ヒットしない
チャイムが鳴り終わると同時に教室の空気が少しだけ張り詰める。
俺は椅子に深く座りながら前を見る。
正直なところ授業なんてものに期待はしていない。
「今日は転校生が来るぞー」
奈々ちゃん先生が軽い口調で言う。
教室が一瞬ざわつく。
こういうイベントは大体の奴が好きらしい。
俺には関係の無い話だ。
「入っていいぞー」
扉が開き、一人の女子が入ってくる。
「初めまして、神崎白羽です」
淡々とした声で自己紹介をする。
俺はその名前を聞いた瞬間、無意識にクラウドへアクセスする。
だが、ヒットしない。
珍しい事もあるもんだ。
そもそも転校生の名前をその場で調べるやつなんてほとんどいない。
普通は後で聞けばいいし、そこまで興味も持たない。
だが俺は違う。
気になった時点で調べないと気が済まない。
この時代、ほとんどの人間は何かしらの記録が残っている。
それが無いという事は、単純に情報が少ないのか、それとも——
「席はあそこな」
奈々ちゃん先生が俺の隣を指す。
「は?」
思わず声が漏れる。
「よろしく」
神崎は短くそう言って俺の隣の席に座る。
「……ああ」
適当に返事をする。
正直、面倒な事になったと思った。
転校生が隣の席。
それだけで十分厄介だ。
「ねぇ優くん」
後ろから佐倉が小声で話しかけてくる。
「何だよ」
「さっきクラウド見てたでしょ」
こいつは本当に変な所だけ鋭い。
「まぁな」
「どうだった?」
「何も出てこなかった」
俺がそう言うと、佐倉は少しだけ驚いた顔をする。
「え、そんな事ある?」
「さぁな」
俺はそれ以上話す気になれず前を向く。
横を見ると神崎は静かに前を見ている。
感情がほとんど読み取れない。
チップ越しでも分かりにくい。
それもまた珍しい。
「じゃあ授業始めるぞー」
奈々ちゃん先生の声で教室は再び静かになる。
俺はぼんやりと黒板を見ながら思う。
今日はなんとなく、いつもより面倒な一日になりそうだ。




