表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイレントホライズンの航宙記 進化の果てには…  作者: じろりんたん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/6

静寂の宙域…

そこは、人類が描いた銀河地図の空白地帯だった。

既知の航路から外れ、FTL通信(超高速通信)すら届かない深い静寂の領域。

辺境管理局の依頼を受けた調査船サイレント・ホライズンは、

その余白を埋めるために、誰も踏み入れたことのない宙域へと進んでいく。


船体の外側を包むのは、星々の光よりも濃い沈黙だった。

外界の音は一切なく、船内に響くのは計器の微かな脈動と、

五人のクルーが交わす呼吸のリズムだけ。


彼らの任務は、銀河の縁に散らばる未踏の星々から、

FTL通信の中継基地や港として利用できる惑星を見つけ出すこと。

地図の上ではただの余白に見える領域も、

実際には通信も救助も届かない、底の見えない静寂が支配している。


未開宙域の調査が危険なのは、未知の脅威が潜むからではない。

何かが起きたとき、助けを呼べないことが致命的なのだ。


この領域では、FTL通信は沈黙する。

救難信号も、航路情報も、外の世界へは一切届かない。

まるで銀河そのものが、ここだけを切り離しているかのように。



マリナの指先が、コンソールに走る微かな波形の乱れに止まった。

彼女は数秒、息を潜めるようにデータを追い、

やがて小さく吸い込んだ呼気が、ブリッジの空気をわずかに震わせた。


「……船長。救難信号です」


その声は大きくも鋭くもない。

けれど、沈黙に沈んでいたクルーたちの意識を確実に引き戻した。

振り返った面々の表情には、驚愕よりも“なぜここで”という戸惑いが浮かぶ。


マリナは淡々と続けた。


「電波式の救難ビーコンです」


未開宙域での遭難は、珍しい話ではない。

宇宙では“最初に見つけた者”に権利が発生する。

その一攫千金を狙って航路の外へ踏み込む者は、後を絶たない。

だが、この静寂の領域で信号を拾うのは、やはり異常だった。


セラは前方の虚空から視線を外さずに言った。


「発信源は」


マリナは画面を見つめたまま、わずかに声を落とす。


「ここから……0.7光年です」


0.7光年。

電波が届くまでに八か月。

つまり、遭難は八か月以上前。

生存の可能性は限りなく低い。


それでも、セラの判断は揺らがなかった。


「……フォールドランの準備を」


その一言で、船内の空気が静かに動き始める。

誰も余計な言葉を発しない。

クルーたちは淡々と持ち場へ散り、

未開宙域の沈黙の中で《サイレント・ホライズン》はゆっくりと進路を変えた。


外の宇宙は何も語らない。

ただ、八か月前の声だけが、遅れて届いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ