青い惑星と遭難船
フォールドランの衝撃は、船体をかすかに震わせただけで終わった。
0.7光年は、いまの技術では瞬きをするほどの距離にすぎない。
だが、跳躍の余韻が消えるより早く、視界には青い惑星が広がっていた。
雲の質感、大陸の輪郭、海の深い青――
どれも地球を思わせるほど整っている。
移民星候補としては、これ以上ない“当たり”だった。
報告すれば、高額の報奨金が確実に支払われる。
だが、船内の空気は浮き立つどころか、むしろ静まり返っていた。
この星のどこかに、救難信号の発信源がある。
セラは特に指示を出さなかった。
必要なことは、すでに全員が理解している。
何度も遭難船に遭遇してきたクルーたちは、
淡々と、しかしどこか慎重な手つきで降下手順を進めていく。
《サイレント・ホライズン》は、
青い大気の層へ向けてゆっくりと姿勢を変えた。
船体を包む光が濃度を増し、外殻を薄い膜のように照らし出す。
救難信号が発信されている大陸へ向け、船は静かに降下を始めた。
信号の位置をたどりながら、高度は徐々に落ちていく。
雲の層が裂け、視界が一気に開けた。
眼下には、どこまでも続く草原が広がっていた。
風に揺れる草の帯が、波のように地表を走り抜ける。
その合間に、小さな森が点在し、影を落としている。
草原の中央に、金属の鈍い光が見えた。
遭難船だった。
船体の周囲には、いくつかの生き物の姿があった。
四足か、二足か、判別できない。
だが《サイレント・ホライズン》の降下音に驚いたのか、
生き物たちは一斉に森の影へと消えていった。
調査船は遭難船のすぐ横へと姿勢を整え、
草原の上にゆっくりと着陸した。
着地の振動が船内にわずかに伝わり、
その瞬間、ブリッジの空気が引き締まる。
降下中に採取した大気データは、地球とほとんど変わらない組成を示していた。
酸素濃度も窒素比率も安全圏。
未知の微生物は検出されたが、人体に影響する兆候はない。
初動としては、十分に安全と判断できる範囲だった。
それでも、未知の惑星である以上、慎重さは欠かせない。
船長セラ、技術士官ハーラン、科学士官マリナの三人は、
無言のまま防護服を身にまとい、ヘルメットのロックを確かめ、
腰にレーザー銃を装備していく。
船内の空気が、ゆっくりと“調査の空気”へと変わっていく。
さっきまでの航行中の静けさとは質が違う。
張り詰めた糸が一本、そっと引かれたような緊張が漂った。
セラがハッチ前に立ち、
外から差し込む光をバイザー越しに受け止める。
「行くわよ」
短い言葉が、三人の動きを揃えた。
内部ロックが外れ、
ハッチがわずかな圧力差を吐き出すように開いていく。




