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アダムとイブのその先に  作者: まある
11/20

11.ピンチ

「八千代ー!それ終わったら、こっち手伝ってくれー」


数メートル先から呼ばれ、「はーい」と返事をした八千代は、抱えていたファイルを棚に戻すと、小走りで向かった。


着いて見れば、大きな箱が何個も積まれ、その間に紛れる様に、恰幅(かっぷく)の良い男が整理をしていた。


男の名は、五十嵐(いがらし)雅樂(うた)と言い、八千代が所属する班の副班長を担っていた。


「お待たせしましたー……って一人でやってるの!?」


二人の仲は良く、かなり砕けた口調でも許されていた。いわば、兄と妹の様な関係だった。


「それがよー、安請け合いしてたら、いつの間にか増えちまってよ」


高々と積まれた段ボールの山に、目を細くした雅樂に、八千代は溜息で返した。


「良い様に使われてるわね。ところで、先生は?」


雅樂の隣で、箱を開けながら訊いた。


「あー、今日は班長会議の日だとよ。帰りはたぶん、十一時過ぎだな」


「そんなぁ……訊きたい質問があったのにー」


拗ねた様に頬を膨らました八千代は、「あ」と続けた。


「雅樂でも良いのか」


「納得する前に要件を言え」


段ボールを潰した雅樂は、期待の眼差しを跳ね除け、「アホか」と視線を手元に戻した。


「実はね、月糸(つきいと)は剣を出せると聞いたの。だから、本当かなぁって」


八千代が言った月糸とは、入団後に必ず覚えさせられる能力で、糸を操り移動したり、何本にも束ねる事で槍の代わりにもなったりと、使い方次第で何にでもなる便利な代物であった。


そして、数日前に昼食を摂っていたところ、月糸は覚醒させると剣が出てくる、という話が八千代の耳に届いだ。


そんな事を思い出しながら、返事を待っていた。対して雅樂は、(あご)に手を当て、「うーん」と唸った。


「俺はそんな話聞いた事ねぇな。でも()の奴らなら出せるんじゃあねぇか?」


「紫の人達ねぇ……」


半ば諦め気分の八千代は、がっくりと肩を落とした。


雅樂の言った様に、紫の階級に見せてもらうのが手っ取り早いだろう。しかし、八千代の様な下っ端が簡単に会える者ではなく、どこにいるかも定かではない。


溜息をついて、仕方なく段ボールの山を片付けようとした時、ポケットに入れていた端末が振るえた。


すぐに端末を見やると、八千代は「まさか」と呟くと、すぐに走り出した。


「ごめん!ちょっと行ってくる!」


「ああ。気を付けるんだぞ」


走りながら喋る八千代に、苦笑した雅樂は片手を振ってそう答えた。




□■□




(立ってるのが奇跡だ)


僅かに痙攣(けいれん)を起こす脚は、立つことすら限界だと悲鳴を挙げていた。足元には血溜まりがあり、ぼたぼたとその量を増やしていた。


出血し過ぎて脳がぐわぐわと揺れていた。何かを考える事も億劫(おっくう)な程だった。


そして、イレギュラーが咆哮(ほうこう)し、満身創痍(まんしんそうい)幸太郎(こうたろう)に攻撃を仕掛けた。


「ああああ!!」


横へ転がる様に避けたが、背中に爪が掠れた。それでも鈍痛が走り、転がった事により他の傷口も痛み、幸太郎の口から苦痛な叫びを漏らした。


(もうやだよ……助けてよ……)


幸太郎は限界だった。


元より、戦闘が得意な方ではなく、どちらかと言うと苦手な方だった。それでも、人より少しある運動神経のお陰で、攻撃を避ける事が出来ていた。


そして、最悪な事に幸太郎には能力がなかった。もっと言えば、才能もなかった。教えられたはずの月糸さえ、何とか使える程だった。


だから、逃げ出したかった。


(……ここで逃げたら駄目だ)


もう一度立ち上がり、ふらふらと銃を構えた。


逃げ出さない理由は、劉牙(りゅうが)にあった。少し離れた場所で劉牙は、仰向けになって気絶していた。


数十分前は劉牙も戦っていた。その時はまだ優勢だった。しかし、強烈な一打で呆気なく逆転された。


その際に劉牙は飛ばされ、頭を強く打ち付け___蓄積された疲労のせいでもあるが___意識を失ってしまった。


出血はなく、意識を失うに留まっていたが、戦える者が幸太郎一人だけとなり、劣勢を強いられていた。


それでも、劉牙を守らなくてはならない、という意識が幸太郎を動かしていた。


そんな事に思いを馳せながら、ふらふら突っ立ていると、またイレギュラーが攻撃をしようと、脚を高く上げた。


限界を超過した体は、立つことで精一杯だった。避けられるかどうか、と直感した幸太郎は引き金に指を掛けた。


(もう、どうにでもなれ……!)


一か八かに託した幸太郎は、ただタイミングと自分の死を待った。


「月糸、糸の防壁(バリア)!!」


声が聞こえたと同時に、幸太郎とイレギュラーの間に光る糸が現れ、攻撃を防いだ。しかし、その衝撃波が幸太郎を後ろに倒れさせた。


立ち上がる気力もなく、ただ呆然と仰向けになっていると、パタパタと誰かが走ってくる音が聞こえた。


「幸太郎くん!生きてる!?」


視線だけを向けると、それは八千代だと分かった。答えようと口を開いたが声が出ず、幸太郎は必死に頷いた。


「少し待っててね!」


生きてる事を確認した八千代は、そのままイレギュラーに飛び付き、袈裟斬(けさぎ)りした。


イレギュラーが怯んだ隙に、腹の方へ潜り、尻尾の方へスライディングしながら、刀で腹を切り裂いた。


蝶屍(ちょうかばね)!!」


後退しながら叫ぶと、八千代の影から、蝶の形の骨が何百も飛び出し、イレギュラーに張り付き、皮や血を喰いちぎった。


まさにホラーゲームの様な光景に、幸太郎は目を逸らした。


(直視するもんじゃない……)


イレギュラーは絶叫しながら暴れ、周りの木や土を抉った。しかし、抵抗虚しく喰われた部分から血が噴き出し、内蔵が飛び出そうな勢いだった。


傍観する訳もなく、八千代は暴れるイレギュラーに飛び乗り、その脳天に刀を突き刺した。


瞬間、イレギュラーの叫びが辺りに響いた。鼓膜が破れそうな程だった。それは、イレギュラーの死を表していた。


軽々と降りると、八千代は幸太郎の元へ駆けつけた。


「酷い怪我。出血も酷いわ___って、幸太郎くん!?幸太郎くん!」


手際良く止血をする八千代を見て、幸太郎は安心した瞬間、疲労がどっと押し寄せ、気絶した。


八千代の声が、幸太郎の耳に残った。

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