の事、ありがとうございます」
ユレシアは頭を下げる。
「いや、助かっているのはこっちなんだよ。相変わらずスーパーメイドでね」
テシアとキサラは笑い合っている。
「おお! みんな揃ってるな!」
「ガレシア様!」
ガレシアの登場に、サツキは満面の笑みで駆け寄る。
相変わらず、ガレシア大好きである。
「サツキ、ものすごく綺麗だぞ! ユレシアにはもったいない……」
ガレシアはそう言うと涙ぐむ。
完全にサツキのもう1人のお父さんである。
そしてユレシアの事は無視である。
「なんと、キサラのところも2人目か! めでたいな! これはユレシアも頑張らなくてはな!」
キサラからクロエの妊娠を聞いたガレシアは、大きな声で言い、ユレシアの背中をバンッと叩く。
めちゃくちゃ痛い!
それに、今までは婚前だったから、出来ないようにしていただけで、決して頑張っていないわけではない!
サツキがトコトコとユレシアの隣に戻ってきて、ユレシアの手を握った。
「ガレシア様、私たち、今朝がんばりました!」
「だから、なんで言っちゃうの!?」
サツキとユレシアのやり取りに、「相変わらずだなぁ」とキサラが笑い、「失言妖精……」とルルが呆れる。
「そういう話を公の場でするんじゃない!」
振り向くと、エミールとアリエノールが立っている。
2人は先程まで、ベンジャミンたちと話をしていたようだ。
「申し訳ありません、お父様」
サツキはペコリと頭を下げる。
「エミール様、すみません。わたくしがルナベルに夜這いのチャンスは昨夜までだと教えたのです」
アリエノールもペコリと頭を下げる。
「……そんな事だろうとは思ってましたが、この話はもうやめましょうか……」
エミールは頭を押さえて溜息をつく。
「ブレませんわね、妖精母娘……」
カロリーヌは小声で呟いている。
「ほら、ユレシア君、サツキ、最後の挨拶があるだろう、行きなさい」
エミールはホールの前の方を指し示す。
「はい。行こうか、サツキ」
「はい」
サツキはユレシアの腕に自身の腕を回した。
ホールの前に向かう途中で、サツキはふふっと笑う。
「ん?」
「……すごく幸せだなぁって思ってました」
「……うん、そうだね。俺も、すごく幸せだ……」
涙が出そうになり、ユレシアは目頭を押さえる。
「泣いてますか?」
「正直……ちょっとね……。挨拶終わったら泣くかも……」
「じゃあ、一緒に泣きましょう。私たち、夫婦ですから!」
サツキは単色の淡い栗色の瞳でユレシアを真っ直ぐ見つめる。
その瞳の前に、淡いピンクの花びらがひらひらと舞い落ちた。
ふと周りを見ると、妖精たちが花びらを必死にユレシアとサツキにふりかけている。
「あ、フラワーシャワーです。妖精さんたちに、式が終わった時にしてくださいとお願いしました。何故か今ですけど……」
サツキは笑う。
妖精も、このフラワーシャワーも、ユレシアとサツキにしか見えていない。
「サツキ、ありがとう……」
「フラワーシャワーですか?」
「それもだけど……。一緒にいてくれて、結婚してくれて……、ああ、全部かな。ありがとう、サツキ」
「……ユレシア様、ずるいです! 私の方がありがとうなんです!」
「えー? 俺の方が……って、キリがないか」
2人にしか見えない花びらがひらひらと舞う中、ユレシアとサツキは、ピッタリと寄り添って、笑い合った。
完
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
この物語を最後まで見届けていただけたこと、とても嬉しく思います。
評価やご感想をいただけると、大変励みになります。
本当に、ありがとうございました。




