《行詔・祈福天燈一》-02
三月十日の夜。
燕行が酒を二椀あおったところで、報せが入った。
あの姉妹花が、寨中の空き地で何やら奇妙な物をいじっているという。
燕行はそれを聞いて、愉快になった。
美人が何かをいじっている。
ならば当然、見に行かねばならない。
彼が外袍を羽織って空き地へ向かうと、姉妹花が数人の小丫鬟に手伝わせながら、見たこともない物を組み立てていた。
その物の下には細い竹の骨組みがあり、中央に小さな火皿が吊るされている。
上は薄い絹紙で覆われ、灯のようでもあり、普通の提灯とはまるで違う形をしていた。
燕行は腕を組み、珍しそうに眺めた。
「二人の准夫人よ、今度はどんな手品だ?」
温婉な女が柔らかく答えた。
「これは祈福天燈と申します。火を点せば、ゆるやかに空へ昇ります。私たち姉妹が、大王のために福を祈るものです」
愛らしい女も続けた。
「天が大王を庇護し、行く先々で勝利を得られますように。そして、早く大業を成し遂げられますように」
その言葉に、燕行の胸はぽかぽかと温かくなった。
見よ。
これが賢妻というものだ。
まだ門をくぐってもいないのに、すでに夫君のために祈福することを知っている。
燕行はますます嬉しくなり、近づくと二人の頬に一口ずつ口づけた。
「褒美だ」
姉妹花は顔を赤らめ、うつむいた。
周囲の小僧どもは目を丸くしながら、いっそ地面に頭を埋めたいと思っていた。
少しでも多く見れば、大王に眼球を抉られるかもしれないからだ。
燕行は機嫌よく、その奇妙な灯をまた見た。
そして思わず笑った。
「二人とも、俺をからかうでないぞ。この世に、飛ぶ灯などあるものか」
温婉な女は、かすかに微笑んだ。
「大王、どうぞご覧くださいませ」
愛らしい女は、ぱちりと目を瞬かせる。
「もし本当に飛びましたら、大王、私たち姉妹を妖術使いなどとおっしゃらないでくださいね」
燕行は大笑した。
「本当に飛ぶなら、本王はお前たちを天が遣わした、俺を栄えさせる仙女だと言おう!」
姉妹花は顔を見合わせ、笑った。
その笑みは甘かった。
甘すぎて、夜風まで三分ほど柔らかくなったようだった。
ただ、彼女たち自身だけが知っている。
この祈福天燈の法は、もとは浪司が海路の商旅から得たものだった。
それを紅袖詔が改めた。
祈福とは言う。
だが、その実は伝訊である。
山中の人間が見れば、神蹟。
山外の人間が見れば、道標。
ほどなく、火皿に火が点された。
火光が灯ると、薄絹がかすかに震えた。
初めのうち、その灯は竹枠の上に伏せたまま、まだ眠りから覚めぬ大鳥のようだった。
やがて熱気が少しずつ満ち、絹紙がゆるやかに膨らんでいく。
周囲の匪衆は、最初こそ笑い騒いでいた。
だが、次第に声が小さくなっていった。
さらにしばらくして、その祈福天燈が、本当にふわりと揺れた。
そして無数の目が見守る中、それはゆっくりと地を離れた。
一寸。
三寸。
一尺。
さらに上へ。
人群が、一気に沸き立った。
「飛んだ! 本当に飛んだぞ!」
「神蹟だ、神蹟だ!」
「翼もないのに、どうして飛ぶんだ?」
「あの二人、仙法を使えるのではないか?」
一時、寨中の者たちはどっと押し寄せ、ゆるゆると昇っていく祈福天燈を指さし、口々に驚嘆した。
少し遠くにいた者たちは何が起きたのかわからず、夜中に妖物が出たのかと思って、慌てて屋内へ逃げ込んだ。
さらに多くの者は地に膝をつき、祈福天燈へ向かって必死に頭を下げ、福を願った。
燕行自身も、呆然としていた。
彼はもともと、姉妹花が自分を喜ばせようとしているだけだと思っていた。
美人の心づくしである。
どうして冷や水を浴びせられよう。
しかし、あの祈福天燈が目の前で高く高く昇り、最後には小さな月のように夜空へ入っていくのを見た瞬間、彼の心には猛然と大波が立った。
彼は山賊である。
だが、愚かではない。
彼はすぐに、別の使い道を思いついた。
もしこの物を世の者に見せることができれば。
もしこの灯は天聴へ通じるものだと言い、大事のたびに灯を放って祈福すれば。
愚夫愚婦や流民兵卒たちは、燕行に本当に天命があると信じるのではないか。
諸侯が人心を惑わすとき、頼るのは言葉である。
だが彼の祈福天燈は、実際に空へ昇る。
絵に描いた餅より、神蹟のほうがよほど使える。
うまく使えば、太行軍の頂点へ戻るどころか、旅城や袁溪、あるいは益州の允文でさえ、何を恐れることがあろう。
燕行は考えるほどに興奮し、姉妹花を左右から抱き寄せた。
「お前たちは、本王の福星だ!」
温婉な女は彼の胸に身を預け、柔らかく言った。
「大王にお喜びいただけたなら、何よりでございます」
愛らしい女も、低く囁いた。
「婚期までは、あと五日ございます。私たち姉妹は、その五日のあいだ、毎夜一つずつ祈福天燈を上げ、大王のために天へ祈りたいのです」
燕行はそれを聞いて、胸を打たれた。
五日。
毎夜一灯。
これはもはや灯ではない。
天命である。
彼は大きく手を振った。
「上げろ! 上げるだけではない。近くの数砦にも、しっかり見えるようにせよ!」
姉妹花はうつむいて承った。
燕行は夜空の彼方へ遠ざかっていく祈福天燈を眺め、ようやくこの半生で天に厚遇されたような気がしていた。
すでに四十を越えた身だというのに、天はなお、これほど心を尽くす可憐な二人を彼へ遣わした。
そのうえ、久しく忘れていた少年のような意気まで、胸の内に蘇らせてくれた。
以前の彼は、女とは嫉妬し、泣き、騒ぎ、物事を壊すものだと思っていた。
だが今になって、ようやくわかった。
真の賢妻とは、男の心を安らがせるだけではない。
覇業すら助けてくれるものなのだ。
彼は天燈を見上げ、胸いっぱいの幸福に満たされていた。
そして姉妹花もまた、天燈を見上げていた。
ただし、彼女たちが見ていたものは、天ではない。
山の外であった。
その夜、祈福天燈は高く、高く昇っていった。
核心大寨のすべてから見えるほどに。
近隣の数砦からも見えるほどに。
そして、太行山のふもと、乱石坡の外に潜む者たちにも見えるほどに。
山下。
一人の允文の軍士が草むらに伏せていた。
彼はふと顔を上げ、夜空にゆるやかに昇る一点の火光を指さし、押し殺した声で叫んだ。
「見ろ!」
「あれは祈福天燈だ!」
背後にいた百夫長が、数人を押しのけるように前へ出た。
目を細め、夜の奥を凝らし見る。
闇の中、その灯は孤火のように、太行山の深くからゆっくりと昇っていた。
百夫長は長くそれを見つめた。
やがて、その顔に浮かぶ喜色を抑えきれなくなった。
「見つけたぞ」
そばの兵が、まだ理解できずに尋ねた。
「何を見つけたのです?」
百夫長は低く罵った。
「阿呆。ほかに何がある」
彼は勢いよく振り返った。
声は極めて低かったが、その奥には隠しきれない興奮があった。
「ただちに安城へ戻り、允将軍へ報せろ」
「燕行のいる核心寨区を――見つけた」




