14.合流
幸太郎達が班の部屋に向かうと、中は伽藍堂だった。
「誰も居ない……?」
「温谷の野郎も居ねぇ」
シーンと静まり返った部屋に、人気を感じる事は出来なかった。
暫くすると、四方にある部屋の一つから、背の高い男が出て来た。
「あ、副班長」
副班長と呼ばれたその男は、温谷炎源と言い、炎天の弟である。
その性格は真逆で、熱血な脳筋の兄とは違い、冷静で氷の様な性格であった。
「遅かったですね。皆さんなら、先に任務に向かってもらいました」
「え?全員がですか?」
「ええ。少し予想外の事が起きまして。あの炎天共々、援護に向かわせました」
炎源は、大きめの端末を落とさない様、腹に押し付けながら軽く操作した。
「貴女方にも早急に向かって欲しいのですが、どうやら向こうが、まだだそうで」
「向こう?」
幸太郎がそう訊くと、炎源は「ええ」と端末を見せた。
「……櫻井さん達と?」
「ええ、貴女方はまだ下級ですので、規則として合同で現場に行ってもらいます」
「待てよ。前回のは、俺らだけで行ったろ」
炎源の言い草に苛立った劉牙は、軽く舌打ちをして、ポケットに手を突っ込んだ。
「それは、イレギュラーのレベルが低かったからでしょう。規則で強化するまでもない、という事です」
「んなっ……!」
仰々しく溜息をすると、再び端末を操作した。
「異論は認めませんし、そんな時間もありません……あちらの部屋に全て用意してあるので、さっさと合流地点へ向かって下さい」
掌を上にして指し示したのは、炎源が出て来た部屋だった。そして、「それでは」と言うなり、別の部屋へ入っていった。
(本当に兄弟か疑わしい程だな)
氷の様に冷たい言葉や態度に加え、人を寄せ付けないオーラが放たれ、度々疑われる程だった。幸太郎もその一人であり、性格の寒暖差に悩まされることもあった。
「おい……弱虫」
「なっ、何?」
「さっさと行くぞ」
劉牙は吐き捨てる様に言うと、さっさと部屋まで歩いて行った。
□■□
合流地点は任務場所の近くだった。
幸太郎達が着く頃には、既に茉莉奈が到着していた。幸太郎に気付くと、「あ」と片手を挙げた。
「幸太郎さんに、劉牙さん!お久しぶりですね」
嬉しそうに微笑んだ茉莉奈は、落ちかけた眼鏡を掛け直した。
「久しぶり……龍太くんは?」
「あー……あそこら辺に居ると思いますよ」
そう言って指し示した先には、既に戦闘が始まっている場所だった。
「弟の能力は、解析という、相手を見れば、その能力や何処が弱点か見抜けるものなんです」
「へぇ、そりゃあ便利だな」
興味を持った様子の劉牙に、茉莉奈は「はい」と頷いた。
「だから、班では引っ張りだこで……今回も先輩方に連れられてしまいました」
「ふーん……つーことは、実質三人でやれってか?」
「まぁ……はい」
もごもごと口ごもった茉莉奈は、気まずそうに横を向いた。
微妙な空気に耐えかねた幸太郎が、口を開こうとした時、端末が鳴った。届いたメッセージを開くと、五センチ程のアバターが投影された。
「副班長!?」
思わず驚いた幸太郎に、投影された炎源は仰々しく溜息をついた。
「何故驚くのか理解不能ですが、無事合流出来たのですね。ところで、弟さんが居ない様ですが」
「あ……それなんですけど……」
茉莉奈から全てを聞いた炎源は、「なるほど」と頷いた後、一度消えた。その数分後、またメッセージが届いたかと思うと、「ごめーん」と龍太が駆け付けた。
「はぁ……これで全員揃いましたね」
「本当にご迷惑をお掛けしました」
眉尻を下げた茉莉奈は、炎源に向かって頭を下げた。炎源は深い溜息をつくと、「それで」と目線を下げた。
「貴女方には、ここから二キロ先に居るイレギュラーの対処をして頂きます」
「二キロ先って、確か住宅街じゃあないっけ?」
「ええ、そうです」
首を傾げた龍太に、炎源は顔色一つ変えずに頷いた。
「おい、そんなのやばいだろ」
「ええ、恐れていた事態です」
今にも駆け出しそうな勢いの劉牙に、平坦な声で言い放った炎源は、何度目かの溜息をついた。
「これだから単細胞は嫌なんですよ」
「あ?何が言いたいんだよ」
「既に、住人は全員避難させました。なんともまぁ……一から十まで言わなきゃ分からないというのは、非常に残念ですね」
「……」
仰々しく呆れ、悪態をつく炎源に対し、見るからに不機嫌そうな劉牙は、言い返すでもなく、黙って炎源を見詰めていた。
「……まぁ、良いでしょう。 さっさと片付けて来て下さい」
それだけ言うとプツリと消え、画面は黒くなった。
「……よくあんな腹立つ人の下で、出来ますね」
「はは……」
茉莉奈は、幸太郎に同情の眼差しを送った。




