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警視庁 不可能犯罪係の 奇妙な事件簿  作者: 夢学無岳
第九話 「ガラスハウスの梅安」
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5.アイドル(2)



 藤原は片手に入るほどの小さな紙箱を持っていた。


 ホンカン曰く。

 藤原姫、本名、藤原治愛ちあ、十九歳。言動の予測が難しいことから、ファンの間では、ふしぎちゃんと呼ばれている。昆虫と雑学に非常に詳しいので、『ガラスハウス』が放映されると、深夜枠にも関わらず、小学生男子の視聴者を爆発的に増やした。深夜、親に隠れてテレビを見る子供、寝不足で授業中にいねむりをする子供、すべて、ふしぎちゃんが原因である。(by ホンカン)


「わからない……」藤原の表情は読めなかった。


「心当たりはないのね……。じゃあ、数日前からその日まで、いつもと変わったことある?」早乙女が聞く。


「ん……これ」


 藤原は箱をテーブルの上に乗せた。早乙女が「開けていいの?」と聞くと、彼女はコクリと首を動かした。


 蓋を開けた早乙女は「きゃああ!」と叫んで飛び上がった。


 小指の先ほどの大きさの虫が、テーブルの上を、ぴょんと跳ねる。異常に長い触角。グロテスクな見た目。


「コオロギ?」と猫屋敷。


「ん……、カマドウマ、でも、別名、便所コオロギとも言う。同じバッタもくでも、カマドウマはカマドウマ科、コオロギはキリギリス科、種類が違う……。庭に、樹液トラップを作って、捕まえた……。触角をのぞいて、体長が30ミリある。これだけ大きいのは、めずらしい……」


 怯える早乙女。

 藤原は平然とカマドウマを素手で掴んで、再び箱に戻すと、早乙女は、ほっと一息ついた。


「他に……、ええと、メンバーに関係することで、変わったことある?」


「……ん……、前の日、野菜を収穫した。夜、皆で天ぷらを作って食べた。美味しかった」


 頬を染める藤原を見て、ホンカンが癒された。


「何の天ぷらすか?」と猫屋敷。


「ナス……、アスパラガス……、そら豆……、しいたけ……、エリンギ……、鶏肉……、魚……」


 藤原の背後から、サーラがやってきて、「鶏と魚、きのこは、スーパーで買ったやつだよ。それ以外の野菜は、庭の畑で、みんなで育てた」と補足した。


「その時、変わった事ある?」

「ん……、まやが、お代わりした」

「お代わり?」

「ん、美味しかった、って言った」


「まやのやつ、いつもはカロリーオーバーしないように考えてるんだよ。よっぽど旨かったのか、撮れ高を考えてたのか分からないが、けっこう食った。俺も、いつもの三倍は食った。ミカンちゃんは、五人前は食ってたな」サーラが付け足す。


「採れたての揚げたては旨いすからね」猫屋敷はよだれを拭った。

「食べたあと、どうだった?」


「ん……、幸せだった。お腹いっぱい……」


 藤原は思い出にふけるように、お腹をさする。

 ホンカンはそれを見て、ほんわかした。





 ホンカン曰く。

 ミカンちゃん。本名、夏野美嘉子。二十一歳。体重108kg。茨城出身、関西のお笑い養成所に通っていたが、『ジャンブル・ガールズ』のオーディションを受けて、奇跡的に合格。ムードメーカー的ポジションで、グループ随一のファン数と、幅広いファン層を誇る。歌や踊りは素人に毛が生えたレベルのため、プロや、ガチのアイドルファンからの評価は厳しく、陰で「白豚」とあだ名されている。今回、花岡摩耶が倒れたのは、一部の花岡ファンの間では、虐められていたミカンちゃんの復讐だと囁かれていた。



「まやちゃん、人から嫌われる子やあれへん!」


「と言うと?」


「まやちゃんの毒舌、事務所の社長からやらされとるねん! 今時、見た目が綺麗で歌って踊れるだけじゃ、売れへんって……。個性を出すためやって。せやさかい、まやちゃん隠れて、一生懸命、毒舌の本とか、ブラックジョークの本を読んどったねん。研究のためや言うて、テレビで、いつも有吉とかマツコを観とったねん。ホンマ、まやちゃん、真面目な子なんや」


 ホンカンが真剣にメモをとる。


「まやちゃん、番組のプロデューサーからも、毒を吐くように言われてたんや。うち、それ知っとるさかい、いくら言われても、全然、気にしてなかったんや。でも、まやちゃん、まだ毒舌下手で、しょちゅう嫌味になるさかい、ちょっとムカつくこともあるんやけど、うち、しゃあないと思うて、気にしてないんや。ホンマやで……。あ、せやけど、こないだなんて、うち、アイドルになると彼氏作れへんねー、言うたら、まやちゃん、ミカンちゃんはアイドルじゃなくても彼氏できないよねー、なんて言うさかい、うち、心底腹が立って、まやちゃんに、ジャーマン・スープレックス極めたろかと思うたけど、うち、自分の背骨折って死んだら、どないしよう思うて、ぐっと堪えたんや。あ……、それは嘘や……。うち、なに言いてんねん。ホンマは、き、気にしてないんやで……。せやさかい……、あのう……、ええと……、毒、盛ったのは、うちやあらへん!」


 ミカンちゃんは樽のような体を揺らしながら、噂になっている自分の犯行を否定したが、なぜ花岡が倒れたのか、それについては、やはり心当たりがなかった。




 早乙女は一通り聴取を終えると、屋敷内とプールや菜園を見て回った。


 そして、庭の一角で目つきを変えると、猫屋敷とホンカンに、この一週間の、屋敷内外の映像をすべて見て、怪しい点がないか確認するように指示した。

 ホンカンは嬉々として敬礼し、猫屋敷は「ホンカンとすか?」と、彼を横目で見た。


 早乙女は、ひとり摩耶の入院する病院へと戻った。





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