表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイレントホライズンの航宙記 進化の果てには…  作者: じろりんたん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/6

航行ログの真実

ブリッジのシステムは、ほとんどが後付けのAIによって制御されていた。

民間の調査船では珍しいことではないが、AIは本来、

航路が整備され、FTL通信が常に届く領域でこそ安定して働く。


未踏の宙域では、状況判断の誤りが増える傾向がある。


これだけAI任せの構造になっているということは、

この船のクルーはおそらく、あの三人だけだったのだろう。


長期間の航行なら、人数が少ないほど食料の消費は抑えられる。

そして、探査報酬の分け前も多くなる。

合理的ではあるが、同時に危うい選択でもあった。


ブリッジに入ると、セラは一度だけ室内を見渡した。

後付けAIがほとんどのシステムを制御しているため、

ブリッジは人の気配が薄く、静まり返っている。


まるで、ここだけ時間が止まっているようだった。



「遭難した日の航行ログを見せて」


セラが短く指示すると、天井のスピーカーからAIの声が返った。


「了解しました」


ブリッジ中央の大型モニターがゆっくりと明度を上げ、

航行ログの一覧が静かに浮かび上がる。


航行ログは、宇宙船の“ドライブレコーダー”にあたる。

船外の状況、ブリッジ、通路、居住区――

主要区画を常時記録し、一年間の保存が義務付けられている。


セラが選択した記録が再生されると、

映像は遭難船がこの星へ降下しようとしている場面へ切り替わった。


「ブリッジの映像に切り替えて」


セラの声に応じて、画面が船内へと移る。


そこには三人の乗員がいた。

彼らは前方の青い惑星を見つめながら、抑えきれない興奮を口にしている。


「やったぞ……報奨金コース間違いなしだ」

「あとは地上に降りて、分析結果を持ち帰るだけだな」

「よし、降下準備に入るぞ」


浮き立つような声と笑いが、記録映像の中に残されていた。

その明るさは、今の静まり返った船内とはあまりにも対照的だった。


映像の中で、遭難船はゆっくりと降下を始めていた。

成層圏を抜け、雲の層が視界に広がり始めたその時、

AIの警告音がブリッジに鋭く響く。


《エンジンに異常を検知》


三人の乗員が一斉にパネルへ手を伸ばす。

だが、その動きには明らかな迷いがあった。

未踏宙域でのトラブルに慣れていないのが、表情の端に滲んでいる。


一人が席を立ち、ブリッジを飛び出していく。

エンジンルームへ向かったのだろう。

その間にも船体はわずかに傾き、姿勢が不安定になっていく。


操縦席の乗員が手動操縦に切り替えようとした瞬間、

隣の乗員が慌てて腕を掴んだ。


「やめろ、AIに任せろ!」


判断の根拠は薄い。

だが、彼らにはAIに頼る以外の選択肢がなかった。


船は揺れを増しながらも、

AIが必死に姿勢制御を行っているのが映像越しにも分かる。

草原が近づき、地表の影が大きくなっていく。


そして――


強い衝撃とともに、船体が地面に接触した。


映像は大きく揺れ、画面が一瞬乱れる。

だが次の瞬間には、船は草原の上に静止していた。

不安定な降下ではあったが、着陸は成功していた。


「映像をエンジンルームに切り替えて」


セラの指示に応じて、モニターの映像が切り替わる。

エンジンルームは薄暗く、緊急灯だけが赤い光を落としていた。

炎も煙も見えない。

だが、エンジンブロックの一部が赤く変色し、金属が溶けて歪んでいるのが分かる。


ハーランが画面に目を細めた。


「ずいぶん古い型のエンジンだな……」


彼は溶けた部分を指先で示すように、ゆっくりと言葉を続ける。


「赤くなってるのはリフトジェネレーターだ。重力圏じゃ、あそこに負担が集中する。ああなると……素人じゃ修理は無理だ」


淡々とした口調だったが、

その一言で“遭難の理由”が静かに輪郭を持ちはじめた。


「これが……だいたいの遭難の原因ね」


セラは短く言い、すぐにAIへ指示を送る。


「翌日のブリッジの映像を出して」


モニターが切り替わる。

だが、ブリッジには誰もいなかった。

椅子は整ったまま、パネルも触れられた形跡がない。

まるで、乗員だけが突然消えたような静けさだった。


セラはさらにAIに指示を出す。


「船員がいる場所を映してちょうだい」


AIが応じ、映像は別の区画へ移る。

ミーティングルームらしき部屋。

三人の乗員がテーブルを囲み、沈んだ表情で話し合っていた。


「エンジンは直せそうか」

「いや……無理だ。部品交換でどうにかなるレベルじゃない」


隣の船員が続ける。


「救助信号は出したが、ここはFTL通信の圏外だ。電波ビーコンだけだ」

「……じゃあ、探査船が偶然通らない限り、俺たちは助からねえのか」


声には焦りよりも、

状況を理解してしまった者の静かな絶望が滲んでいた。


ミーティングルームの空気は重く、

今の静まり返った遭難船と同じ温度をしていた。


映像は三日後へと切り替わった。


遭難直後の混乱はすでに消え、三人の船員は淡々と作業を続けていた。

食料の在庫を確認し、発電システムを点検し、

修復が不可能だと分かっているエンジンにも、諦めきれず手を入れている。


その姿には、まだどこかに“助かる可能性”を探そうとする意志が残っていた。


さらに十日後の映像へ。


船内の空気は、明らかに変わっていた。

やるべき作業はすべて終わり、残されたのは“待つこと”だけ。

二人の船員はテーブルにボードゲームを広げ、

もう一人は窓際に立ち、草原をただ黙って眺めていた。


セラはその姿に目を留め、なにか思い出したようにAIへ指示を出す。


「映像を窓の外に切り替えて」


画面が切り替わる。

広い草原が映し出され、その中にいくつかの生き物がまばらに散らばっていた。


セラはわずかに眉を寄せる。


「生き物を拡大して」


映像が寄り、草を食むように頭を下げた生き物が画面いっぱいに映る。


体長は二メートルほど。

動きは穏やかで、明らかに草食動物のそれだった。


だが、外見はまったく逆だった。


鋭い牙。

発達した前肢。

獲物を追うために進化したような筋肉のつき方。


どう見ても、凶暴な肉食獣の姿をしている。


その“矛盾”があまりにも露骨で、

ブリッジの空気がわずかに揺れた。


マリナがつぶやく。


「あれ……落ちてる何かを食べてるんじゃなくて……草だよね……」


椅子を押しのけるように立ち上がり、反射的に窓へ駆け寄った。

自分の目で確かめずにはいられなかったのだ。


だが、窓の外には先ほどの生き物の姿はなかった。

草原は静かで、風に揺れる草の波だけが広がっている。

あの生き物たちは、まだ森の奥に身を潜めたままなのだろう。


マリナは森の影へ視線を向けた。

木々の間に動くものは何もない。

気配すら感じられなかった。


しばらく目を凝らしたあと、マリナは小さく息を吐き、元の位置へ戻る。

セラが問いかけるように視線を向けると、マリナは静かに首を横に振った。


セラは短く言葉を落とす。


「まだ森に隠れているなんて……相当臆病な生き物なのね。あの姿なのに」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ