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アダムとイブのその先に  作者: まある
17/20

17.再会

イレギュラーに吹っ飛ばされた劉牙(りゅうが)は、一度は気を失ったものの、直ぐに目を覚ました。


「……っ」


起き上がろうとすると身体中が痛み、足に力が入らなかった。見れば右足が変な方向にひしゃげていた。


(折れてんのか)


起き上がる事も出来ず不貞腐れていると、「あの」と少年が話し掛けて来た。その表情から心配の色が窺えた。


「 ……大丈夫ですか?」


「ああ。大丈夫だが、ここは避難場じゃあねぇよ」


意外にも指摘された少年は、バツが悪そうに眉を下げた。


「い、妹が居なくて……それで」


「探しに来たわけか」


小さく頷いた少年に、劉牙は顔を(しか)めた。


「一緒に探してやりてぇが、今は動けねぇ……ちょっと待ってろ、他のやつ呼んでやるから」


「ありがとうございます……」


そして、劉牙が端末を操作しようと時、少年が「あの」と言い難いそうに口を開いた。


「なに」


目線は画面に固定したまま、ぶっきらぼうに言った劉牙に対し、少年は目をキラキラさせた。


「凄い!本物だ!それって、異能連合のやつですよね」


「……そうだ」


「僕、連合の人に助けられた事があるんです!その時からずっと憧れてて……」


「そうか」


「でも僕には能力が無いんです。お兄さんはどうやって能力を手に入れたんですか?」


途端に操作する手を止め、言い難いそうに口(こも)った。それに気付かず、少年は話を続けた。


「やっぱり運とかですか?産まれた時から決まっていたとか」


黙り続けるのも限界になり、劉牙は何か言おうと口を開いた時、地鳴りの様な低い音と、何かが壊れる音が辺りに響いた。


「うわ!」


酷い揺れに少年が倒れ込んだ。


劉牙が「大丈夫か」と口を開く前に、そこだけ曇りの様な暗さになった。


「あら〜?可愛い子供ね。大丈夫かしら?」


顔を上げると、人間の様だが肌が黒く、その爪はは鋭く輝いていた。極めつけに、頭から角が生えている人外の女が立っていた。


イレギュラーだと、一目で分かった。


劉牙は咄嗟(とっさ)に少年を抱え、距離をとった。その際に右足が骨折している事を忘れ、派手に転んだ。


幸いにも少年は怪我がなく、劉牙だけが怪我を悪化させた。


「お、お兄さん……!」


「ガキ!さっさと逃げろ。妹は後で連れてってやるから!」


そう言われた少年が駆け出そうとした瞬間、「あら〜」とイレギュラーが口を開いた。


「妹って()()の事?」


どちゃっと気味が悪い音を立てて落とされたのは、喉を円状に開けられた少女だった。ひゅーひゅーと苦しそうに息を鳴らしていた。


「なっ……」


「_____」


愕然とした劉牙と、言葉が出ない程顔面蒼白の少年はその場で頭を垂れた。


察するに、その少女こそ妹だったのだろう。


「あら〜私ったらなんて優しいのかしら!感動の再会を叶えてあげられちゃうんだから、善人すぎるわ〜」


そう言って笑うイレギュラーの頬を何かが掠めた。


後ろの壁に突き刺さっていたのは、劉牙の大剣で、イレギュラーの頬に一筋の赤い線が入っていた。


「痛いわね〜。全く……悪い子にはお仕置よ」


渾身の一撃で力を使い果たした劉牙の額を、「えい」と指で軽く弾いた。


____と。


体が引っ張られる様な感覚と共に、壁を突き破る程の威力で後ろに飛ばされた。まさにオーバーキルであった。


「あ……あ……」

少年の嗚咽が聞こえ、その後にどさっと倒れた音がした。


しかし、余りの痛さに意識が朦朧(もうろう)とし、口からは血が出るばかりで、声は出せなかったからだった。


さらに息苦しくもあった。きっと喉に血が溜まっているのだろう。


「飛ばしすぎちゃったかしら?まぁ、良いわ。この位が良いでしょう?」


靴を鳴らして近付いたイレギュラーは劉牙の目の前で止まると、腰を曲げて顔を近付けた。


「やっぱり似てるわね〜。ほんっと腹立つくらいだわ」


一人で盛り上がるイレギュラーの言葉に、劉牙はハッとした。揺れる視界で懸命に見詰めた。


(まさか……いや、そんなはずはない。あいつは死んだんだ)


しかし声を聴けば聴く程、目を凝らす程、心当たりは強くなっていった。


「あれ〜?アタシの事分かんない?」


「分かってる」とも言えず、ただ意識を保つ事に必死だった。


「そんな状態じゃあ喋れる訳ないよね……はい!これで喋れるでしょう?」


イレギュラーは劉牙の髪を鷲掴みにすると、顔を地面に向けさせ、血を無理矢理吐き出させた。


劉牙は急な出来事に驚いたものの、明らかに喉の開放感があった。


しかし、それも束の間。今度は無理矢理顔を上げられ、イレギュラーと視線を合わせる形になった。


「可哀想に。こんな場所に放り込まれるなんて……」


眉尻を下げて心底同情した様な口調で、劉牙の頬を空いていた手で軽く撫でた。


(……こんな状況じゃあなけりゃぶっ飛ばしてたんだけどな)


遠のく意識の中、薄らと思ったのはそんな事だった。


遂に声が聞こえなくなり、がくんと首を垂れた。あからさまな異変にイレギュラーが気付き、「あれま」と残念そうな声を出した。


「残念、意識が保てなかったのね……もういいや」


そう言って劉牙の頭に尻尾を刺そうとした時、掴み上げていた筈の劉牙が忽然と消えた。


「まだ生きてたんですね。それに、懲りずに狙うだなんて……尊敬に値します」


ワンピースの裾を軽く持ち上げ、優雅に挨拶したのはドロテアだった。そして、その足元には劉牙が横たわっていた。


「あら〜、別にあんたに関係ないと思うんだけど。それより、貴方こそまだ()()()()()してるのね」


「貴方が私をどう思っていようが、氷室劉牙は連合の人間です。上司として正しい判断をしたまでです」


「そう……それにしては班が違うようだけど」


「班は違えど、上司は上司です。何か問題でも?」


顔色一つ変えず言ってのけるドロテアに、イレギュラーはくつくつと笑った。


「相変わらずね。何一つ変わってない」


御託(ごたく)は結構です」


冷たい声と共に、ドロテアの指に糸が何本も絡まり、頭上には糸に繋がれた仮面を付けた様々な人形が待機していた。


そして、ドロテアが指を軽く曲げると、何体かがイレギュラーを目指して動き出し、手に持ってる槍や剣で攻撃した。


「簡単ね〜」


しかし、イレギュラーは軽々と全てを避け、いつの間にか塀の上に立っていた。


それを見据えたドロテアは、諦めた様に人形を消した。


「なぁ〜んにも変わってなかったわ。興醒めしちゃったし、そろそろ帰るわ。それじゃあね」


それだけ言うと、霧の様に消えた。残されたドロテアは、今度は二体の人形を出し、一体に劉牙。もう一体に少年と少女を運ばせた。


混濁した少年の目は開いていたものの、焦点が合ってなく、息もしていなかった。おそらく、喉を横一線に斬られた事が原因だろう。


「小さき命に祝福を」


ドロテアは小さく呟き、少年の目を静かに閉じさせた。

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