103.王家との関わり
捕縛された20名の男たちとヴァルモン男爵は、王家の騎士たちによって連行された。
ヴァルモン男爵の妹である王妃も、気分が悪いとホールを退出した。
バンケットホールに残されたのは、王家であるレイサム王、第1王子、第2王子、ルーファス。
ランドン公爵となったエミール、公爵夫人となるアリエノール、公爵令嬢となるサツキ。
公国の公爵であるカールとベンジャミンと公爵子息のコンラッド。
何故かイルベルト領に戻っていなかった男爵のガレシアと息子のテシア、キサラ、ユレシアである。
はっきり言って、イルベルト家だけ、浮いている。身分という点で、浮きまくっている。
「ルナベル嬢は、ガレシアが好きなのかね?」
レイサム王は、ガレシアに駆け寄ったサツキに問いかける。
「はい。ガレシア様、一緒住んでました。優しい、強いです」
サツキは王に臆することなく答えている。
「ああ、確かにそうだな。ルナベル嬢が安心するのなら一緒に話を聞いてもらおうか。ルーファス、ここにいる全員をサロンへ案内してくれ」
どうやら身分的に浮いていたイルベルト男爵家の面々も、サツキの一言で重大な話を聞かされることになったようだ……。
王城のサロンは、煌びやかで華やかだった。
金糸をあしらったゆったりした3人掛けのソファが5〜6台置いてある。
同じく5〜6卓ある金のローテーブルには、赤いバラの花が金の花瓶に活けてあり、壁には金縁の絵が並んでいる。
「普段は王妃様や公爵夫人の交流の場なのですよ。どうぞご自由にお座り下さい」
ルーファスは男性ばかりの面々に説明をする。
確かにこの金ピカ空間に、男ばかり(しかもイルベルト家はユレシア以外はムキムキ)でいるのはおかしいような気がする。
「お母様! 絵がたくさんです!」
「まあ! 素敵な色遣いですわ!」
妖精2人は楽しそうだが、公国の3人は居心地が悪そうだ。
「私とキサラは入り口付近で立っています」
テシアは無理と判断したのかキサラと共にさっさと入り口に陣取る。
「私も……」
「ガレシア様、一緒座ります!」
同じく入り口に立とうとしたガレシアを満面の笑みでサツキが引っ張る。
テシアとキサラが気の毒そうな顔でその様子を見ている。
公国の3人は同じソファに座り、エミールとアリエノールが一緒に座る。
ユレシアはガレシアの隣に座るサツキの横に座った。
「両手に花です!」
サツキは嬉しそうだが、ガレシアとユレシアではかなりお粗末な「花」である。
王家の4人は奥の一番大きなソファに腰掛ける。
「さて、まず謝らなければならない。此度の件、王国が関わっていると気づいたのはアリエノール殿が亡命してきてからだった。19年も、ヴァルモン……男爵が金銭を援助し続けていることも、ルナベル嬢を危険に晒したことも、王家は全く気付いていなかった。本当に申し訳なく思う所存だ」
レイサム王はそう言うと、頭を下げた。
「い、いいえ! 私が弱かったのです! 本当に申し訳ありませんでした!」
カールは立ち上がって頭を下げる。
ベンジャミンも立とうとしたので、ルーファスは、
「公国からの謝罪はすでにいただいております。お座り下さい」
と制する。
「500年前、ルナベル・ハミルトンが公国を建国するまでの話が、王家には密かに伝わっている。何故、『王家に密かに』なのかと言うと、ルナベル・ハミルトンの母は王家の者だったからだ」
レイサム王の話す事実に、全員が息を呑んだ。
ということは、公国の公爵家は、王国の王家の血筋ということだ。
アリエノールとサツキには、王家の血が入っているのだ。
「信じられない話だが、当時の第1王女だったグレイス・レイサムが、誰とも通じていないのに、突然身籠ったのだよ……」
ユレシアとサツキは顔を見合わせる。
妖精との子どもを身籠ったのだ!
「お父様、それは誰かと通じていたのでしょう」
第1王子は当然かのように言う。
「ああ、もちろん当時の王もそう判断したのだよ。とんだ醜聞だと嘆き、グレイス王女をハミルトン公爵家に降嫁させたのだ。そうして生まれたルナベル・ハミルトンは、単色の瞳を持ち、妖精と会話をし、空間を移動する少女に育ったそうだ」
「なるほど! 妖精と人間のハーフだったのですね!」
第2王子はポンと手を叩く。
「そんな訳ないだろう! まったくお前は……」
第1王子は呆れたように息を吐く。
殆どの人間は、第1王子の意見に賛成だろう。
だが、第2王子が正しい!
「真実は定かではないが、ルナベル・ハミルトンに言われるがままに、王家が公国建国の手筈を整えたのは間違いないのだよ。国を作るというのは大変なことだ。1人の少女が出来ることではない。移住する貴族や平民の選定、建物の建築、全て王国がやったのだ」
「不貞を働いた者の娘のために、何故そこまでやったのですか!?」
第1王子は納得できないようだ。
「ふてい違います! 初代ルナベル、妖精と話しました!」
サツキは第1王子に向かって突然発言する。
ユレシアは慌ててサツキの口を手で塞ぐ。
「も、申し訳ありません! ルナベル様は……」
「ああ、よい。ルナベル嬢には発言する権利がある」
レイサム王の言葉に、第1王子はハァと息を吐く。
「ではルナベル嬢、妖精なのは容姿だけではないところが見たいですね。ぜひその『移動』を見せてください」
サツキは何故かエヘヘと笑う。
容姿を妖精と言われて照れているようだ。
「兄上、私は見ましたよ! サツキは夜空に飛んで消えました!」
第2王子は得意げに言う。
なんだか第2王子がいいヤツに見えてきた、とユレシアは頷く。
「いや、今ここで見たいのだよ……」
「『移動』、わたしの意思出来ない。危険な時だけ」
サツキは首を横に振る。
「ほら、嘘ですよ!」
「いい加減にしないか! 本当に自由自在に『移動』出来るのなら、ヴァルモン男爵の発言が正しいことになるだろう。ルナベル・ハミルトンも危険が及んだ時にだけ『移動』したとある!」
レイサム王が第1王子を制する。
初代ルナベルは、ハーフなのにサツキと同じ能力だったのか?
いや、サツキは「ルナベル」と認識する前は妖精と話せなかった。
初代「ルナベル」が力を与えているという事だろうか?
「まあ、このように、割と詳しくルナベル・ハミルトンに関しての記述が王家には残っているのだよ。しかし私は全く信じていなかった。アリエノール殿の話を聞いて、その事を思い出したくらいだ」
レイサム王はルーファスに目で合図を送る。
ルーファスは頷くと、「ルナベル様、こちらへ」と言う。
サツキはユレシアをチラッと見る。
ユレシアが小声で「王様の御前へ」と言うと、サツキはスクッと立ち上がり、王の前に跪いた。
「ルナベル嬢よ。貴殿も妖精からの無理難題に困っているのではないか? 王家としては可能な限り援助する次第だ。望みを申すが良い」
これは、すごい事だ。
王様が妖精に関して理解を示して援助をしてくれるというのだ。
「妖精と遊べる場所」の件をぜひお願いしたい!
「わたし、ユレシア様と結婚したいです!」
サツキの返答に、その場にいた全員がガクッと肩を落とす。
どうやら最後の「望み」だけ受け取ったらしい。
ユレシアは恥ずかしさのあまり、顔を手で覆った。
「ん? 身元も証明されるし、それは結婚すれば良いのではないか? エミールに反対されているのか?」
「恐れながら申し上げますと、反対などしておりません!」
エミールは呆れながら言う。
「ああ、身分を気にしているということか。ガレシアの息子だろう? ガレシアは今回の働きで陞爵するから安心せい」
レイサム王はあっさりと言う。
ガレシアは初耳だったようでソファからバッと立ち上がった。
「お、恐れながら、申し上げます! 私は今回そこまでの働きはしておりません!」
そこは断らないでください! とユレシアは心の中で切に思う。
「いや、実はヴァルモン男爵の私兵には困っていたのだよ。実力者を揃えていて隙がなくてな。ルーファスからガレシアの息子1人に王家の騎士3人が敵わなかったと聞いて、ガレシアと息子で何とか出来るのではと思い立ったのだ。そしてその通りだった。さすがは伝説の騎士だ」
「あ、ありがたきお言葉、身に余る光栄にございます!」
ガレシアはその場でレイサム王に跪いた。
「ところでルナベル嬢は望みはそれだけなのか?」
「はい。それだけです!」
ユレシアとエミールは、それだけじゃない! と頭を抱えた。
しかしサツキがそれだけと言ってしまった以上、何も言えない。
「分かった。まあ、ルーファスを通していつでも言ってくれ」
「ありがとうございます!」
良かった! いつでも言っていいようだ。
なるべく簡単なセリフを考えてサツキに教え込ませよう、とユレシアとエミールは頷き合った。
かくして、怒涛の晩餐会が終了した。
結局、ユレシアとエミールが動かなくても王家がヴァルモン男爵を断罪することは、既に決まっていた事だった。
ルーファスに、イルベルト家とサツキを上手く利用されただけだった。
しかしこの一件は、ユレシアとエミールの心に、よく分からない闘争心を生み出したのであった。




