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転生令嬢の天穹革命歌  作者: 蜂屋漣
第1章天才少女、悪役転生する
13/25

第12話



入学式まであと1ヶ月のこと。私はその残り少ない時間を有意義に過ごそうとしていた。


合格したすぐ後に、私の作る曲に興味を持ったいくつかの企業から声がかかった。

そのうちの一つと契約を交わした私は、15歳の若さでプロの一歩手前まで行くことが出来た。

私が選んだのは「御手洗プロダクション」。他所からは通称「みてプロ」と呼ばれている。


知名度はさほど高くはないが実力者のみを集めた実力派企業。他社からはからはこれからが期待されたプロダクションである。磨けば光る原石となりうる存在を集めているところで、私と同じ作曲家の人達だけでなく、あらゆる実力派が揃っている。


やり手の女社長が立ち上げた会社で、彼女の名は御手洗 遥さん。

彼女自身に大きな実績がある訳ではないが、人を育てるのが上手い人と聞いている。


初対面で言われたことは今でも忘れない。出会い頭に私に向けた第一声が「あなたに惚れたわ!」であった。いきなりプロポーズまがいなことを言われたものだから、私は言おう言おうとしていた挨拶の言葉が全部頭から吹っ飛んだ。


彼女の余りの熱気に最初は着いていけるのか心配だったけど、彼女の仕事ぶりを見ているうちに彼女となら上手くやって行けるのではと思うようになった。何となくお互い馬があっていたし。


それに活発で男勝りなところはどことなく前田ちゃんに似ていた。


みてプロには高校生からアルバイトとして入ることになっている。勿論高校側には許可をとった。


今はお手伝いとして、曲の調整、短いBGMの作曲、をやらせてもらっている。


今日もお手伝いさせてもらい、今は今日の仕事が終わり帰路に着こうとしていた。


夕方で辺りが暗くなろうとしている中、私はヘッドフォンを耳にかけて、その上からパーカーのフードを深く被りながら歩いていた。

この格好は前世からの癖で一番落ち着くんさのだ。

その姿はとてもエリート企業のお嬢様には見えない風貌である。


そのためか、私はこちらにゆっくりと近づいている車にまったく気が付かなかった。


唐突に、後ろから人の気配を感じたと同時に肩にポンッと誰かの手が置かれた感覚がした。


咄嗟に振り向き、付けていたヘッドフォンとフードをとると、そこには背の高い男の人が立っていた。夕日のせいかシルエット状にしか見えず目を凝らして見て、私は固まった。ピシッと音がなるのではないかというくらい一瞬で固まった。


「お前、こんな所で何してる」


そう言って私に睨みを効かせる青年は、学園の寮にいるはずの我がお兄様であった。


(なんで雪織司がこんな所に!?)

固まったまま未だ返事を返さない私に痺れを切らしたのか、睨みをいっそう強めた。

「聞いているのか!」


「ヒッえっと...今家に帰ってるところです。」


咄嗟に出た言葉は聞き取りにくい小さな声になってしまっていた。


「迎えも寄越さずにか?」


「はい」

(ヒィィィ!私何かした?!)


「...そうか、なら帰るぞ」


「へ?」


「迎えに来た。向こうに車を止めてある。」


そう言われて彼の後ろの方を見ると、そこには黒塗りの高級車が道路の端に止まっていた。運転席には穂積らしき男の人が乗っていた。


瞬時に迎えに来てくれたのだと察したが、

それにしてもなぜ兄が自ら私を迎えに来てくれたのかとても疑問である。兄は紫音を酷く嫌っていて、目すら合わせようとはしなかったはず。


「おい、早く乗れ。」


そうこうしているうちに、兄は車に乗ろうとしていた。突っ立ったままだった私は、急いで車に駆け寄って乗り込んだ。


乗ったはいいものの早速沈黙が続く。取り敢えず怒鳴られる前にフードをとり、ヘッドフォンをリュクの中にしまい込む。

まさか兄に出くわすなんて夢にも思わず、もう一度言うが令嬢にあるまじき格好はさすがに怒られかねない。


いつ指摘されるかと思うとビクビクしてしまう。

(だってなんかずっと眉間にシワよってて怖いんだもん!)


なんだか落ち着かなくて兄の顔を横目で見てみる。

(さすが攻略対象、イケメンだ。)


この人とは記憶が戻ってから初めて会うことになる。攻略対象の1人で、私より1つ上の高校2年生。現在は鴻崎学園の副会長を任されており、次期生徒会長との呼び声も高い。


何事にも冷静で物怖じしない性格な兄は眉目秀麗、成績優秀の完璧人間。去年の首席入学者は兄だった。父と同じく将来はプロの指揮者になることが彼の目標である。


そのため結果を求め、常に努力を惜しまない。自分の目標のためにひたむきにピアノを弾く姿は、司推しのファンには大好評だった。その上周囲への気配りもそれとなく出来ている頼れるクールイケメンである。


紫苑と司は2人とも母親似である。だから司と紫苑は兄弟の中で特に顔が似ている。


私たちの母親は真っ直ぐで純粋な黒の髪に清楚で美しい大和撫子のような人だ。


そしてその母親の血を色濃く受け継いだためか、2人の兄弟は清楚な雰囲気の美人顔である。打って変わって弟の優希は父親似で、父親の優しそうな雰囲気の容姿と明るい髪色を受け継いでいる。だがその割には性格はひねくれて育ってしまった。


顔は素晴らしく美しいこの3人の兄弟は、とても仲が悪い。


紫苑は持ち前の性格の悪さから、兄と弟からは心の底から毛嫌いされている。特に紫苑と兄の司は犬猿の仲で、常に喧嘩が耐えない。

曲がったことが大嫌いな司には、自分中心なお嬢様の紫苑は根本的に合わない。

弟の優希は面倒事が嫌いな性格のため、基本2人には関わらないようにしている。その上なんでも完璧にこなす兄に劣等感を抱いているためか司には必要最低限の会話しかしない。

優希は人一倍負けず嫌いでプライドが高く、兄と姉を邪魔に思っている。


このように、兄弟仲はとてつもなく冷えきっているのだ。

だから、司が紫苑を自ら迎えに来るだなんて考えられないことである。

(もしや説教か?でもそれなわざわざこんなことはしないはず...)


「うーん」


「...ィ...おい、紫苑」


「うーむ」


「おい!!」


「はい!なんでしょう!!」


悩んでいる間に兄から声をかけられていたことに全く気が付かなかった。兄は腕を組みながら険しい顔でこちらを睨んでいた。


「お前、鴻崎の受験で首席をとったそうじゃないか。」


「そう...みたいですね」

(恐らく、本当に私が首席を取ったとは思っていないだろうな。不正を働いのではと疑ってるかもしれない。まあゲームの紫苑ならやりかねないんだけど。)


確かゲームでは、紫苑は教師の弱みを握ってお金を貢いで裏口でギリギリ入学していた。そうでもしなければ、紫苑の頭の悪さでは到底入学など出来ない。

今でも思うが、部屋に捨てられてあったあのテストの点数は人がとる点数では無い。


「うちの学校は厳しい。生半可な気持ちではすぐに周りに追いつかなくなる。ましてや、うちの学園は才能に溢れたものも多い、入るからには音を上げるなよ。」


「...あ、はい。頑張ります。」

遠回しに脅された。


要するに、うちの学園にお前は相応しくない。不正を働いてもいつかバレるから高を括ってられるのは今のうちだ、と言いたいのだろう。心の声が大分漏れてる。


相当毛嫌いしているのは確かなようだ。

でもここで嫌われたままだと、勘違いで断罪されかねない。ここはどうにか仲良くした方が安全に行けるのでは?


それに、学園での彼の力は利用出来ないのはとても惜しい。いざとなった時、彼の助けが必要になるかもしれない。


ならば今兄が家に帰っているのは、むしろ好機。この機会に親睦を深めようではないか。

ならばまず、この沈黙をどうにかしなくては。


「あの、お兄様...。わざわざお迎えに来て下さりありがとうございます。」


相手の気を良くするため、笑顔は欠かさない。らしくない淑女の笑顔を見せるも、慣れていなせいで引きつりそうだ。


「気持ち悪いからその顔やめろ。」


「......え?」


「そんな見え透いた顔をやめろと言ってる。そんなことをしても、お前を学園では一切助けないからな。だいたい顔が引きつってるぞ。」


やはりバレていたか。もともとの仲の悪さのせいで兄は常に私を警戒しているらしい。このレベルの騙しは通用しないらしい。


「そう、ですか...」


けれど、思春期真っ盛りの花の乙女に気持ち悪いは流石に酷い。ゲームの紫苑だったら激怒しかねない。この人と紫苑が合わないのがよく分かる。


「はぁ...」


私は小さくため息を着いて、外を見始めた。


「あと、お前今日の約束忘れてるだろ。いつまでも帰らないお前に痺れを切らして、母さんか俺を迎えに行かせたんだ。」


唐突に、今度は兄の方から話を振ってきた。一瞬話の内容が理解出来なかった。


「え...今日って何かありましたっけ?」


「母さんに言われたはずだ。今日はお前の合格祝いの食事会をすると。それで俺がわざわざ帰ってきてやったんだからな。」


(え?そんなこと言われたっけ?)

そんなこと母から伝えられた覚えはない。


ひょっとすれば私が忘れているのかもしれない。


「うっかり忘れてしまっていましたわ。ご迷惑をかけて申し訳ありません。」


「...後で母さんにちゃんと謝れよ。」


「はい」


取り敢えず謝っておくが、頭の中では、それをいつ言われたのか未だ思い出せずにいる。必死に今日の朝起きてからの記憶をさかのぼってどうにか思い出そう頭の中で奮闘する。


今日は確か、仕事のために朝早く起きて7時に出発したはず。

あ、でも出発する最中に何か言われたような覚えがある。


外に出ようとしてメイドさんが駆け寄ってきてなにか言ってたっけ?

確か...


「じゃっ、いってきまーす」

そう言って言って外に出ようとする私に後ろからとあるメイドさんが駆け寄ってきて。


「お嬢様、今日はお食事会なので必ず4時にはお帰りになられますようお願いします。」



「......あああっ!!」

(思い出した!そう言えばそんなことを言われてた。)


瞬時に時計を見ると、もう5時を過ぎていた。


「どうしたいきなり大声を出して?!」


「え?」

ふと、隣から話しかけられて振り向くと、兄が心底驚いた顔でこちらを見ていた。


そこで、自分が無意識に突然大声を出していたことに気がついた。先程淑女らしく振る舞い、兄と仲良くしてみせると意気込んでおいて既にこのザマは流石に笑えない。


「すす、すいません!少し大事な事を思い出してしまって、つい声が出てしまいましたわ。おほほほほ」

と言ってもさっき言われたことに対してだけど。

それに、お嬢様笑いでどうにかしようとした自分が、どんどん紫苑に似てきた様に感じて切ない。



そんなやり取りを繰り返している内に、車は既に家の玄関の門を過ぎていた。

帰宅した私たちを玄関の前で待っていたのは、母だった。


着いてそうそう私に駆け寄ってきて私に、

母は「また居なくなってしまったのかと思った」と言って私を抱きしめた。


「心配をおかけしてごめんなさい。」


本当に申し訳ない事をしてしまった。罪悪感でどうにかなりそうだ。


母は目に涙を溜めて私を強く抱きしめた。

家族に心配されるのはまだ慣れてないせいか、この時にどう対応していいか分からない。泣いている母に私はついオロオロしてしまう。


気がつけば兄は既にいなくなっていた。薄情な人だ、と少し恨ましく思っていると、母の後ろにはいつの間にか目をギンギンに光らせた朝伝言を言ってくれたメイドさんが立っていたことに気がついた。

メイドさんは顔には出ていないが、明らかに怒っているオーラが全身を纏っていた。


「ヒィッ......」


本日2度目の恐怖である。

それも先程とは違って威圧感が半端なかった。


その時、このメイド加賀美さんには一生勝てないなと悟ったのだった。


この数分後、着替えと同時進行で行われた説教は、それはそれは怖かった。






遅れてすいません!

やっと司が登場しました!皆さん次回も是非見てください!!

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