複雑な気持ち 4
「どうかしたんですか?」
凜子先輩は固まったように、画面を覗きこんだままだ。もちろんイーレッセが現れたという報せは望むものではないけど、それにしては凛子先輩の様子が変だった。
「だ、大丈夫よ……」
珍しく口ごもった凛子先輩の表情がぎこちなく感じる。
「とにかく……行きましょう。私たちはそのために武器をとったのだから」
すぐにいつも通りの凛子先輩に戻っていた。様子がおかしく見えたのは、気のせいだったのだろうか。
「そうですね……急ぎましょう」
私もうなずく。携帯の画面は早くも目的地までのルートを表示している。
*
公園とは、人の気配がないとこんなに静かで、薄ら寒い場所になるのだと初めて知った。時おりびゅっと吹く風も、たぶん実際の温度よりも冷たい感じがして、思わず肩を抱く。
風に煽られた梢や、腰の高さくらいの茂みが、がさがさとまるで近くを通る人を脅かすようにざわめいている。
外周を歩けばキロの単位になるだろう、それなりに広い公園。入り口にあった案内図によると、中心部には芝生の広場と、テニスコートや池もあるらしい。
「あまり茂みに近づかないほうがいいわ」
自身も油断なく周囲に目を配りながら、凛子先輩は言った。
「――はい」
頼りのミョルニルを、身体の前でぎゅっと握りながら返事をする。
携帯に表示されたルートに従って来たのが公園だった。いつものようにシロと顔を合わせ、中に入ってきたところ。肝心のイーレッセの姿はまだない。
外周を常緑樹の木々と、背の低い生垣が広く覆っているせいでひどく見通しが悪い。
木の陰や茂みからあの赤い目が飛び出してくるかもしれないと思うと、生きた心地がしない。だからといってずんずんと先を突き進んでいったら、それこそ相手の思う壺。だから私たちは慎重に、目を凝らすしかなかった。
――パキ。
すぐ近くで枝の折れる音。すぐさま音のした方に向けてミョルニルを振り上げる。
「待って!」
凛子先輩がすぐに私の行動を制止した。周りには相変わらず二人以外の姿はない。
「ごめんなさい……今の私」
凛子先輩が足元を示す。目線をずらすと、その足元に折れた枝が転がっていた。
「な、なんだ……びっくりしました」
安堵の息を吐く。とにかくイーレッセじゃなくてよかった。凛子先輩はばつが悪そうに苦笑いする。でもたったそれだけのことにびっくりしてしまうくらい、緊張していたということでもある。もっと冷静にならないといけないかもしれない。
「少し危ないかもしれないけど……もっと見通しのいい場所に移動した方がよさそうね……」
「そうかもしれません」
素早く動けばその分、敵の奇襲を受けやすくなる。それでも今の現状はあまりいいとは思えなかった。時間が経てば経つだけ、集中力がごりごりと削られていく。




