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消失対象の拡張

次の日。


朝の教室。


昨日と同じ景色のはずなのに、少しだけ違って見える。


俺は席に座るなりクラウドを開く。


第11話の記録。


——無い。


「……やっぱりか」


小さく呟く。


予想はしていた。


だが、実際に消えると気分はよくない。


「優くんおはよー」


佐倉がいつもの調子で声をかけてくる。


「おはよう」


適当に返す。


「なんか顔怖いよ?」


「普通だ」


「いや怖い」


こいつは遠慮がない。


「なぁ佐倉」


「なに?」


「昨日の放課後、覚えてるか」


「またそれ?」


少し呆れた顔をする。


「いいから」


「……覚えてるよ」


即答。


「優くんがまた変なことやって、神崎さんと話して」


ちゃんと覚えている。


細かい部分も問題ない。


「……抜けてるところは?」


「ないけど?」


違和感は無いらしい。


「そうか」


つまり——


「記録だけが消えてる」


口に出す。


「それ、やっぱおかしくない?」


「おかしいな」


だが、それだけじゃない。


昨日、神崎は言った。


“消えるだけじゃ済まない”


「佐倉」


「なに?」


「今日、もう一回やる」


「また?」


露骨に嫌そうな顔をする。


「今度は別のやり方だ」


「どんな?」


俺は少しだけ考える。


そして、机の上のペンを手に取る。


「これを使う」


「ペン?」


「物理的に残す」


クラウドじゃなく、現実に。


「……あー」


佐倉が納得したように頷く。


「それなら消えないってこと?」


「確認する」


断言はしない。


「で、どうするの?」


「簡単だ」


俺はノートを開く。


「神崎と話した内容を書く」


「それを後で見る」


それだけだ。


「地味だね」


「確実だ」


クラウドに依存しない方法。


それで消えるなら——


話は別だ。


「神崎」


俺はすぐに声をかける。


神崎はすでにこっちを見ていた。


まるでタイミングを分かっているみたいに。


「何」


「少し話す」


「いいよ」


やっぱりあっさりしている。


俺はノートを構える。


ペンを持つ。


「今から書く」


わざと口に出す。


「神崎と会話した内容を、そのまま」


神崎は少しだけ目を細める。


「……そう」


それだけ言う。


止めない。


「神崎」


「何」


「クラウドの記録が消える理由、知ってるか」


俺はそのまま書く。


言葉と同時に、文字を残す。


『クラウドの記録が消える理由』


はっきりと書いた。


神崎は少しだけ間を置く。


「……知ってるよ」


その言葉に、手が止まりかける。


だが止めない。


『知っている』


そのまま書く。


「じゃあ、なんで消える」


続ける。


神崎は俺を見る。


少しだけ、深く。


「優くん」


静かな声。


「それ、残すの?」


「残す」


即答する。


「残して、確認する」


神崎は数秒だけ黙る。


その間、教室の音が妙に遠く感じる。


「……そっか」


小さく呟く。


そして——


「じゃあ、そのままでいいよ」


その言葉に、違和感を覚える。


止めない。


否定しない。


「いいのか」


「いいよ」


あっさりしている。


逆に怖い。


俺はそのまま書き続ける。


『神崎は否定しない』


『止めない』


文字はしっかり残る。


消える気配はない。


「……簡単すぎるな」


思わず呟く。


クラウドでは消えた。


だが、これは残る。


「優くん」


佐倉が小声で言う。


「これ成功じゃない?」


「まだ分からない」


俺はノートを見る。


確かに、そこにある。


だが——


「確認は後だ」


時間が経ってからだ。


「そっか」


佐倉は少し安心したように笑う。


その時だった。


「ねぇ」


神崎が静かに言う。


俺は顔を上げる。


「そのノート」


嫌な予感がする。


「ちゃんと見てね」


その一言。


妙に引っかかる。


「……どういう意味だ」


聞き返す。


神崎は答えない。


ただ、ほんの少しだけ笑う。


あの、ニヤリとした笑い。


「後で分かるよ」


それだけ言う。


「おい——」


声をかける前に、神崎は席を立つ。


そのまま歩いていく。


止める気にはならなかった。


「……なんだよそれ」


俺はノートに視線を戻す。


さっき書いた文字。


はっきりと残っている。


『クラウドの記録が消える理由』


『知っている』


問題ない。


何も変わっていない。


「……今はな」


小さく呟く。


違和感はある。


だが、まだ見えない。


「優くん」


佐倉が少し不安そうに言う。


「大丈夫?」


「分からない」


正直に答える。


「でも、次は分かる」


多分。


いや、ほぼ確実に。


俺はノートを閉じる。


「……消える対象は一つじゃない」


クラウドだけじゃない。


もし——


「物理も影響受けるなら」


そこまで考えて、口を閉じる。


佐倉がこっちを見ている。


「何?」


「いや」


首を振る。


「まだ確定じゃない」


だが、方向は見えてきた。


記録だけじゃない。


もっと広い。


「……範囲の問題か」


小さく呟く。


昼休みは終わりに近づいている。


だが俺の中では、また一つ段階が進んでいた。

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