棺桶を担ぐ少女2
日が登ってくる前に僕は目が覚めた。
今日は待ちに待った職業を貰える日だ。それと、隣村までの護衛の日だ。
職業が貰える日に限って、生まれ育った村にいないのは、少しばかり寂しいが、今の僕は職業のことで頭の中がいっぱいだった。
憧れの騎士になれるのか、父さんと同じ剣士となるのか、それとも母さんと同じ村人になるのかは神しか知らない事だ。
ベッドから起き上がり、僕は戦闘用の服に着替え、剣を持ち、家の外に出た。
暑くもなく、寒くもない朝だ。風は吹いてはいない。
僕は昨日、戦闘訓練をしていた小さな修練場まで行き、素振りを開始する。
素振りは僕の日課にしている事の一つだ。
元々は父さんと一緒に素振りをしていたのだが、門番の仕事に就くことになってから、素振りを全然しなくなった。
仕事の最中に素振りする人は騎士とか剣士くらいしかいないが、門番という職についている父さんが素振りをするなんて、ないことだと思っている。
もしも素振りをしていたら、それは普通にサボっていることと同じなのだから。
父さんのことを考えていると素振りに集中できなくなるので、父さんのことを頭の隅において、黙々と剣を振った。
素振りをすることにおいて、僕は二つほど大切にしていることがある。
一つは、人と対峙している状態を想像しながら、素振りをすることだ。
これは、サミスと戦闘訓練をしているときに思いついたことである。大人になったら騎士になるときに必要なことは何かと質問されたときに僕が思いついたのが力だった。魔物や人と対峙している状態を想像しながら、素振りをすることで、いざ戦ったときに簡単に倒せるようにするために考えたことである。
二つ目は、量より質だということ。
普通に素振りをしても、あんまり上達しないことを僕は知った。そのことに僕は考え、考えて、悩み、悩んだ末に出した結論が、『ものすごく集中して素振りをすれば良い』になったのだ。
最初はあまり集中力が持たなかったが、日に日にものすごく集中しながら素振りをしたことで、今は最長で三時間も集中しながら素振りをすることができたのである。
これらの大切なことを僕は含め、一時間、ものすごく集中して素振りを終えた。
きていた服は汗で湿っている。掌は手汗で濡れて、マメが潰れ、滲んでいる。
僕は家から持ってきた使いまくった包帯を手に巻きつけて、簡単に治療を施した。
素振りが終わった後、僕は剣を置いて、小さな修練場の周りを走り出した。体力トレーニングだ。これも将来の夢の騎士になるためのことだ。
騎士になれば、体力が必要になるだろう。剣の腕もそうだ。だからこそ僕は毎日同じトレーニングをして、積み重ねている。
小さな修練場を走り回った僕は、置いていた剣を持って家へと戻る。
今頃、母さんは朝食を作っている。朝食は昨日の残り物だけど、少しアレンジしたのが、テーブルに出てくる。ときどき残り物でもない日があるけれど、これが毎日の日課だ。
家のドアを開け、壁に剣を立てる。
母さんは台所で朝食を作っている真っ最中。台所には昨日の残り物と名前も知らない魔物の肉が置いてあった。今日の朝食もしくは夕食用の食材だろう。
何に使うのか分からなかったので僕は母さんに聞くことにした。
「母さん、その魔物の肉って何につかうの?」
すると母さんは振り向いて「秘密」と答えて調理を続ける。
何に使うのだろうか?僕には料理のことがさっぱり分からないので考えるのを放棄した。
朝食まで時間があると思ったので僕は、椅子に座り、今日の護衛について考えることにした。
隣村までの護衛は夕頃にこの村を出発する。それから馬車でだいたい二時間程度進んだところにあるのが、目的地の隣村だ。その隣村で、泊まり翌日村に帰る予定だ。
隣村までの護衛は、僕と他の村から二人。計三人で隣村まで護衛をすることになっている。
僕としては護衛している間に馬車が魔物や盗賊や山賊に襲われるのは、めんどくさいと思っている……が、戦う覚悟はできている。
できれば、魔物や盗賊や山賊に出くわさないで目的地の隣村まで行きたい。これが僕の本音だ。
魔物と出会ったら、倒し方が分からないので、他の人のお荷物になっちゃうし、盗賊や山賊と出会ったのならば、人を斬るなんてできないからだ。
僕ができるとしたら、剣を鞘に収めたまま、人を殴る、魔物を殴ることぐらいしかできない。
はっきり言ってしまえば、僕は戦うことが嫌いだ。百歩譲って魔物と戦うことは大丈夫だとしても、人を斬ることなんてできない。騎士として失格と言われても仕方がない。でもそんな僕でも、戦闘訓練だけはしている。大事な家族、村のみんなを守るために。
この護衛だって、本当は自分を変えるために決めたのだ。
だからこそ、サミスと戦闘訓練をしたり、素振りをしている。
全てはこの村を守れる騎士になるために……。
すると突然、下の方からグゥゥーっという音が聞こえた。
朝の訓練や色々と考えているうちにお腹が空いたのだろう。
グゥゥーっと鳴ったお腹の音を聞いて母さんが「もうちょっと待っててねぇ」と言って、台所と向き合う。
コンコンコンと包丁の音が室内に響く。
僕は椅子から台所を覗き込むように見る。
料理しているのは村の野菜類。さっき見た謎の肉は調理されていなかった。
料理が出来上がるまで時間がかかりそうだ。
なので僕は、置いた剣を持ってきて、自分の部屋で、磨くことにした。
僕が使っている剣は剣先を潰して、致命傷を与えないようになっている。そのため剣先はボロボロだ。だけど、僕は綺麗に磨く。長年使っている剣だから。
剣を磨いていると家のドアが開いた。
こんな時間に来るのは父さんくらいだろう。
僕は磨いていた剣を置いて、父さんがいる方へ行く。
「お、アーサー夜ぶりだな。俺寝るからまた後でなぁ」
欠伸しながら父さんは寝室へと足を運んでいく。
僕は戻って剣を磨く。護衛に使う剣だから、丁寧に磨いていく。「護衛のために」っと呟きながら。
──本当は使いたくないけれど。
本当の気持ちを隠しながら、僕は黙々と磨いていった。
剣を磨き終わり、料理ができるまで特にやることも無いので、椅子に座って待つことにする。
自分の部屋を出て、テーブルを見ると、朝食が並べてあり、先に母さんが食べていた。
僕は椅子に座って祈りを捧げた後、ゆっくりと朝食を食べる。
今日の朝食はパンと野菜スープだ。
パンはちょっとしっとりしているが、野菜スープにつけて食べると、パンのしっとりさが無くなり、パンにスープが染み込んでいて美味しい。
スープはスープで香りや濃くがあり、パンをつけずに食べても、スープとしての濃くが口の中に広がってくる。野菜も今日採れた物ばっかりで、すごく新鮮だ。
気づいたら、僕が食べていた朝食は無くなってしまった。だが、口の中には野菜スープの温かさが残っている。
僕はまだ食べている母さんに「美味しかった。ご馳走様でした」と言って、剣を持ち、外に飛び出した。
朝食を食べ終えた僕が次に向かう場所は、村から少し離れた森だ。
僕が森に向かう理由は狩人の仕事の手伝いである。
狩人の仕事の手伝いは、毎日ではない。三日に一度、二日に一度のペースで手伝っている。
僕は走って森まで向かう。
サミスとの待ち合わせ場所は、森の近くにある小屋だ。森で仕事をする狩人の休憩場である。
小屋の前まで着いた僕は、コンコンっとノックをして小屋の中に入る。
小屋の中は誰一人もおらず、狩りに使う道具が無くなっていた。
もう、狩りに出掛けたのだろうと思っていたら、突然小屋のドアが開いた。ドアの開いたのはサミスだった。
サミスは持っていた荷物を置いて僕を見て言った。
「ん?ちょっと待ってて。もう少しで父ちゃんが来るから」
サミスは置いた荷物の中から、弓と剣を取り出して、磨いていく。
弓と剣を磨きながら、サミスは僕に話しかけた。
「アーサーってさ、騎士になりたいんだよなぁ」
「うん、そうだけど……」
「騎士になりたいなら、魔物とか人とか殺さなくちゃいけないんだぜ。大丈夫かよ」
「魔物はいけるけど人は──」
殺せない、そう言おうとした時にサミスが言った。
「別に人を殺さなくても、魔物専門の騎士とかになればいいんじゃねーの?」
魔物専門の騎士……そんな騎士は他の国でもいない。
僕はそれをサミスに伝えたが、サミスはフッと笑みを浮かべながら僕に言った。
「ならば、作ればいいじゃん。簡単なことだろう」
予想外の答えだった。
無いなら作れ!その発想には驚いた。
だが、そのことで一つの疑問が頭の中に浮かび上がる。国が作ってくれるのかと。王族や貴族でも無い平民の僕が作れるのかと。
すると、サミスは「お前の考えていることがわかるぞ」と言い出した。そしてまたしてもフフッと笑いながら、
「ズバリ、自分が作れるのかと思っているのだろう」
と、高らかに言った。
僕はまたしても驚いた。
何故わかったのか?と聞こうとしたが、「お前とは長い付き合いだからな」と言われ、僕は納得した。
弓と剣を磨き終わったサミスが、僕に向かって言う。
「まぁ、決めるのは俺じゃ無いし。だけど、信じることは誰でもできるんだぜ」
信じることができる。その言葉が僕の胸に突き刺さった。信じればできるかもしれない。だんだんとできそうな感じがしてきた。
磨いた弓と剣を持ち、ドアを開けながら、サミスは言う。
「今日の夕方から農作物の護衛があるんだろ?今日は早く帰って休んどけ」
ちょっと乱暴な言い方だが、これでも彼なりの優しさなのだろうと僕は理解する。
サミスの言う通り、護衛を失敗させないためにも、しっかりと休息を取るべきだと思った。
「おーい、サミス!早くこっち来て、手伝ってくれー!」
「分かった!父ちゃん、今行くから待ってて」
サミスのお父さんが、「手伝ってくれー!」とサミスを呼んでいる。
「じゃあ、俺はとうちゃんの方行くから。今日の護衛頑張れよ」
サミスはそう言い残して、お父さんの所に走っていった。
護衛のためにも休息を取るべく、僕は村に帰っていった。家に帰って寝ようと思ったからだ。
来る時には走っていったが、帰るときは徒歩である。
村へ帰るまでのそよ風が心地よい。空気も美味しい。
それは、近くに森があるからだろう。
森の近くに住めばいいのにってつくづく思ってしまう。住みやすい場所の方が断然いいのに。
森の近くにある小屋から歩き、村の門に到着した。
昼間は門番はいなく、普通に村の門は開いている。他の村ならば、村の門と言うものは普通だが、これがこの村の普通なのだ。
朝から夕方にかけて門番は居なく、門番が居るのは夕方から朝にかけての時間帯だけ。
何故、朝から夕方にかけて門番が居ないのかと言うと、昼間だし魔物が来ても誰かしら気づくだろうという考えでいるからだ。では、盗賊がこの村に来たらっと聞かれたら村のみんなはこう答えるだろう。
“こんな村に来る盗賊は余程の馬鹿野郎”
そう言うことなので、盗賊がこの村に来たことは一度もない。
それもそのはず、この村って貴重な資源とか無いし、隣村が食糧問題に悩まされていたら、農作物を届けるくらい優しいから、ここに来る盗賊って一人もいないんだよね。襲ってくる理由があるなら食糧だけど、そこまで生産力はないんだよね。
だけど、それは村の話。
農作物の出荷で馬車の護衛をしている時に盗賊や山賊に襲われることは偶にある。目的は食糧だ。後、金品の類も。
そのことで村のみんなは考えたのだ。この村が襲われないことに。
馬車は襲うのに村を襲わない理由がある。
それは、この村が襲われたら、誰かが育てている野菜などを誰が育てるのだと言うことを。
だからこそ、この村は朝から夕方にかけて、門を開けっぱなしにできるほどの余裕があるのだ。
村の門を通って僕は家に向かう。少し早めに歩いていく。
今日の昼頃まで寝ることを僕は決めたのだ。寝て体力を回復させることにした。
家に帰った僕は真っ先に自分の部屋に向かい、剣を置いて、ベッドにダイブしたのだった。
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