12.鍛錬
「目立った傷は消えたみたいね」
ベッドに横たわる幸太郎の側で、林檎の皮を剥きながら八千代は言った。
結局、戦いから一週間後に目を覚ました幸太郎は、疲労骨折と打ち身など、外も中も大怪我をしていた。
そして、劉牙の怪我は幸太郎より酷かったが、三日で目を覚まし、今では、無理矢理動いては傷が開いてを繰り返している。
むろん、炎天に怒られ、完治するまでの休暇を渡された。
看護師達の回復系能力の甲斐あって、目に見える傷は塞がり、骨折などの中身の傷が残った。
「うん。看護師さん達のお陰かな」
「そうね、本来ならこんな早く治らないもの」
小さく笑った八千代は、「あ」と何か思い出した様に手を止めた。
「そう言えば、城崎さんが、出来具合を見てくれって言ってたわ」
「あー!あれか。うん、許可が降りたら見に行くよ」
不良品の銃の事を思い出した幸太郎は、今の状況を考えれば、当分先だろう。
(早く見たいのにな)
溜息をついた幸太郎を横目に、八千代は剥き終わった林檎を皿に盛り付けた。
「それで、氷室くんは懲りたのかしら」
話に挙がった劉牙は、拘束され、半ば無理矢理寝かせられていた。
「うるせーな。てめぇには関係ねぇだろ」
「冷たいなー。まぁ、いいや」
林檎が乗った二つの皿を、それぞれのサイドテーブルに置くと、上着に腕を通した。それを見た幸太郎は寂しげに「え」と言った。
「もう行っちゃうの?」
「ごめんね、この後任務が控えてるから」
「そっか。じゃあ、頑張ってね」
掌だけを少し挙げて、弱々しく手を振る幸太郎に、八千代は「じゃあね」と一言だけ言うと、そのまま部屋を出た。
残された幸太郎は、気まずさに口を閉ざしていると、舌打ちをした劉牙が「つーか」と口を開いた。
「どうやって食うんだよ」
「あ……」
何故なら、二人は外傷が治っただけであり、中は全く治っておらず、掌とつま先と頭位しか動かせなかった。
むろん、林檎など食べれる筈もなく、十分後に来た看護師に回収されたのであった。
□■□
それから一ヶ月経った頃に、二人は全快した。
それを当然の如く、祝いに来た炎天は開口一番こう言った。
「さぁ、鍛錬に行くぞ!」
「は?」
「え?」
祝われると思いきや、「鍛錬」と言われ、困惑した幸太郎は、断る事も許されず、ずるずると勢いに流された。
鍛錬場Aに連れてかれ、まず腹筋などの基本的なトレーニングをさせられ、その後、それぞれの前に戦闘機械が置かれた。
トレーニングで疲れ果てた幸太郎は、「いやだぁ……」と小さく漏らした。
「そんな嫌がる事はない!これは過去の戦いを記録した機械だ」
「記録……」
炎天はそのまま「むろん」と続けた。
「君達のも記録されている。しばらくは、そのおさらいをしてもらう」
「つまり、勝てりゃあ終わりって事だろ」
言うなり、脇に置いた大剣を持ち上げ、機械の上に手を乗っけた。
機械は、実際より三分の二位の大きさで、劉牙がその性能を疑う程だった。しかし、電源を入れるとその強さは同じだと分かった。
入れた瞬間、動いた腕に素早く攻撃され、ギリギリのところで躱した劉牙は、腕の着地面を見て驚愕した。
「おいおい、煙立ってんじゃあねぇか」
腕が上がったところだけ、ちろちろと細い煙が立っていた。
「威力は同じって事か」
そう口の中で呟くと、幸太郎も電源を入れた。
(八千代ちゃんが頑張ってるんだ。僕もやらないと)
微かに見た光景を頼りに、幸太郎は軽やか___とは言い難いが___に攻撃を避けていく。さらに、隙を見て銃を撃ち、機械に掠らせた。
一方で、劉牙も劣らず、素早い攻撃にも慣れ、大剣を振る余裕も出来た。しかし、どれも致命傷までには達せず、掠る程度だった。
及第点止まりの二人を見て後、炎天はひっそりと鍛錬場から出た。廊下を歩きながら、端末で電話を掛けた。
「私だ、温谷だ___ああ、その件だが___では私の方で動こう」
言葉少なく話した内容は、炎天と電話相手の脳に閉じ込められ、第三者に明かされるのは当分先だった。
まだ何も知らない、無垢で白そのものの幸太郎達を頭に思い浮かべ、炎天は唇の片端を上げたのだった。




