第15話
満開の桜が歩道をアーチのように囲い、道を花びらの絨毯で覆っている。それでも降ってくる花びらを自ら頭に乗せ、スキップをしながら駆け出した。
入学式から二日遅れで、ついに私、紫苑は高校に登校できるようになった。
お医者さんと家族と、そして優希のOKサインを貰い、ついに今日からである。
初めての登校は歩いて行きたいと早起きしたは良いものの、病み上がりなうえに学校までは少し遠いと言われ、途中まで車で送ってもらった。
学校までの通学路途中で降ろしてもらって、学校までのんびり歩道を歩き、気分は絶好調である。
思わず鼻歌が零れる。
こんなに気分が良いのは、きっと初めての高校生活がわくわくでしょうがないからである。
前世では高校には行かず就職をして、ただひたすら夢に向かって突っ走っていた。
今も同じようなものだけれど、あの頃は少し焦っていた。
友達はいらなかったし、授業はインスピレーションの邪魔だった。
とにかくあの頃は、早く立派になって育ててくれた人に安心させたかった節がある。
それだけ余裕な状況でもなかったのだ。
けれど今は違う。
家族もお金も充実していて、余裕が生まれた。
友達を作ってみようと思う
部活に入ったみよう
文化祭や体育祭のような学校行事を思いっきり楽しむ
ずっと考えていなかったけど、思えばみんなやってみたかったことだった。
中学生とは違い、少しだけ自由が認められた少し大人な子供である時期。
鴻崎学園中等部とは違い、高等部は全国から様々な生徒が集まってくる。
全校生徒は恐らく相当な人数であろう。きっとこの3年間は毎日誰かとの初めての出会いが待っているのだろう。
自然と顔がほころぶ。
たまに思う、こんなに幸せで良いのかと。
通学路の景色を眺めていると、ふと途中の道に公園を見つけた。
どこにでもあるような何の変哲もない公園だ。
少し入ってみよう
公園内は通学中の子供や学生らが通り過ぎたり、ジョギングや犬の散歩をしている人だったりまちまちだ。
なんだかとても心地が良くて、そのまま空いているベンチに座ってぼーと当たりを眺めながらのひと休み。
こういう時が一番音を感じられる。
目を瞑ると、様々な音が聞こえてくる。
朝の音だ。人の歩く足跡、鳥の鳴き声、木々のざわめき、それら全てが私にとってはオーケストラだ。
そうした彼らの声を形にしたくて、私は紙とペンをとる。
あれ?
ふと、ペンが止まる。
「.........はっ!!」
思考が五線譜に向き始める一歩手前で、私は今が学校への登校中である事に気がついた。
直ぐに腕時計を確認してすぐに私は戦慄する。あと5分で遅刻である。
「やばいっ!」
思わずそう言いながら物を鞄にしまい走り出す。学校まであと6分はかかるだろう。
新学期初登校早々に遅刻をかますなんてもっての他である。
せっかく穂積がわざわざ早く送ってくれたというのに。
全速力で駆け抜けるものの、もともとお嬢様の体力ではすぐに限界がくる。
もっと体力つけとくべきだった!
すでに足も限界を超えて、足がもつれながらも校舎に入り、教室の前にたどり着いた時にはホームルームのチャイムが鳴る1分前だった。
息がなかなか整わなくて、しばらくぜーはーと言っていた。
そんな時、背後からいきなり「どうした?」と声をかけられた。
振り返るとそこには先生らしき人が立っていた。
スーツをラフに着こなし、黒縁メガネを掛けた30代くらいの人だった。
私の入ろうしているのM1ー2クラスの扉に手をかけようとしている仕草に、恐らくここの担任の先生だと思われる。
私は恐らくギリギリ間に合ったらしい?
「あの...すいません、ちょっと来るのが遅れて...はぁ...はぁ」
そうまだ微妙に息の整っていないまま弁解する。
「ようするに...遅刻ギリギリだな」
ビクッと思わず反応してしまって私は苦笑いしてしまう。
「あはは...すいません」
気まずくなって取り敢えず謝ると、先生は、あ!とこぼしたと思えば、すぐにニコッと人の良さそうな笑みを浮かべた。
「君は二日遅れで登校してくる首席で入った生徒だな?!風邪引いたって聞いたけど大丈夫か?」
「大丈夫です。すいません入学初日にご迷惑かけて...本当なら私が生徒代表を務めるはずだったのに」
「いーよいーよ、気にするな。結果はどうにかなったんだからさ。それより君の名前は確か...」
「雪織紫苑です」
「あー雪織の妹か、よろしく。私はこのクラスの担任の神崎勝だ。担当は聞いてると思うが音楽科だ。よろしく」
そう言って先生は私に手を差し出し握手を求める。
私は素直にそれに応え、先生の人となりに少し安心する。
この人はとても優しそうに見えたからだ。
「今日が初めてなら、自己紹介もまだだな。俺が教室に入ってから合図で君は入って来てくれ。その時に自己紹介する」
「はい」
先生はそう言うと、教室に入っていった。
こういう時の変な緊張はまだまだ慣れない。
音楽科のクラスは2つあり、私は2組だ。少ないが、ちゃんと年に一度クラス替えがある。
確かゲームでは1年生次ヒロインの教室は1組で紫苑とは別れていた。
ヒロインの居る1組には確か、攻略対象の桜小路要と九条柊也がいる。
となると2組には秋蔵杏がいるようだ。
彼とはこの前会ったっきりである。きっと私のことを嫌っているのだろう。
フフッと笑いを思わず零しながら、自分の中で、これから起こる出来事に期待が高まっていた。
気持ちの整理がついたころに先生がドア越しに声をかけてきた。
「待たせたな。入ってきていいぞー」
その言葉で私はドアをゆっくりスライドさせて、中に入る。
自己紹介だからと教卓にいる先生の横に立つ。
「体調不良で今日まで欠席していたが、君たちと一緒にこれから生活していく雪織だ。」
簡単な説明をしてくれた先生は話終わると私の顔を見た。多分自分で自己紹介しろということだろう。
少し前に出て、第一印象笑顔を忘れない。
「雪織紫苑です。2日遅れだけど、今日からクラスメイトとしてよろしくお願いします!上の学年に兄がいるので、苗字ではなく、気軽に紫苑と呼んでくださいね」
そして最後にお辞儀をする。
教室内からは、大きくはないが拍手の音が聞こえた。拍手と一緒に、「雪織先輩の妹...」、「あの噂の?...」と、チラホラ話し声が聞こえた。
周囲を少し見てみると、窓側の一番前に秋蔵杏が座っていた。
表情は、険しい...
うん...その反応は予想してた
目が合って笑いかけると、苦笑いをして小さく気付かれない程度に手を振っていた。
彼はあの時会った時から私のことを妙に苦手そうにしてたな...
「雪織、君の席はあそこの空いている席だ」
指を指されて指定された席は、一番窓側の後ろから2番目の席であった。
そこまで向かうと、私の前の席の女の子と目が合った。
何故だかとても興味深々に私を見ていた。分かりやすいほどに目をキラキラさせてて、ちょっぴり驚く。
肩下までの少しはねたセミロングで茶髪。カワイイ系の顔立ちをした元気そうな印象の子であった。
元々大きな目をパッチリ開けていた。
その時はそのままよろしくっとだけ言って席に着いた。
それからは普通に授業が始まった。
1時限目が終わり、早速まず集団の女子が近づいてきた。
「あなた雪織先輩の妹なんですよね?!」
「うん、そうだよ」
「私、雪織先輩のファンなんです!」
「雪織家の方にお会い出来るなんて光栄です!」
「私もOlFaceの楽器を使わせていただいています。」
皆お嬢様風な人だったり、可愛く強調したオシャレをした子だったりといた。
彼女達は皆媚びているとは行かないが、私と親密になろうとしている感じがした。やはり、雪織家の令嬢である私とお近付きになりたい人だって必ずいない訳では無いのだ。
行動的で大変よろしいが、こう迫ってくると困るものだ。
声が妙に高くて私は苦手だった。
ひたすら苦笑いで誤魔化す。
こうゆうキャピキャピした子達とはちょっと...
そんなことを考えながら場が流れるの待っていると、いきなりガタンッ!と音がした。
驚いて音の方向を見ると、目の前の席の子がいきなり立ち上がった。
目の前なためか音が意外にも大きく、無意識にビクッとなってしまう。それは私の周りに集まっていた彼女たちも同じで、驚いた後に不快そうに前の席の子を見ていた。
前の席の子は確か、今朝私が席に着こうとした時に、とても興味深々に見つめてきた子だった。
彼女は暫く立ち続け、一瞬の間にグリンッと音が鳴るぐらいに一気に振り向き、私の顔の至近距離まで近づいてきた。
その顔は、あの時とは違い真剣な面持ちである。
私はどうしたものかと戸惑っていると、彼女は今度はニコッと笑った。
「昨日貴方が来る前に学校案内の説明してもらっちゃったんだ。この学校広いから、代わりに私が学校を案内してあげるね」
唐突だった。
「へ?」
「ほら行こ!」
そういって彼女は私の腕を強引に掴んで走り出した。周りの女子たちを無視して。
「あのっ!ありがたいんだけど、もうすぐ授業始まるよ?」
そう今気づいたのだが、もうすぐ2時限目のチャイムがなる頃である。
私が声をかけると、立ち止まり振り向いた。
「ごめんねー。なんか絡まれてるっぽくてさー。迷惑だったかな?」
「全然!確かに困ってたからさ。むしろありがとう」
「それなら良かったー!」
なんだかとても元気で明るい子だなぁ...
結構プライドの高い人が多いと思っていたけど、こうゆう子も居てちょっと安心だ。
存在感が異様に強いが、ゲームでは見たことがなかった。
もしかすると、ヒロインがいる1組しか脇役キャラを登場させず、あとのクラスは"他のクラス"としてあまり詳細にしていないのかもしれない。
そんなことを考えてぼーっとして気づいたら、至近距離にまた顔があった。
さっきの真面目な表情とは違い、今度は興味深そうに見ていた。
「おお...」
思わず驚いてでた声が、なんとも驚かせがいのない変な声だった。
この子は目が悪いのか?
なんて解釈を取り敢えずする。
「どうしたの?」
すると彼女は正常な位置に離れてくれた。
「思ったのと全然違うんだね」
「え?」
「いやね、噂のお嬢様はどんな高飛車なのかと思ったんだけど、全然違ったからさ。もっとツンツンしてるものかと思ったら結構フレンドリーだし。見た感じ、お化粧とかはほとんどしてないしさ」
「噂?」
「そうそう!優雅に2日開けて登校して来たお嬢様って。あとあと、中等部時代は学校に君臨してた傲慢ちきな女王様だったって聞いた。」
「へぇ、そんなこと言われてたのか」
まぁ、噂が経つのは仕方がないことだ。
この学校には中等部から上がってきた者も数名いる。私がいると知って、嫌がって噂をするものがいるのだろう。
「噂と違ってガッカリした?」
ちょっと聞いてみる
すると彼女は少し目を見開いて驚いた様子を見せた。
「全然だよ!むしろこっちの方がすき!」
「それは良かった」
「私あなたのこととても気に入った。だから友達になって欲しいな」
そう言って彼女は手を差し出した。
それに私は手を合わせ握手をする。
彼女を握った時に、あっ、と会いそうになる。
「うん、私もあなたみたいな友達欲しかった」
「やったー!、そう言えば自己紹介がまだだったね。私の名前は雅楽代水紋。気軽に名前で呼んで。みんなからはミナって呼ばれてる。お琴が得意、よろしくね」
元気な印象には似合わず、とても古風な名前だと思ったが、琴が得意と聞いて頷けた。
それに彼女の指は酷く硬かった。指の先からの皮膚が特に硬く、相当練習したのだと分かるほどだ。
よく見ると爪は綺麗に切りそろえられていて手入れが行き届いているようだった。
大雑把そうに見えて、とてもきちんとした性格のようだ。
ますます、彼女には興味がでた。
「よろしく。私も気軽に紫苑って呼んで。得意な楽器は特別ないかな。」
「えー!?じゃあじゃあ、何がやりたくて来たの?」
楽器は特にないと言うやいなや、すぐさま聞き返してきた。
この学校の音楽科は特定の楽器を生徒は得意としていることが多いらしい。
「私は作曲やりたくって入ったの。だからピアノとかは一通り出来るけど得意なわけじゃないよ」
「すごい!作曲が出来るなんて。てことは、夢は作曲家か〜。すごいな〜」
「そんなにすごい?」
「だって、私たち楽器奏者が奏でる曲を作れることが出来るんでしょ?私たちにとっては神様みたいなものだよ!」
少し大袈裟だけど、とても嬉しい
「ありがとう。そう言ってくれると嬉しいよ」
「ふふっ、これからよろしくね。紫苑」
「こちらこそ、よろしく水紋」
そうしているうちに授業が始まるチャイムが鳴り出した。
「わわっ、大変行かなきゃ」
「うん、急ご」
そうして私たちは教室へと駆け出した。
今まで読んでくださった方々本当にありがとうございます。
ついに高校生活スタートです。新しいキャラクターが続々と登場していきます。
攻略対象たちやヒロインも出てきます。




