表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アダムとイブのその先に  作者: まある
16/20

16.声

ようやく幸太郎が追い付いた時には、手遅れだった。


茉莉奈(まりな)の前に立ち塞がる様に、両手を広げていた龍太(りゅうた)の腹部には、イレギュラーの触手が刺さっていた。


「がっ……」


触手を抜かれ支えがなくなった龍太は、口から血を吐き出し、前のめりに倒れた。


「り、龍太?ねぇ、龍太……?」


(うずくま)りながら、茫然(ぼうぜん)自失に呟いた茉莉奈の肩も刺されていた。だらだらと流れた血が服に赤い()みをつくった。


同時に龍太の倒れた地面には、血が広がっていく様に流れていた。死んでいる、と幸太郎は理解した。


あからさまな死を見た幸太郎は、堪えきれずその場で吐いてしまった。口元を拭い、改めて茉莉奈を見ると、顔がぐちゃぐちゃになる程嗚咽(おえつ)していた。


それを見たイレギュラーが、勝ったと言わんばかりに、「キキキ」と奇声を発した。


____弱点は目玉。


龍太の調べはそうだった。そう言っていた。数分前の会話をぼんやりと思い出し、未だに目玉がある事に気付いた。


しかし、遅かった。触手が片足に絡み付き、そのまま空中に上げられた。逆さにされ、頭に血が上り、幸太郎は吐きそうになった。


「うわあああ!!」


前触れもなくぶんぶんと振り回され、視界が高速回転した。視界の端に何度も茉莉奈と龍太が映った。


(僕に能力があれば……回避出来たかもしれない)


タラレバの話をしても仕方がない、心でそう分かっていても、頭では消え去らないタラレバが増えていった。


(能力が、欲しい)


幸太郎がそう思った瞬間、頭に強い衝撃を感じた。


呻きながら顔を上げると、イレギュラーは「キキキ……」という奇声と共に目玉が転げ落ち、黒くなり動かなくなった。どうやら、頭の衝撃は落とされたからだった。


幸太郎は首を傾げた。マンションの二階程の高さから落ちた筈なのに、不思議と痛みもなく、出血せずにいる事に幸太郎は混乱した。


(一体、どうして……)


すると、今度はキーンと耳鳴りがしたかと思えば、視界が白くなり、手足の感覚がなくなった。


___力を望みし者よ。


脳に直接語り掛けてきた声に、幸太郎は思わず(かしこ)まった。


___貴様の望みを叶えてやろう……しかし、ちと足りぬな。


「何が、ですか?」


___対価よ、対価。なんだ、無償で貰えるとでも思ったか。


図星を突かれた幸太郎は、言葉に詰まった。すると、声の主は「くくく」と笑った。


___貴様は本当に目出度い(めでたい)頭をしているようだ。して、対価だが……貴様から貰うとしよう。


「は?」


___うむ、貴様の魂にしよう。そうだな、死後は童女(わらわ)喰って(もらって)やろう。


「待ってよ!そんなのって……」


___異論は認めぬ。さて、童女の力をくれてやる……貴様の死を心して待っておるぞ。


声が消えた瞬間、消えた筈の怪我が浮かび上がり、酷い頭痛と耳鳴りが同時に起き、のたうち回った末、鼻血を一筋流して意識を失った。




□■□




幸太郎が目覚めたのは、その数十分後だった。


(何か声がする)


ぼんやりした頭に騒がしい音が聞こえ始め、幸太郎は瞼を開けた。すると、視界いっぱいの顔があった。


「うわあああ!」


「ひいいい!」


ほぼ同時に叫び、思わず幸太郎が体を起こすと、ごちんと音を立て、同時に頭に手を当てた。


「いったぁ……」


「うっ……ごめん」


「わ……わ私こそ、ごっ……ごめんなさい……!!」


慌てふためいて言った少女は、最後に深々と土下座をした。


「 あ、頭を上げてよ。それより、僕は……」


「そ……そ、それなんですけど……先生をおっ、およ……お、呼びしますのでっ」


慌ただしく駆け出し、転びそうになりながらどこかへ行ってしまった。


質問も出来ず、溜息をついた幸太郎は上半身を起こしきり、「は?」と声を漏らした。


大きな車から、数人が出たり入ったりを繰り返していた。さらに、ショルダーバッグの側面には、見知った本庁のマークが書かれていた。


(救護班……でも一体誰が……)


幸太郎が頭にクエスチョンマークを浮かばせていると、肩を軽く叩かれた。


「そんな物珍しいものじゃあないでしょう?」


振り返ると、黒いロングコートを着た莉々(りり)が立っていた。


「亜門さん!」


「バイタルサインが消失して、駆け付けてみたらこの有り様。いろいろ話してもらうわよ」


「……はい」


手当をされながら、幸太郎は事を話した。時折、莉々は顎に手を当てて考え込む素振りや、横目で茉莉奈を見たりした。


茉莉奈は、他の班員に手当をされていたが、その目は虚ろだった。そして、龍太はビニールシートが掛けられ、担架に乗せられてどこかへ運ばれていった。


(……あの声の事は話さなくて良いよな)


迷った挙句、話さない事に決めた幸太郎は、劉牙が吹っ飛ばされた事を伝えて、話を終わりにした。


「そういう事ね」


莉々はそれだけ呟き、手際よく包帯を結ぶと、端末を操作した。その間に、莉々は車を指さした。


「あそこで休んでなさい。中の飲み物は自由に飲んで良いわ」


「あ、ありがとうございます」


幸太郎がぺこりを頭を下げると、地鳴りの様な低い音と、地震の様な揺れが起こった。幸太郎は上手く体勢が取れず、顔から地面につんのめった。


「……嫌な予感がする」


立ったままの莉々はそう呟くと、音がした方向に走っていた。


「……?」


残された幸太郎は、目覚めた時と同じ少女に促され、車に飛び乗った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ