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晴れた空、花がほころぶように  作者: ラサ


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4/24

4 聞いていたい声


 月曜日が待ち遠しかった。


 特に、昼休みが。


 余程待ち遠しかったのか、朝から上の空で、

 メグと優希からは「まだ寝ぼけてる」と言われ、

 ごまかすしかなかった。


 国語と英語はやっぱり上の空だったけど、

 得意なのでそれほど支障もない。


 苦手な数学をのりきり、社会もやり過ごせば、

 昼休みまではあっという間だった。


 メグと他愛ないおしゃべりをしながら優希を待つ。


 優希が来たら、私は二音へ向かう。


 それがここ一週間のパターン。


「メグぅ、かのぉん」


 優希がいつものように前側の入り口からやって来る。


 私とメグが手を振って応える。


 私は、いつものように優希に席を譲るために立ち上がろうとした。


 その時。


「おい、高森」


 不意に、横から声がかかった。


 顔を上げると、優希と同じ3組の東堂くんが立っていた。


 なぜ声をかけられたのかわからず、私は返事もできなかった。


「――」


「最近、昼休みいつも教室にいないよな。どこ行ってんだよ」


 いきなり詰め寄られて、思わず椅子ごと後ろに退く。


 そこへすかさず、メグと優希が割って入ってくれる。


「なんで花音の昼休みの行動なんて気にすんのよ?

 あんたに関係ないじゃん、東堂」


「そうよ。陸上オタクが花音に何の用よ。

 もしかして、花音のこと好きなんじゃないの?」


「ばっ――んなわけねえだろ!!」


「むきになって否定するとこがあやし~い」


 優希が東堂くんの注意を引いていてくれる間に、

 メグが私に行くよう手で促す。


 私は机の中から楽譜の入ったファイルを取り出し、

 教室の後ろから出て行った。


 渡り廊下を早足で行くと、

 もう普通棟の騒がしさは遠ざかり、

 ほっとした。


 正直、私は東堂くんが苦手だった。


 私達が三人で昼休みいる時は、

 よく話しかけてはくるけれど、

 主にそれは同じクラスの優希だった。


 背が大きくて、

 声変わりがすんだ低すぎる声で、

 威圧感があった。


 低すぎる声で怒鳴るように上から話されると、

 しかられているようでいつも怖かった。


 そんな彼が、なぜ私にいきなり話しかけてきたんだろう。


「――」


 思わず、両手に抱きかかえていたファイルに力がこもった。


 渡り廊下が終わると、すぐに東階段があり、

 そこを上り、一番奥の二音へ向かう。


 二音でピアノを弾くようになった1年生の時から、

 昼休みの特別棟の3階はいつも静かで人の出入りもほとんど無かった。


 二音に入れば、そこは静かな、私とピアノだけの空間。


 さっきまでの嫌な気分は無くなっていた。


 いつものように、私は眠っていたピアノを起こす。


 譜面台には、いつもの楽譜の他に、別の楽譜も二つ入れてきた。


 隣の準備室で聞いている彼のために、準備したのだ。


 私が好きな曲を、彼に聞いてもらいたかった。


 神様を信じる人達が作った、美しい曲を。


 そこに神様がいると、思わせてくれるような曲を。


「――」


 深呼吸を一つして。


 私は演奏を始めた。


 そこに、神様がいると信じるように。






 三曲を弾き、もう一度それを繰り返せば、もう時間だった。


 私は、いつものようにピアノを片付け、楽譜を戻したファイルを持つ。


 二音を出る前に、思い切って準備室のドアの前に立った。


 静かな音楽室には、やはり人の気配はしない。


「――」


 恐る恐るドアノブに触れ、静かに回してみた。


 でも、鍵がかかっていて、途中で止まって最後まで回せなかった。


 そのことに、安堵する。


 やっぱりいるんだ。


 そして、私のピアノを聞いてくれていた。


 今週会えたら、

 私が新しく弾いた曲のことを、聞いてくれるかもしれない。


 そう考えて、今からもう週末が待ち遠しくなった。






 長いようであっという間の週末。


 東堂くんはもう、私に声をかけることはなかったが、

 優希達はしばらくそのネタで私をからかった。


 きっと優希は、クラスに戻ってからも東堂くんをからかっていたのだろう。


 その週は、昼休み2組に来ることもなくて安心した。


 待ちに待った真夜中、私は、先週より30分早く、家を抜け出した。


 彼がいつも出てくるあの角の先を覗いてみるつもりだった。


 あの道の先にあるのは、家じゃない。


 あの先には、裏山に向かう石段と、

 その上には昔ながらの古い神社しかないのだ。


 彼は、真夜中にあそこで、何をしているんだろう。


 なぜ、自分の家に、いないのだろう。


 日ごとに彼のことを知りたくなる自分の気持ちを、

 抑えることができなかった。


 30分早く出ても、やっぱり誰とも出会わない。


 通り過ぎる水銀灯のジジッという音と、

 ひたひたと動く私の靴音だけ。


 気分が高揚して、怖さもなかった。


 でも、いつも彼が歩いてくる角の道に立った時は、正直どきどきした。


 奥は真っ暗で見えなかった。


 一瞬、ここでいつものように彼が来るのを待とうかとも思った。


 でも、それじゃあ何も変わらない。


 狭い世界で、同じパターンの繰り返し。


 いつもの自分なら、諦めていた。


 でも、私は知ってしまったから。


 天野空良の、優しく響くあの声を。


 音楽を愛するように、私はあの声を聞いていたかった。


 もっと、もっと。


 その気持ちを、諦めることはできなかった。


 行って、駄目だと思ったら戻ってこよう。


 そう決めて、私は進んだ。


 道路沿いの塀と家を過ぎると、道の両脇は林だった。


 角の水銀灯を離れて行くに連れて、暗いけれど、逆に目が慣れて、周りの景色が見える。


 緩くカーブのかかった細い道の先がほんのりと明るい。


 水銀灯だ。


 カーブの先を覗くと、石段の所がぼんやりと照らし出されていて、

 その四、五段上に、誰かが座っていたのでぎょっとした。


 でも、それがすぐに誰だかわかって、私は違う意味でどきどきした。


 天野空良だ。


 私は、すぐに近づいていった。


 彼は最初は私に気づかなかった。


 でも、静かに近づく私に気づくと、立ち上がって、石段を下りてきた。


 そして、驚いたような顔で私をまじまじと見つめていた。


「あんた、ホントにまた来たのかよ――」


 呆れたような、その声を聞けて、私は嬉しく思った。






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