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警視庁 不可能犯罪係の 奇妙な事件簿  作者: 夢学無岳
第九話 「ガラスハウスの梅安」
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6.シュウゲキ


 ホンカンは、猫屋敷とモニター前に並び、『ガラスハウス』の編集前の映像をすべて確認していった。


 ホンカンは、絶対に犯人を見つけてやる、そんな気概で怪しい点をあぶり出そうとしながらも、お宝映像の山に、ついつい顔を緩める。

 一方、猫屋敷は、淡々と(野生の?)勘を働かせ、メンバーや、来客者、屋敷前の通行人の行動をまとめていった。





 数日後。

 呼び鈴が鳴る。

 家政婦がモニターを確認すると宅配便だった。玄関に向かい、扉を開ける。


 配達の男は帽子を目深にかぶっていた。


「大場ひとし様宛に書留がありますけど、今、いますか?」


 家政婦は、別棟にいると教えて案内しようとした瞬間、配達の男は家政婦を押しのけ、土足で上がりこんだ。

 廊下を駆けていき、リビングに飛びこんだ。


 ソファーで寛いでいた『ジャンブル・ガールズ』のメンバーたちはざわつく。


 男は、部屋の四方八方に備え付けられたカメラに向かって怒鳴った。


「大場あ! 出てこい! 見てるんだろ! 出て来やがれ!」


 恐ろしい剣幕に、ミカンちゃんはビクつく。藤原は静かに座ったまま。立っていたサーラは彼女たちを守るように、わずかに移動した。


「動くな! 怪我したくなけりゃあ、じっとしてろ! 大場あ! 早く、出てこい!」


 男は大きなナイフを取り出す。

 メンバーたちは「きゃああ!」と悲鳴を上げた。


「大場さんに何のよう?」


 落ち着いた声に男は目を向けると、今まで気づかなかったが、ユニットメンバーに混ざって、スーツを着た女性がいた。


「ああ? お前には関係ねエ。黙って座ってろ」

「いいえ、貴方が、こんな大胆な行動をするには、それなりの理由があると思います。教えてくれますか?」


 男は、一瞬、逡巡してから口を開いた。


「……あ、あいつは泥棒だ! 俺のアイデアを盗んだ。は、犯罪者なんだよ! この番組は、本当は俺のもんだった。それをなあ、あいつは無断で盗用したんだ。電話してもメール出しても、さんざん無視しやがって、大場あ! いるんだろ! 出てこい!」


 その時、ミカンちゃんの座るソファーの後ろから、大場プロデューサーが立ち上がって、姿を見せた。


「ほら、出て来たヨ。で、誰だい、君?」


 男は、なんでそこから出てくるの?と、しばらく目をしばたたかせた。

 が、すぐに気を取り直した。


「わっ、忘れたなんて言わせねえ!」

「ごめん、全然覚えてないヨ、えーと、誰?」


 男は顔を赤くする。


「採用試験であっただろ! くそう! 落としやがって。なのに、俺が、提案したアイデアを盗んだだろ! お前のせいで、どこにも働き口がなくなったんだ!」


「……んー、ごめん……、やっぱり覚えてないや。あ、でもね、才能がある人間なら、あるていど覚えてるんだけどねエ。それに、君が就職できないのは……、まあ、なんていうか、そのう……、君が悪いってわけじゃないヨ」


 男の目つきが少し緩む。


「……そう、君が悪いんじゃなくて……、人事担当者に、君と働きたいと思う人がいなかった、ただ、それだけ。才能でもあれば、まだ分からないけど、君、そのう、能力、かなり低そうだし、性格に、けっこう問題があるし……」


 男は怒りに震え、みるみる顔色を変えた。


「殺す!……殺す!殺す!殺す!」


 男がナイフを掲げると、メンバーたちは悲鳴を上げた。

 彼が大場に詰め寄ろうとした刹那、早乙女が、パンパンと手を叩いた。


「はい! 確保―!」


 早乙女が合図すると、机の下、クローゼットの中、隣のキッチン、窓の外から、続々と警官が現れた。


 男はおどろき、慌てて逃げようとするも、出口は家政婦に扮した婦人警官に塞がれ、躊躇した瞬間、背後から群がった警官たちに飛び掛かられて、あっさりと拘束された。





「皆さん、ご協力ありがとうございました」


 早乙女が、大場や『ジャンブル・ガールズ』のメンバーたちに頭を下げる。その後ろで、猫屋敷とホンカンは敬礼した。

 すでに犯人は連行されて、大勢の警官は引き上げていた。


「そんなあ、お礼を言うのは俺たちのほうだよ! せーの!」


 サーラが言うと、メンバーの皆は、一斉に「ありがとうございました!」と警官のように敬礼した。


「いやあ、ありがとうございます! ホント、ありがとうございます! 最高ですヨ! 最高の絵が撮れました!」


 大場は喜色満面で、早乙女の手を握った。


「大場さん、セクハラ」サーラがジト目をする。

「逮捕しちゃうぞー」ミカンちゃんはセクシーポーズをとった。

「御用だ! 御用だ!」中川が笑う。


「おおっとぉ、それは勘弁、勘弁、弁財天」大場はあわてて手を離した。


「今回の犯行を未然に防げたのは、猫屋敷巡査と河西巡査のお手柄です。教唆扇動した共犯者も、今頃、逮捕されてるでしょう」


 早乙女が言うと、藤原はソファーの上で体育座りしたまま、パチパチと拍手をした。

 河西はニヤケ顔で身体をくねらせ、猫屋敷はガッツポーズをする。


 猫屋敷が、屋敷前に何度も姿を見せ、下見をしたと思われる怪しい人間にアタリをつけ、河西がその人物を特定すると、彼のネット上の行動を調べ上げ、犯行計画を知るに至ったのだった。

 無論、彼らの働きだけではなく、生活安全課の面目躍如である。


「これにて一件落着だね」中川。

「あいつの金玉、蹴り上げときゃ良かったな」とサーラ。

「あのう! 刑事さん、いえ、早乙女おねーさま!」


 ミカンちゃんは早乙女に目を向けた。


「あの犯人、どないして、まやちゃんに毒盛ったんやろか。毒、発見できひんかったんやろ?」


「そうであります! それが謎なのであります!」ホンカンが叫ぶ。

「そうだ、そうだよ」「姉御」と中川とサーラも尋ねた。


 早乙女は微笑んだ。


「ええ、彼は、毒殺未遂の犯人じゃないわ。犯人は別にいる」


 皆、「え?」と固唾をのんだ。


「犯人は、まだ、この屋敷の中にいるわ」


 それを聞き、皆、表情を固めて、周りの顔色をうかがった。





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