複雑な気持ち 3
何ごともなく部活も終わり、校門前で手を振り合ってみんなと別れる。
それから私はといえば、肩を落として校舎を振り返った。今日が金曜日だから、次に凛子先輩と会える可能性があるのは来週の月曜日ということになる。休みは大好きなはずなのに、早く終わればいいって、思ったりしてしまう。
「帰ろう……」
いつまでもこうしていても凛子先輩が出てくるわけもなく、あきらめて駅へと向かう。
でも、ぴたりと、動き出した足がまたすぐに止まった。
校門の脇、前もそうしていたように、文庫本を片手にして見目麗しい人が佇んでいたからだ。
こんな時間まで凛子先輩は何をしているのだろう。待ち合わせだろうか、もしかして私を? って、そんなわけはないか。
とにかくこれは思いも寄らぬチャンスに違いなかった。今なら連絡先を聞けるかもしれない。でも、誰かを待っているならそれを邪魔してしまうのも悪い気がする。
――だめだだめだ。そうやっていろいろ考えて迷うのは悪い癖。少しでも凛子先輩に近づくって決めたんだ。
意を決し声をかけようとして、ふと、凛子先輩の顔が正面を向いた。ばっちりと目が合う。
「え、あ……」
不意なことに咄嗟に言葉が出てこない。
「結衣!」
凛子先輩が読んでいた本を鞄に仕舞って、駆け寄った。
「お、おはようございます!」
何を言っているんだ私は――久しぶりで緊張しすぎて、頭が正常に働かない。
「何言っているの」
私の心の声と同じ感想を言って、凛子先輩は苦笑いを浮かべた。
「あはは、は……」
「ふふ、久しぶりね」
「はい……」
一週間、すごく長く感じた。
「でも、凛子先輩はどうして?」
「あなたを待っていたのよ」
「え!?」
自分で妄想して、真っ先に否定したことこそ、正解だったらしい。
「神社の時にね、連絡先を聞きそびれたてしまったから……わからないと不便でしょう?」
「私も! 私も聞きに行こうと思ってました!」
私と同じことを凛子先輩も考えてくれていた、それが嬉しくて、前のめりになってしまう。
「とにかく会えてよかった。もう帰ってしまったかもしれないって、不安になっていたところだったの」
「ごめんなさい……」
もう六時を随分と過ぎている。こんなことなら部室でだらだらと喋っているんじゃなかった。できることなら、さっきまでの自分を、思いっきり殴ってやりたい。
「いいのよ、私が勝手に待っていたのだから」
凛子先輩は優しい。六時からここにいたとしてもかなり待ったはずなのに、怒るような素振りは全くなかった。
「でも、こうして待っていてくれて、嬉しいです!」
「でもそのわりには、一度も顔を見せてくれなかったみたいだけど?」
「そ、それは……」
行かなかったんじゃなくて、行けなかったんだけど――でも結局のところ、こうして会いに来てくれたのは凛子先輩の方だ。三年生だとか、迷惑になるかも、なんて遠慮してしまったのが私。
「すいません……」
「――冗談よ」
にこりと、楽しそうに能見先輩は言った。
「冗談!?」
「年長の教室に行くのに勇気がいることぐらい、わかるつもりよ? ちょっとからかってみただけ」
「そんなぁ……ひどい」
そう言いながら、ちっとも悪い気分じゃなかった。
凛子先輩とこうして話せるようになる前は、凛と前だけ向いた真面目な顔しか知らなかったから、笑ったり怒ったり、からかわれたり、そんないろいろな表情全てが新鮮だった。
「結衣って、からかいたくなるのよね」
「よく言われます……」
愛歌になんて、それこそ日常的に遊ばれているような気がするし。
「さあそれじゃあ、交換しましょうか」
「はい! お願いします!」
鞄から携帯を出して、とうとう凛子先輩の連絡先を知ることができる。どこか万感の思いを覚えながら画面に触れる。どうやってやり取りをしようかと顔を上げた時、軽快な音楽と、単純なアラーム音が同時に鳴り響いた。
凛子先輩と目が合う。何もこんな時に……これまで音沙汰もなかったのに――
確信を持って、画面に目を下ろした。そこに表示される、地名と数字の羅列。それはただの着信ではない。私と凛子先輩を呼ぶ、無情な報せ。




