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あたしも聖女をしております  作者: 斉藤加奈子
第一章

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77.その後のオリバー①

誤字脱字報告ありがとうございます!しょーもないミスばかりでお恥ずかしい。

 ナディル帝国の貴族にとって冬の季節は王城で行われる褒賞式と共に訪れる。


その年に功績のあった者の褒賞、叙勲、叙爵を行い、その後に催される王家主催の祝賀会をスタートとした社交シーズンへと突入する。


 今年の褒賞式は逝去した前帝王が病に伏せっていたため、戦が無く武勲を立てる者がいなかった。

そのため受賞者が少なく、知名度のないオリバーの存在はどこか浮いていた。

褒賞式へ出席するほど活躍した者であるのならば、誰かが彼を知っているはずだった。

しかしそこに列席する貴族の中に彼のことを知る者は誰もいなかった。

現帝王であるアレクサンダーとその側近以外は。


 オリバーの功績と言えば、活躍などとは到底言い難いただ鉄鉱石を帝国へ横流ししただけであった。

採掘に問題のない程度で岩盤崩落を起こし、事故処理が終わるまでの間鉄鉱石を帝国へ横流しした。

高炉に亀裂を入れた時も、修理が終わるまで同じように横流しした。

ただそれだけだった。


「本来なら、我が国の伯爵位にあるはずだった其方だ。我が国と我が王族に忠誠を誓うのなら、ふたたび爵位を授け我が国の貴族として迎え入れよう。」


 アレクサンダーはそう言ってビザンデ鉱山の鉄鉱石を手に入れようとした。


新帝王となり、己の威光を国内外に知らしめるためにも戦での勝利を欲した。その準備のため武器となる鉄が大量に必要だった。




 ナディル帝国の王城はとてつもなく広い。その中での謁見の間も大国だけあって大陸一の広さと豪華さを誇る。白い大理石の敷かれた床に、玉座へと続く赤い絨毯。


 今年の功労者が謁見の間で並ばされ、順に名前が呼ばれると前に出る。


「オリバー・ザイデライト!前へ!」


オリバーは歩みを進めると、玉座の前に立つ帝王の前で跪く。


「オリバー・ザイデライト、我が国の貴族へ復帰する事を歓迎しよう。

今後の我が国への忠誠と献身を期待し、男爵位を授ける。」


「はっ。」


 ようやく、ようやくここまで来ることができた。元は伯爵位のはずだが先ずは男爵位で我慢してやる。

そしていつかは伯爵位を手に入れてみせる。今日はその第一歩だ。


 オリバーは念願の貴族になれる嬉しさで思わず頬が緩みそうになるのを顔に力を込めてくっと堪えた。


そして恭しく叙爵の章飾を受け取ると、再度深々と頭を下げた。


「ヴィクトールを討つ事ができていたのなら、伯爵位が手に入っただろうに。

其方、まさかわざと情報を流してヴィクトールを逃がしたのではあるまいな?」


オリバーは頭上から思いもよらない疑いの言葉をかけられ、思わず顔を上げそうになった。


「と、とんでもございません。私の忠誠心をどうか信じ下さい。」


「其方の忠誠を信じよと申すのなら、今後とも今年と同じだけの量の鉄鉱石を毎年、国に献上せよ。」


「そ、そんな・・・。」


オリバーは言葉を失った。

帝国の貴族への復帰を条件に差し出した鉄鉱石は年間産出量の半分近くにもなる。それを毎年ただで差し出せと言われたのだ。


「其方の忠誠を見せてみよ。」


「か、かしこまりました・・・。」


いきなり経済的に追い詰められたオリバーは怒りで顔を赤くしたその後、頭の中で鉱山経営のそろばんをはじくと抱えるであろう負債額に青くさせた。


くそっ!

若造めが調子に乗りやがって!!

だいたいヴィクトールを討ち損ねたのはお前が寄越した兵が情けないからではないか!!

ちくしょう!!

こうなったら我が領民となった住民達の労働時間を増やして採掘量を増やすしかないか。それから給金を減額して、税を徴収して・・・くそっ!それでも足らんかもしれん!


 ちょうどその頃、ビザンデ鉱山の住民がナディール王国のチャンへレスの砦に向けて出発したことも知らず、オリバーはいかにして住民から搾取するかばかり考えていた。




 褒賞式が終わると、オリバーは妻のドーラを連れて祝賀会の会場へ入る。

そこも絢爛豪華で煌びやかな空間だった。


 憧れの貴族になり憧れの宴席であるはずが、オリバーは先ほどのアレクサンダーの命令を思い出し苛立ちを隠せなかった。


「あなた、せっかくのおめでたい日にそんなにイライラしちゃって嫌ねぇ。

私達は今日から、この帝国の男爵と男爵夫人になったのよ。今日から貴族よ?もう少し楽しみましょうよ。ふふふっ。」


そう声を弾ませ言ったのはオリバーの妻、ドーラだった。

ドーラはビザンデ鉱山の住民を取りまとめる長、いわゆる村長の娘で、鉱山で生まれ鉱山で育ち、貴族や社交界に憧れを抱く世間知らずで欲の深い女だった。


「お前は黙っておれ。今、帝王から鉄鉱石を毎年献上しろと言われて、どう運営していくか頭が痛いんだ。あの若造、調子に乗りおって。」


「あら、それなら奴隷でも買ったらいいじゃない。王国では奴隷を買う事は禁止されていたけど、こちらでは当たり前なんでしょ?」


「奴隷か・・・ふんっ、お前もたまにはいいことを言うじゃないか。」


イライラしていたオリバーは問題解決の糸口を見つけると、機嫌を直し手にしていた発泡葡萄酒を一気に煽った。

その時だった。


「失礼。貴方は褒賞式で男爵位を叙爵されていた・・・確かお名前は・・・。」


オリバーに貴族らしい貼り付けたような笑顔を向けて、一人の男が話しかけた。


「オリバー・ザイデライトと申します。そしてこちらが妻のドーラです。以後お見知りおきいただけましたら有難く存じます。」


「ああ、そうでした、そうでした。

オリバー・ザイデライト男爵殿でしたな。

私はジェイムス・バリストンと申します。」


オリバーとドーラに近付いた一人の貴族らしい男は自らを名乗った。


「確か伯爵位の?」


この日に向けて主要な貴族の名前を勉強していたオリバーは、ジェイムスの爵位を言い当てる。


「おや?ご存じでしたか。

ところで、ザイデライト男爵はどのような功績を挙げて男爵位を?

何分不勉強でして貴方のお名前を存じ上げませんでした。ぜひ貴方の武勇伝をお聞かせ願えませんか。」


男爵位を叙爵されるにはあまりにも名前が知られていないオリバーに、興味を持ったジェイムスが問いかける。


周囲にいた貴族達もオリバーの出自を知りたかったらしく、遠巻きにして様子を眺めていた。


「武勇伝と言うほどでは。

元々ビザンデ鉱山を所有していた家の者です。

今回、帝王への忠誠とともに鉄鉱石を献上しましたところ男爵位に取り上げていただいた次第でございます。」


「ほ、ほう、あのビザンデ鉱山の・・・。

これからも貴方のご活躍を楽しみにしてますよ。では、私はこれで。」


にこやかに話しかけていたジェイムスだったが、オリバーが過去に帝国を裏切ったザイデライト家の後裔だと気が付くと、少し気まずそうにして会話を切り上げ、そそくさとその場を離れた。


その会話を遠巻きに聞いていた周囲の貴族達は、およそ百年前の『裏切りのザイデライト』と言われた事件を知る者と知らない者がヒソヒソと噂をしあう。


『あのザイデライトが・・・。』


『あのとは・・・?』


『裏切りの・・・。』


『どのような裏切りを・・・。』


『よく戻って来れた・・・。』


『本当ですわね・・・。』


『また同じ事になるのでは・・・。』


近寄る事なく視線だけを向けてヒソヒソと囁き合う貴族達。

あまりの居心地の悪さについにオリバーは受賞者が宿泊している部屋へ戻ることにした。


「部屋へ戻る!」


いったい何だと言うんだ!

百年も前の話だぞ!忌々しい!

どいつもこいつもヒソヒソと噂しやがって!

帝王は近いうちに戦をなさるおつもりだ。そうなれば嫌でも鉄鉱石の需要は増える。そこで貢献すればもっと上の爵位が叙爵されるかも知れん。

今に見ておれ!いつか高位の貴族になってお前等を見返してやる!


ふたたび気分を害したオリバーは、祝賀会もそこそこに部屋へ戻ると、翌日には一人ビザンデ鉱山へ帰って行った。

妻のドーラはせっかく帝都へ来たのだからと言って一人残り、しばらく遊んでから帰った。


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