78.その後のオリバー②
ビザンデ鉱山へ到着したオリバーは屋敷へ戻る道中、人気がない事に違和感を覚えた。
「今日は人出が少ない?」
いつもならば家庭菜園の手入れをする者、買い物に出る者など多少なりとも人の気配があった。しかし今日は誰ともすれ違わない。
違和感を感じながらも寒い季節であることから、たまたま誰も外出しなかったのだろうとさほど気にもしなかった。
屋敷へ到着すると、喜びの笑顔で出迎えをされるのを期待していたが、屋敷は薄暗く誰の出迎えもない。
「おい!帰ったぞ!誰もいないのかっ!!」
大声で呼んでも下働きも、召使いも、誰も出て来ない。
オリバーが二階に上がると、十一歳になる息子のオーウェンがカチャリと小さな音を立てて部屋から出て来た。
「お父様、だ、誰もいないのです。
皆どこかに行ってしまいました。」
息子の言っている言葉を、下働きや召使いが使いに出かけているとオリバーは勘違いした。
「オーウェン、先ずはお帰りなさいだろう!
夕食後、いい話がある。楽しみにしていなさい。」
「は、はい・・・。」
息子の話をまともに聞かなかったオリバーは、次に母親の部屋へ向かった。
「お母様、居られないのですか?」
母親の部屋の扉を何度叩いても返事が無い。おかしいと思い扉を開けるとソファに座る母親がいた。
「何だ、居るではありませんか。」
ソファに座る母親を見ると、呆然として目が虚ろになり「誰もいなくなった・・・」などブツブツ呟いていた。
「お母様、しっかりして下さい。私は男爵位を叙爵されました。お母様にもしっかりしていただかなくては困ります。詳しくは夕食後話します。いいですね!」
「いったいどうしたんだ!」とぼうっとしている母親に苛立ちを覚えながら、オリバーは自室に戻った。
オリバーはこの日の為にと、とって置いた高級酒の栓を抜いた。
とくとくとグラスに琥珀色の洋酒を注ぐ。
溢れる芳醇な香に何とも言えない高揚感を覚え、一人勝利の美酒に酔いしれる。
「ふ、ふ、ふはははっ。」
明日から忙しくなる。今だけは喜びに浸ろうではないか。
住民にはザイデライト領の領民になったことを知らしめなければならんな。
今年の税金も徴収せねば。
税率は五割でいいか。いや少ないか?
奴隷も早いうちに買わなければ。
ほろ酔いでその様な事を考えながら、グラスを片手に窓から見える景色を眺めた。
その時だった。
オリバーの目に映る景色に違和感を感じ、ゾクリと寒気が襲う。
屋敷にある家庭菜園にはカラスが群がり食い荒らされている。
少し離れた他家の畑には野生の鹿が闊歩している。
なのに人は誰一人見かけない。
息子や母親が言っていた「誰もいない」という言葉を思い出し、慌てて外へ出た。
「いない!」
見渡す限り誰もいない。
「ここもいない!」
近くの民家へ行き、扉を強く叩くが誰もいない。
「誰もいない!」
急いで鉱山の採掘場へ走るが、誰もいない。
「何でだ!」
高炉の作業場や、鋳造の作業場へも走って人を探すが何処にもいない。
「何処へ行った!どうしてだ!!」
怒り狂ったオリバーは頭を搔きむしり、その場に座り込むと地面に拳を叩きつけた。
「くそっ!!
ヴィクトールの仕業かっ?!
何故俺を苦しめる!
ちくしょう!
ちくしょう!」
この日はオリバーの叫ぶ声がいつまでも止むことはなく、山の間を虚しく響き渡っていた。
数日は怒りのあまり何も手に付かなかったオリバーだったが、働き手がいない事にはどうしようもないため、広く住民を募集した。
前の住民が住んでいた家を利用し、『家付き、家具付き、仕事あり』で募集したところ何とか人は集まった。
しかし流れ者、はぐれ者、元犯罪者などばかりであまり良い人材とは言えなかった。
奴隷も買い、使えるだけ使い潰してようやく鉱山の運営が回るようになる頃にはかなりの月日が経っていた。
だがオリバーは知りもしなかった。
鉄鉱石の埋蔵量が普通に採掘した場合であと数年分しか残っていないことを。
それでいて急激に採掘量を増やした事により、鉄鉱石を掘り尽くし閉山へと追い込まれる日が刻一刻と近付いていることを・・・。
そしてそれがオリバーが没落貴族となる未来の始まりであることも・・・。




