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転生令嬢の天穹革命歌  作者: 蜂屋漣
第1章天才少女、悪役転生する
14/25

第13話




私が帰ってきた頃には、時刻は既に5時を回っていた。


急いで身なりを整えて目的の場所に向かう。

着替え中はずっと加賀美さんにコテンパンに叱られた。急ぎで準備しているため、お説教の言葉は短い変わりに強烈だ。

一発一発が痛く胸に突き刺さる。

もう怒らせない。絶対に。


お食事会とのことで既に私以外は皆席に着いていた。


朝いつも一緒に朝食をとっているメンバーよりも人数が多いためか、ちょっと新鮮で妙に緊張した。



「みなさん、遅れてしまって申し訳ありません。」

すぐさま皆の前で謝罪する。

深く頭を下げて誠心誠意謝罪する。


「無事に帰って来てくれただけで何よりだ。さあ立っていないで、座りなさい。」


父が優しく許してくれたて、大人しく自分の席に座ると、ふと目の前に身に覚えのないイケメンの姿が目に入った。

私たちと同じくらいの青年で、優しい印象のある正統派イケメンって感じだ。


あれ?こんな人家族にいたっけ?って一瞬思ったけど、当然兄弟は3人である。


なんだか最近は色々あり過ぎて乙女ゲームの事は忘れかけてた。


ちょっと悩んでから彼の方をもう一度チラッと見てみる。タイミングよく彼の目が合ってしまい少々慌てると、彼はニコッと笑った。


「久しぶりだね、紫苑ちゃん。僕のこと覚えてるかな?」


本当に誰だか思い出せなくて、しばらく困った顔で固まっていると、彼は少々悲しそうな顔で「ずっと会っていなかったもんね」と言った。


「あらあら紫苑ちゃん、椿くんよ!忘れちゃったの?昔はよく仲良くしていたじゃない

。」


痺れを切らして、母は話しかけてきた。


そう言われて考える。椿、正統派イケメン、紫苑の幼馴染...。

そんなキーワードを頭の中で並べて思考を巡らす。

そうして、ふとある事に気がつく。

私が会った攻略対象は5人。でもゲーム上の攻略対象は実質6人。つまり一人まだ会っていない攻略対象がいたと。


ゲーム上で確かに今までやってて一人なかなか印象に残らなかった人がいた。ゲームの中盤辺りでやっと登場した上に、ゲーム上でも分かりやすく隠された存在だったからだ。

そう、彼はいわゆる隠し攻略キャラというやつだ。


もともと興味を持ってやっていた訳では無い私にとっては、彼は一番まともな人間ではあった。

なぜなら、ゲームに出てくる攻略対象キャラはドSな王様やら、チャラ男、鬼畜眼鏡、冷血漢男、ひねくれ年下男子とみんなキャラが濃かった。その中でも比較的ひん曲がった性格をしておらず、清楚で優しく柔和な所から、結構好ましくは思っていた。


ただ周りのキャラの存在が濃すぎて、その上隠しキャラはためか、印象が薄くて忘れていた。


彼の名前は冬月 楓。由緒ある日本舞踊の家系の三男である。ヴァイオリン奏者であった祖父の影響から本人もヴァイオリンを弾きはじめる。実力はかなりのもので、高校1年生の時にニューヨークの音楽学校に留学していた。

その為から留年していて、本当は私より二つ年上だが、一つ上の兄と同級生である。


兄とはなかなかウマが合うようで、よくつるむことが多い。


そんな彼だが、実はとても虚弱体質な身体を持っていて、幼い頃は何をしてもすぐに体を壊していた過去を持つ。成長するにつれ、すぐに体調が悪くなることは減ったが、今でも保健室に通うことが多い。


そんな正統派and儚い系美青年はキャラクタランキングでは常に2位。裏のランキングでは1位という人気キャラクターの一人。


彼は生徒会には入っておらず、ゲームのヒロインが入学した当初は学校に行かないことが多い上に保健室を利用していたこともあり、会うことはほとんどなかった。


ゲーム上で攻略キャラ全員をフラグを立てた後にとあるハプニングでヒロインが怪我をおって、保健室でやっと初めて会うという隠しキャラ。


そんな隠しキャラは、まだゲームも始まっていないのに私の目の前にいらっしゃる。


なんだか、突然頭が現実に追いつかなくなった。


どうせ関わらなければ、問題を起こさなければ、攻略対象たちとは会うことはないと自分で思ってた。


家族はしょうがないとしても、ゲームでは一切関わろうとしていなかった兄や弟だって、本当はこんなに会うことはないはず。


その時、自分はゲームから離れてるのではなく近づいているのではないかと思った。


ひょっとすると、自分は気付かないうちに色々ヘマをしていまっているのではないか?と。


「ご、ごめんなさい。覚えてないです。」


今はそれしか出てこなかった。


「はは、そっか。そうだよね、ごめん。」


私の言葉に、椿さんは少し笑ってそう返してきた。

なんだかとても申し訳ない。


それに、私と椿さんの会話に空気が静まり返ってしまった。


「ねぇ、さっさと食べない。せっかくの料理が冷めるんだけど。」


「おお、そんだね。さあみんな、せっかくのお祝いだ。乾杯しよう。」


「ええ!みんなグラスを持って!」


優希の一言で父がいつもの空気に戻してくれた。

母の合図でみんながそれぞれグラスを持って「乾杯」と言いながら上に上げ、それぞれ近くにいる者にグラスを当て合った。


優希には感謝である。

最近は私の奇行に呆れ顔を見せたり、家族に隠し事をする私にさりげなくフォローを入れてくれるようになった。


前と随分変わったなと思う点では表情が豊かになってきた。

この前まで私にはずっと仏頂面で、虫を見るような目で見ていたっけ...。


まあさて置き、これで攻略対象たちとは全員顔合わせを終えた。兄弟はともかく他の攻略対象キャラとはあまり関わらないようにしなくては行けない。


幸い私はもともと嫌われている。

関わり方を間違えず、目立たず高校生を過ごそう!

そんなことを密かに私は誓った。


気分も晴れやかに夕食を頬張る私をいつものようににこやかに見守る両親とは違い、睨みながら見つめる兄とにこにこ顔で私を観察する目の前の視線が異様に痛い。


こっちにしてはいい迷惑である。はっきり言って見ないで欲しい。自分の食べてる顔じっと見られたらそりゃ誰でも嫌でわないか。


兄はどうせ優希と同じパターンだろうと予想が着くけど、目の前の椿さんの行動はよく分からない。


さっきから表面ではにこにこ顔を装っているけど、さっきから全然私から目線をそらさないでいる。


「あの、先程から何でしょうか?」


痺れを切らした私がそう話しかけると、彼は私を見つめていたことを否定するでもなく「ごめんね」と言った。


「なんだか紫苑ちゃん、雰囲気変わったね。」


「そう、ですか?」


「うん。それに、学校も首席で入っちゃうなんて、勉強が嫌いだと聞いてはいたから余程頑張ったんだね。おめでとう。」


「ありがとう...ございます。」


何を言われるかと思ったが、純粋に紫苑が高校合格のために頑張ったのだと褒めてきた。...ように見える。


なんだか、ちょっと掴めない人だ。

そんなことを考えながらまた食べ始めようとした時、いきなり隣に座っていた母が勢いよく顔を上げた。


「そうそう司、椿さん聞いて。紫苑が音楽をまた始めたのよ!それも将来は作曲家になるんですって!!お母さん鼻が高いわ!この前のピアノの演奏なんて上手だったよの!」


ずっと言いたかったという勢いで話した出した内容は、なんと私の事。


兄と椿さんには言わないで置こうと思ってた矢先にこれ。しかも親から他の人に自分の夢を暴露されるって恥ずかしすぎる。


(やめてぇぇぇぇぇ!!)


今も自分の事のように話し続ける母の口を塞ぎたくてたまらない。


「ほう、母さんがそこまで言うのならぜひ演奏を聞かせてもらいたいな。」


「うん、僕も聞きたいな。紫苑ちゃんの演奏。」


ずっと口を閉じしていた兄の言葉で、流れが徐々に私がピアノを演奏する感じになっている。


「いいわね!紫苑ちゃん、この後弾いてくれる?」


そして締めの母である。


「いや、あの…実は指を怪我していて弾けない状態なんです。」


取り敢えず嘘をついて弾けないことにすることにした。


「あら、そうなの。それは大変!演奏家の指は命も同然だから、無理はいけないはね。二人とも、今日は無理みたい。ごめんね。」


「そうか。いつどこで怪我したんだ?普通にご飯を食べてたから気が付かなかったな。」


「今日転んだ拍子に左の小指を突き指してしまったんです。あまり使わない指ですから、生活に支障はないと思いますが、ピアノとなると難しいです。」


やはり母は騙せても兄は騙せなかったようでようで、痛いところをつかれる。


咄嗟に言った言い訳で、兄はそうかと言って黙った。

椿さんも残念だねと言ってこの話は終わった。


この後は何事もなく夕食の時間ふ過ぎ去り、私はそそくさと部屋に帰った。


彼らは忙しいようで、明日には学校に戻るそうだ。すでに副生徒会長としての兄は、もうすぐくる入学式に備えて色々仕事が山詰めらしい。

椿さんは、お手伝いで一緒に行くらしい。


これから入学しで暫くは会うことはないだろう。


「ふぅー、やっぱり攻略対象の相手はつかれる。無駄にキラキラしてるし。」


これからヒロインが私の知らないところで、彼らの闇を一つ一つ払っていくのだろう。

彼女に任せれば大丈夫だろう。私からは関わらなければとばっちりは来ないだろうし。


正直助かる。実際彼らとあってみたが、みんなあれで悩みがあるなんて、贅沢すぎて鼻で笑ってしまう。

恵まれた環境に生まれたのに、さらに何かを求めようなんて贅沢だ。


前世では生まれた時から何も持ってなくて、唯一神様から与えられた才能だけで生きてきて、やっとの思いで掴んだ物も、尽く奪われた私には羨ましく思える。


生まれた環境と容姿だけで、だいたいの人間は簡単に上に登る。それをもともと持ってなかった人間は、死ぬ気で頑張って同じ土俵に立とうとしなければならない。


これは理不尽な神様が与えた階層。

持って生まれた人間がエスカレーターで上に登っていく横で、庶民は崖の上をロッククライミングして登るのだ。


そういうものを何度か恨んだことはあったけど、上にたった時気づいたんだよね。

エスカレーターで上がっていった人達は、案外もろいってことを。

今まで当たり前に持ってたものや、富とか名声とかって、案外簡単になくなる。彼らが抱えているものは手のひらでしか支えられてないの。だから、ちょっと震えるだけで指の間から零れ落ちちゃう。


反対に努力を重ねてのし上がったものは、険しい崖を登ってきた精神と、どんな強風にも耐えてきた強い身体がある。


彼らは大切なものを決して手放さないし、奪われても絶対に取り返そうとする。


だから努力する人間は強い。


お金持ちの人が全部悪いわけではない。

ただその環境におごらないで欲しいのだ。


そう言えばあの子が言ってたっけ、「頑張る」って実は世界で一番素晴らしい言葉だって。


あの子の為にも、私は過去を絶対に忘れない。私の決めた道は決して曲げない。走り続けないと届かないから。

一人でいると、つい昔のことを思い出してしまう。

きっとこれがホームシックってやつかな?


私はベッドに倒れ込んで、布団にくるまった。


「そう言えば、社長からお願いされた仕事、一ヶ月以内に作ればいいから、今日は休もー。早めに作っとこうと思ったけど、今日はなんだか疲れた。」


なんて考えながら目を閉じると、私は自然とそのまま眠った。



これで第一章終了です。

次から高校編になります。


一応恋愛なのですが、まだまだ先になるかもです。


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