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放課後。


教室は、昨日と同じように静かだった。


人はいない。


私と優くんと、神崎さん。


……のはずなのに。


「優くん」


声をかける。


「……何だ」


返事はある。


少しだけ遅いけど、ちゃんと返ってくる。


「そこ、座ってるよね」


確認するように言う。


「座ってる」


短く返す。


目の前の席。


そこに、優くんはいる。


見えている。


ちゃんと。


でも——


「……なんか変」


小さく呟く。


「何が」


「うまく言えないけど」


言葉を探す。


「輪郭が……はっきりしない」


優くんが少しだけ動く。


椅子に座り直す。


その動き。


一瞬だけ、途切れる。


「……今の」


思わず声が出る。


「どうした」


「動き、変じゃなかった?」


「普通だ」


即答。


でも違う。


「コマ落ちみたいだった」


「そんなわけないだろ」


「いや、ほんとに」


優くんは少しだけ黙る。


その間、視線は神崎さんに向いている。


「……来てるな」


小さく呟く。


「やっぱり」


「優くん」


私は一歩近づく。


「手、見せて」


「何だよ急に」


「いいから」


少し強めに言う。


優くんは仕方なさそうに手を上げる。


右手。


見える。


ちゃんと。


でも——


「……あれ」


指先。


ほんの一瞬だけ。


透けた気がした。


「……今、消えた」


「は?」


優くんが眉をひそめる。


「消えてないだろ」


「一瞬だけ」


私はその手をじっと見る。


「ほんとに、見えなかった」


優くんも自分の手を見る。


「……俺には普通に見える」


「でもさっき——」


言いかけて、止まる。


まただ。


今度は、手の甲。


一瞬、背景が透けた。


「……っ」


息が詰まる。


「優くん、それ」


「何だよ」


「また……」


うまく言えない。


でも、確実に。


「……消えてる」


優くんが動きを止める。


完全に止まる。


「……どのくらいだ」


静かに聞いてくる。


「一瞬」


「ほんとに一瞬」


「でも、確実に」


優くんは何も言わない。


ただ、自分の手を見ている。


「……進行してるな」


小さく呟く。


「優くん、これもうダメだよ」


思わず言う。


「見えてない瞬間あるってことだよ?」


「分かってる」


冷静に返す。


それが余計に怖い。


「じゃあなんでそんな落ち着いてるの!?」


声が少し大きくなる。


「普通怖がるでしょ!」


優くんは少しだけ顔を上げる。


その表情。


少しだけ変わっている気がする。


「怖いよ」


ぽつりと言う。


「ちゃんと」


一瞬、安心する。


でも——


「でも、それ以上に」


言葉を続ける。


「見たい」


その一言。


やっぱり同じだ。


止まらない。


「……ほんとに変」


小さく呟く。


その時だった。


「ねぇ」


神崎さんの声。


静かに入ってくる。


「もう見えてないよ」


その言葉。


一瞬、意味が分からない。


「え?」


私は優くんを見る。


いる。


ちゃんといる。


「何言ってるの」


反射的に言う。


「いるじゃん」


神崎さんは首を振る。


「そこじゃない」


静かに言う。


「さっき」


「指、消えてたでしょ」


背中が冷える。


「……見えてたの?」


「見えてたよ」


あっさり言う。


「ずっと」


その言い方。


妙に引っかかる。


「優くん」


神崎さんが優くんを見る。


「そこまで来たね」


優くんは少しだけ笑う。


「みたいだな」


軽い。


軽すぎる。


「まだ戻れるよ」


神崎さんが言う。


「今なら」


「戻らない」


即答。


迷いがない。


「……そっか」


神崎さんはそれ以上言わない。


ただ、少しだけ悲しそうに見える。


気のせいかもしれない。


「優くん」


私はもう一度呼ぶ。


「お願いだからやめて」


今度は本気で言う。


「ほんとに消えるよ」


優くんはこっちを見る。


その目。


ちゃんと見える。


今は。


「消えるなら」


小さく言う。


「最後まで見る」


その言葉。


止められない。


分かってしまう。


「……バカ」


思わず言う。


でも、それ以上何も言えない。


その時。


優くんの肩。


一瞬だけ。


消えた。


完全に。


「……っ!!」


声が出ない。


すぐに戻る。


何事もなかったみたいに。


「……今」


震える声で言う。


「肩……消えた」


優くんはゆっくり頷く。


「そうか」


それだけ。


「優くん……」


言葉が続かない。


怖い。


現実が崩れてる。


「……始まったな」


優くんが小さく呟く。


その声は、少しだけ遠く感じた。

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