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アダムとイブのその先に  作者: まある
10/20

10.任務

幸太郎が銃の扱いにも慣れた頃、その朝は突然やって来た。


「おはよう!!朝早いが、二人にとある任務を頼みたい!!」


二人が居る部屋を、ノック無しで開き、開口一番に炎天(えんてん)はそう言った。もちろん、耳が痛くなる程の大声で。


ちなみに、時刻は朝の四時だった。


「……」


幸太郎も劉牙(りゅうが)も、あまりの突然さに文句の一つも浮かばなかった。もっと言えば、劉牙の沈黙は、苛立ち(ゆえ)のものだった。


半ば押し付けられた戦闘服に着替え、幸太郎は眠たい体を引き()って寮を出た。




□■□




事前に渡された端末に届いた地図を頼りに、幸太郎達はその場所に着いた。


見えたのは、人里離れた山奥にある、大きな別荘だった。近くには車が停めてあり、その屋根には土埃が薄く積もっていた。


「だいぶ経ってるな」


劉牙は、周りの景色を見回しながらそう言った。


「うん。車も置きっぱだし……」


幸太郎は劉牙の後に続いた。


幸太郎はこの数日間、劉牙から虐められる事はなく、(わず)かだが緊張を解いていた。


(だからって、安心は出来ないけど……)


ちなみに、劉牙からの虐めは、ほとんど馬鹿にされた程度で、肉体的な事は無かったが、当時の幸太郎には(こた)えるものがあり、苦手意識が根付いていた。


劉牙は扉の前で立ち止まった。


「おいおい……酷い臭いがしやがる」


幸太郎は、劉牙の隣に立つと、鼻を塞いだ。


(何の臭いだ……鼻が潰れそうだ)


「開けんぞ」


劉牙が扉を開けると、その臭いは更に濃くなった。鼻が(ひしゃ)げそうな程だった。


幸太郎は、反射的に腕で鼻を塞いだ。それでも、間を縫って、臭いは鼻に入り込んだ。


「慣れるまで塞いどけ」


「う、うん」


劉牙は、鼻をハンカチで塞ぎながら、幸太郎の前を歩いた。


中は、別荘とは思えない程の荒れ様だった。物が散らかり、壁には引っ掻いた跡があり、何より全体的に薄汚れていた。


何かが起きたのかは明白だった。


「汚ねぇ。足の踏み場もねぇな」


劉牙は、物を避けながら、終始舌打ちと悪態をついていた。


どこの部屋も荒れており、人が居る気配も無かった。静寂さだけが妙に目立っていた。


(生活の跡が見えない)


幸太郎は、キッチンや風呂場を見たところで、違和感を感じた。


炎天の説明では、三週間前に失踪したはずだ。しかし、あまりにも生活していた痕跡が見れず、本当かどうか疑わしい程だった。


それから、手分けして調べる事になった。


そう広くはないが、汚れている以外何も情報が得れず、進展しそうに無かった。


幸太郎は庭を調べた後、二階を調べようと、階段に足を乗せた。


「……っ!?」


瞬間、空気が鉛の様に重くなり、次の一歩を踏み出せられなかった。


(これは……嫌な予感がする)


ビリビリと肌に突き刺さる様な感覚がした。「上に行ってはいけない」と、体中から拒否反応が出ていた。


幸太郎は嫌な予感がした。


劉牙を呼ぼうかと考えたが、呼ぶ事はせず、階段を一歩一歩慎重に上った。


片方が異変に気付けばなんとかなる。そう幸太郎は考えた。しかし、それは安直だったとすぐ後悔した。


上に行くにつれて、慣れたはずの臭いが強くなり、何かの息遣いまでも聴こえてきた。さらに、散らかってるうえに、薄暗い。


冷や汗が一筋流れる。音を立ててはいけない様な静寂さ。


幸太郎は、そろそろと静かに進んだ。


息遣いから伝わるのは、人間ではない事。これは確かな事だと、幸太郎は直感した。


そして、その直感は当たった。


寝室だった部屋に(たたず)むのは、人間とは程遠く、蛇の様な顔に、龍の様な尻尾と角。さらに、狼の様な四肢だった。


(まるで、実験の失敗作だ)


見るだけで気分を損なうイレギュラーは、一度威嚇(いかく)すると、幸太郎に向かって足で攻撃してきた。


「っ……!」


すんでのとこで(かわ)すも、攻撃は止まず、次々に繰り出され別荘を傷付けた。


幸太郎は負けじと避け続け、隙をついて反撃をしようと試みた。しかし、イレギュラーの一撃が、いち早く幸太郎に当たった。


幸太郎の体は吹っ飛ばされ、別荘も壊れた。


外に放り出され、木に当たった幸太郎は、そのまま意識を失った。




□■□




一方で劉牙は、家の周りと中を徹底的に調べていた。


しかし、何も得れず途方に暮れていた。


幸太郎と一度話をしようと探していた頃、突然家中が振動した。地震とはまた違う振動だった。


(……上か)


土埃が上から降っているのを見て、劉牙は二階に上がろうと足を掛けた。


その時だった。一際大きな音と共に、上から物が降ってきた。


ぎょっした劉牙は、冷静に物を避け、収まったところで階段を駆け上がった。


そして、幸太郎が対峙したイレギュラーを見つけた。


二階の状態は酷く、イレギュラーの反対側の壁は無く、外の景色が見えていた。


劉牙は口角を上げると、大剣を構え、イレギュラーに突っ込んだ。


イレギュラーは咆哮(ほうこう)しながら、足で攻撃を繰り出した。しかし、劉牙は避けると、すぐに大剣を振った。


「くそったれが!」


その攻撃は、イレギュラーの足に当たり、その肉を引き裂いた。イレギュラーは一瞬怯んだが、すぐに別の足で攻撃した。


劉牙はすんでで避けたが、服の裾がイレギュラーの爪に引っ掛かった。


(やべっ)


ぶんぶんと足を振られ、抜けたかと思うと、一瞬にして吹っ飛ばされ、劉牙は背中を打った。


劉牙の口から小さく呻き声が漏れた。


強烈な痛みにすぐに動けず、攻撃を避ける事が出来なかった。


イレギュラーの爪の間に挟まれると、壁や天井、床へと何度も叩きつけられた。次第に劉牙の顔に、一筋の血が流れてきた。頭を打ったのだろう。


なんとか這い出ると、劉牙はふらふらと立ち上がり、大剣を構え、攻撃を受けるギリギリのところで大剣を振った。


足の裏に横一線の血が流れた。それと共に悲痛な咆哮が響いた。


「舐めてんじゃねぇよ」


息も絶え絶えでそう叫ぶ劉牙に対し、イレギュラーは怒りの炎を目に宿らせ、容赦なく尻尾を振った。


足以上の威力で飛ばされ、遂に壁を突き破り、地面に叩きつけられた。


「……うっ」


だらだらと血が流れ、痛さに目が眩んだ。


イレギュラーは、二階から劉牙を見下ろし、今にもその体に喰らいつこうとしていた。


劉牙は、腕も足も動かず、もう終わりだと覚悟した時だった。


どこからか発砲音がし、イレギュラーの意識はそっちに向けられた。


その先には、目を覚ました幸太郎が居た。幸太郎は向かってくるイレギュラーに対し、冷静に二発撃ち込み、攻撃も避けた。


「っぶな」


イレギュラーの爪は、幸太郎のすぐ脇を通過した。服の脇が少し引き裂かれた。


幸太郎は、意識を戻し今に至るまでの間、どうすれば良いか考えていた。熟考の末、目を狙うべきという結果になった。


狙いを定めながら、避けることは神経を大量に消費するが、幸太郎は踏ん張っていた。


何故なら、劉牙は今動けない状態にあり、応援も呼べない。唯一動ける幸太郎が頑張るしかないのだ。


(大丈夫、大丈夫。落ち着け幸太郎。あれは人参だ。攻撃してくる人参だ)


自分に暗示をし、戦意を奮い立たせ、イレギュラーに立ち向かった。

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