第18話
学園に登校するようになって早一週間がたった。
ようやく学校生活にも少し慣れ始め、平和な日々を送っている。
あれから水紋からの教えを受けつつ自分なりに制服も着こなし、JKライフというものを満喫中だ。制服の上にお気に入りのパーカーを来て、ヘッドフォンをクビにかける、いつもの落ち着く格好に定着した。
勿論スカート丈も少し短くした。
初めてこの格好をして学校に来た時は、みんな凄い顔をしていた。
「清楚系淑女が剥がれたね」っと水紋は笑いながら零していた。
そんなこんなで高校生活を満喫してはいるものの、実はまだ乙女ゲーム上のキャラクターには高確率で会えていない。
一部同じクラスの例外がいたが彼は最近気が付くとどこかに行っているようだった。
ゲームではいつもあのメイン攻略キャラと一緒にいたはずだからきっとそうなのだろうとふんでいる。
私は巻き込まれるのはごめんだから、無駄に関わりたいとは思わない。あっちから何かアクションをしてこない限り勝手に好きにやって欲しい。
それはさておき、最近は休み時間の合間に楽譜を作るのが最近の日課になっている。
私の場合、音楽は少しの事で直ぐに思い浮かぶ。どんな些細なメロディーでもそれがこれから先役に立つ時がきっと来るだろう。
そのために、忘れてしまう前に書き留める。
そんな私の様子を水紋はよく見つめるようになった。
何も喋らず、ただただ眺めているのだ。
普通なら放ったらかしにして他の友達の所に行ってしまうのだが、何が面白いのやら分からない。
私としては邪魔されないのは嬉しいことだが申し訳なくなる時がある。ある時、見ていて楽しいかと聞いたことがあった。
「んーすごく面白いよ!奇怪で」
「奇怪?!」
心外である
そんな平和な時間がしばらく流れ、新入生の一大イベントの1つ、部活動決めの時期が来た。
1年生はみな部活を何にするかで話が盛り上がっていた。
「しおん〜、部活何か入るか考えてる?」
「うん!」
「どこか入る所は決めてるの?」
「それは勿論、バンド系の部活だよ!」
「……そんなのあったっけ?」
「え?」
私は高校に入ったら軽音楽部入部すると決めていた。前世からの仲間との約束で彼女が戻ってくるまで歌い続けると決めている。それは今世になっても変わらない。第2の使命のようなものだ。
この世界でもし、仲間達が私のように転生するのなら集合地点は間違いなく私の歌だ。
だから絶対に軽音楽部に入部するのだ。
ところが、バンド系の部活は見事に存在しなかった。新入生歓迎会と共に体育館には何万人もの生徒が集まり、部活動を紹介していた。
鴻崎学園はいわゆるマンモス高校である。全国の多種多様な学生が一気に集まるこの学校なら軽音学部もあると信じていた。
どうやらこの学園は、変なところで真面目らしいのだ。
「なんでぇ!?」
「う〜ん、あったはあったんだけどねー。なんかあんまり活動してなかったらしくて廃部になったらしいんだ」
「ええ!?どうして活動しなかったの?」
「深い事情は知らないけどー、私がここに見学しに来た時は文化祭で軽音楽部の演奏はなかったねー」
現実とはいつも残酷である。
私はこの時を楽しみにしていたというのに…。
思わず床に崩れ落ちる
「そんなにやりたかったんだね〜、ドンマイ」
「ものすごくやりたかった!まさか、音楽科のある学校に軽音楽部がないなんて…ありえない」
「知らなかったの?ここ、一応お金持ち学校って言われてんだよ。諦めた方がいいんじゃないかな〜」
水紋そんな私の顔を覗き込んで悟ったような目をして言った。
知らなかった…身分あるものは軽音を楽しまないと。
「ってそんな訳ないでしょ!」
「うおぉ!」
急に立ち上がる私に驚いって水紋がよろめく。そんな水紋にお構いなく、私は仁王立ちで拳を握る。
「絶対何か理由があるはずだよ!それを解決して部を再開させよう!」
「そんな深い理由じゃないと思うな〜」
水紋の説得も虚しく、私は軽音楽部再開に向けて走り出した。
「どこいくのー?」
「職員室に行って聞いてみる!」
私たちはまず先生に軽音楽部の話を聞きに行くことにした。取り敢えず担任の神崎先生に聞いてみた。
この場には水紋が何故かついてきていた。
「え?軽音楽部がなんで廃部したかって?活動がほとんどなかった上に、もともと部員がとても少なかったんだがな、その中の一人が問題起こしたんだよ。」
「え!?」
「その時ちょうどその問題に関わった生徒の親御さんがすごく偉い人で、訴えられたんだよ。それで廃部だ。再開は難しい。だからどこか違う部活に入るといいよ。君ならどこにでも入れるんじゃないのか?」
「そんなぁ…」
思わぬ理由に職員室から出てまた床に崩れ落ち。
「どうしようもないじゃん」
再開にも難ありの部活なら、顧問も引き受けてくれる先生は居ないのだろう。
思わず自分の頭をわしゃわしゃしてしまう。
できないなんて予想もしなかった。
だがここまで来て諦められるはずもなかった。
「なんとかできないか〜」
「うーん、どうしてもそれがしたいんだったらさ〜。新しく作っちゃえば?」
「え?」
思わぬ発言に一瞬理解が遅れる。
その隙に水紋は一気に詰め寄り、一層キラキラした目で言ってきた。
最近わかったが、彼女のこの表情は何かを企んでる顔だ。面白いこと好きの水紋は、事件やハプニングにウキウキする子で、私はいい感じにこの子に気に入られたのかと納得する。
けど、彼女の企みは大抵あまりいい事がない。
「どうゆう事かな?」
「紫音が部長になって、新しい軽音楽部を作ればいいんだよ!」
おー、その手があったのか!
「そんなのできるの?」
「できるできるー!生徒会に申請して、OK出してもらえば新しい部活作れるよ!紫苑ならきっと何とかなるってー!」
部活を新たに作るという発想はなかった。そうか、ないなら作ればいいのだ!
なんで今まで思いつかなかったことが不思議でならない。
いや。元々部活の仕組みすら理解していなかった節がある。
「やってみようかな!」
「よしよし、その意気よ〜」
水紋は拍手をしながら応援していた。
「ところで水紋は軽音楽部入る気ない?」
「ごめんね〜私はもう既に古楽器部に入ってるんだー。だから、紫苑1人で頑張ってね!」
早くないか?
「あ、うん…頑張る」
まさか軽音楽部がなくて、部活を作るはめになるとは考えもしなかった。
作ることは別にさほど問題は無いが大変なことになった。
「ねぇねぇ、教室戻ろー」
「うん、そうだね」
私たちは取り敢えず、今の時間が昼休みとあって教室に戻ることにした。
ピーンポンパンポーン
その時、チャイムとは違ったアナウンス音が鳴り響いた。
「1年雪織紫苑、今すぐ職員室に来てください」
呼ばれたのはなんと私だった。
「紫苑ー、何かした?」
「何もしてないけど…なんだろ?」
唐突に私の名前が呼ばれて、先程職員室に行ったばかりでまた行くのも不思議で首を傾げる。
先生がなにか言い忘れたのかもしれないと思い、水紋に先に教室に戻ってもらって私はまた職員室に入ることにした。
「失礼しまーす。何か御用ですか?」
「おう雪織、言い忘れてたことがあったんだ」
待っていたのは先程話した神崎先生だ。と、もう1人、知らない先生も近くにいた。少し真面目そうな雰囲気の眼鏡を掛けた歳のいった人だった。
「なんですか?さっきの軽音楽部のことですか?」
「いや、お前に聞きたいことがあってな」
「はぁ、聞きたいこと…」
「おまえ、生徒会に入る気はないか?」
「生徒会?私がですか?なんでまた」
変な質問だと思った。私は今は体育館委員に所属しているし、ここは委員会の掛け持ちは禁止のはずだ。
私だって少しは勉強した。生徒会に関われるのは委員会の委員長だけなのだ。
余計に疑問で思わず眉間にシワを寄せる。
「まぁ聞いてくれ。雪織は首席だろ?」
「えーまぁ、そうみたいですけど」
「毎年首席入学者には生徒会に入ってもらうようにしているんだよ。君は前期受験者だけど、筆記の試験も大変素晴らしかった。是非生徒会に入って欲しい」
そう、後ろにいた眼鏡の先生が話してきた。
もしかすると、この話を持ちかけてきたのはこの先生なのかもしれない。
愛想良く微笑み、私への期待感が感じられた。やっぱり首席になるのは不味かったと再度後悔した。
「この方は教頭先生の下澤先生だ。生徒会の顧問をしてくれている。生徒会には今年の次席も入ってるから、できればお前も入って欲しいんだそうだ。」
「君みたいな優秀な子は是非来て欲しいんだ」
「でも私、体育委員に所属していますけど」
「大丈夫!掛け持ちを特例で許すことにするよ。体育祭の時は生徒会の方にいてもらうんだけどね」
相当私に期待をして勧誘してくれているみたいで申し訳ないのだが、入る気は全くない。
首席の子は生徒会に入る制度なんて、初めから知ってたら絶対に首席にはならなかった。
生徒会は忙しいとよく聞く。そんなことで私の自由時間が失われるのは困る。
「すいません、大変有難い申し出ですけどお断りします」
謝罪の意を込めて深く頭を下げる。
「私には他にやりたい事があるんです、だから他のことは今考えられません」
頭は下げ続けて、先生の顔は見れていないが、二人の困った雰囲気が伝わってきた。
「そうか、それはしょうがないな」
神崎先生は私の言葉に困りながらも了承してくれたようだった。
けれど、下澤先生はどこか諦めていなさそうな表情をしていた。
「そこをどうかお願いできないかな」
「教頭先生」
「これは学園長の願いでもあるのです。もう少し考えてはくれないだろうか」
神崎先生の制止を遮って、下澤先生は再度私にお願いしてくる。乗り出す勢いで私に近づき説得しようとしていた。
まさか私の生徒会入りが学園長も推薦しているとは思わなかった。
私は思わず何も言えず、その場は気まづい雰囲気になってしまった。
「下澤先生もこう言ってるしな、もう少し時間をかけてよく考えてくれないか?それでもダメだったなら私たちも考える。それではダメか?」
神崎先生は、下澤先生の必死のお願いに乗じて困った表情でお願いしてきた。
時間をとって再度お願いするらしい。
「……分かりました」
けれどここまで言われてしまってはしょうがない。
これからも気持ちは変わらない気がするが、なんだか先生たちが可哀想になってきた。
そうこうしている間に、午後の授業のチャイムが鳴り、戻らなければいけない時間になってしまった。
時間も時間という事でその場はお開きとなったが、放課後に生徒会の見学をするように頼まれたため、渋々了承して教室に戻った。
後々考えて、生徒会に訪れる機会が出来たことに気づいた。
生徒会には入るつもりは無いが、この機会に生徒会に軽音楽部を作るためのお願いに行ける。
思わぬ所でチャンスが巡ってきた。
どうやら私はとことんついているらしい。
こうして、紫苑は軽音楽部を新たに作り直すという計画に乗り出すという目的で生徒会と関わることになるのだが、これがきっかけで知らず知らずに乙女ゲームの世界にどんどん巻き込まれて行くことになるとは今は知るよしもなかった。
次回はまたあの人たちが登場します!




