神崎白羽
休み時間になると教室の空気が一気に緩む。
さっきまで静かだったのが嘘みたいに騒がしくなる。
こういう切り替えの速さは毎回感心する。
そして案の定というか、予想通りというか。
「神崎さんってどこから来たの?」
「前の学校どんな感じ?」
「部活とかやってた?」
神崎の席の周りには人だかりができていた。
まぁ転校生なんて珍しいもんでもないが、こういうのはイベントみたいな扱いになるらしい。
俺は自分の席に座ったまま、その様子を横目で見る。
正直どうでもいい。
……はずなんだが。
俺はもう一度クラウドにアクセスする。
神崎白羽。
やはりヒットしない。
名前、経歴、過去の記録。
どれも引っかからない。
こんな事は今まで一度も無かった。
記録が少ないとか、断片的だとか、そういうレベルじゃない。
最初から存在しないみたいな感覚だ。
「あり得るのか……こんな事」
小さく呟く。
周りの喧騒に紛れて誰にも聞こえない。
もう一度だけ横を見る。
神崎は質問に対して、淡々と答えている。
特に困っている様子も無い。
普通だ。
見た目も、受け答えも、どこにでもいそうな転校生。
ただ一つ、クラウドに無いという事を除けば。
「優くん、気になるの?」
後ろから佐倉がまた小声で話しかけてくる。
「別に」
俺は短く返す。
気になっていないと言えば嘘になるが、認めるのも面倒だ。
「ふーん」
佐倉はそれ以上何も言ってこない。
俺は机に肘をつきながら、ぼんやりと人だかりを見る。
その時だった。
神崎がふとこちらを見る。
目が合う。
一瞬だけ、ほんの一瞬だけだ。
だが確かに、俺を見た。
そして——
口元がわずかに歪む。
ニヤリ、と。
周りの連中は誰も気づいていない。
騒いでいるだけで、神崎の表情なんて見ていない。
だが俺には分かった。
あれは、俺に向けたものだ。
「……は?」
思わず小さく声が漏れる。
神崎はすぐにいつもの無表情に戻り、またクラスメイトの質問に答えている。
何事も無かったかのように。
「なんだ今の……」
意味が分からない。
偶然か?
いや、違う。
あれは明らかに意図的だった。
俺が見ている事に気づいて、それで笑った。
まるで——
分かっていると言わんばかりに。
俺は視線を逸らし、軽く頭を振る。
考えすぎだ。
そういう事にしておいた方が楽だ。
だが、胸の奥に小さな違和感が残る。
クラウドに無い転校生。
そして、あの笑い方。
どう考えても、普通じゃない。
「……面倒な事になりそうだな」
誰にも聞こえないように呟く。
休み時間の騒がしさはまだ続いている。
だが俺にとっては、それどころじゃなくなりそうだった。




