棺桶を担ぐ少女1
魔物の大行進によって、僕が生まれ育った村は壊され、焼かれ、村人は蹂躙されていった。
僕はその光景をただ茫然と見ていることしかできなかった。
そして今、僕の周りには死の世界へと誘う魔物達が群がっている。
あぁ、これから死ぬのか。
僕は悟った。これから死ぬことを。
もう、どう足掻いてもこの魔物達に勝てないことを知ったのだ。
僕は力を抜く。力を抜いた瞬間に身体中に痛みが広がっていった。
今気づいたのだが、僕の体の所々は傷だらけだ。
結局、僕は何も変えることができなかった。守れなかった。
いつか、いつか変えることができる──そう思っていたのに、僕は何も変えることはなかった。
僕は目の前で口を開く魔物を見据えながら、目を閉じる。
その瞬間に、とてつもない風がふいた。
僕は閉じていた目を開ける。
目に写っている光景は周りにいた魔物達が棺桶を振り回している銀髪の少女に嬲り殺されていた。
僕は助かったのだろうか。いや、分からない。
ただ、僕が言えることはこの日を境に僕は変えれるかもしれない。
将来なりたかった騎士として……一人の男として……彼女に助けられた人として……彼女を守ろうと思った。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「そこだ……」
「うぐッッ……クソッ!また負けた……」
小さな夕日が上ってくる時、村の小さな修練場に戦闘をしている青年が二人がいた。
一人の少年は地面に背をつけている青年に向かって剣を突きつけている。
勝敗はもうついたらしい。
剣を向けている青年の勝利だ。
地面に背をつけている青年が、「また負けちまったじゃねーかよ」と呟きながら立っていく。
地面に背をつけていた青年が戦闘に勝った青年に向かって話しかけた。
「やっぱりまだ勝てねーか。アーサーまた強くなってねーか?」
「うん……多分、強くなっているよ」
戦闘に勝った青年はアーサーという。少し濁った金色の髪で瞳は緑色、背が高い青年だ。
対して、戦闘に負けた青年はサミスという。茶色の髪で瞳は青く、背はアーサーと比べて少し低い青年だ。
サミスは悔しそうにアーサーに言った。
「商人の護衛はアーサーだな。隣村まで魔物がいないといいけどな。まぁ、頑張れや」
「う、うん。サミスには勝ったけど魔物に勝てるかどうかわからないけど、頑張ってみるよ。隣村までの護衛!」
アーサーは強く拳を握り決意した。
アーサーという青年は魔物と戦ったことがない。
サミスは親の手伝いという理由でほぼ毎日魔物と戦っている。
サミスの親の仕事、職業は狩人である。
狩人とは山に登り、罠を仕掛け、魔物を仕留める。毎日、罠を仕掛け、魔物を仕留めるのが狩人なのだ。その魔物を仕留め、食材として売る。これが狩人の仕事だ。
そう、サミスは親の仕事の手伝いと称して魔物を狩っているのだ。いわばサミスは狩人見習いという立場なのだ。
対してアーサーは畑仕事の手伝い兼村の門番手伝いをしている。畑仕事は母親の仕事で、門番の手伝いは父親の仕事だ。母親の職業は村人で、父親の職業は剣士である。だからこそこの仕事についている。
アーサーとサミスの戦闘能力は親譲りなのかもしれない。アーサーは剣をサミスは剣と弓を使うからだ。
グーンと背伸びをしたサミスは一息ついたからアーサーに言う。
「もうすぐ夜だな。帰ろーぜ」
「ごめん。僕はまだ門番の仕事があるから……また明日」
「確かにもうすぐ日が暮れるな」と小さく呟いたサミスは「じゃっまたな」と大きな声で言いながら帰る場所へと帰っていった。
「じゃっまたね」とアーサーは言葉を返す。
走っていくサミスを見つめながらアーサーは呟いた。
「明日は護衛の仕事かぁ。楽しみだなぁ」
僕は村の門に向かおうと歩き出した時、後ろからサミスの声が聞こえた。
歩き出した足を止めて声がした方に振り返ると、サミスが走ってきた。
サミスは息を整えてから、少しだけ目線をずらして僕に言った。
「アーサーの誕生日って明日だよな。明日って隣村に向かうから祝えないじゃん。だから早めだけど……おめでとうアーサー!」
恥ずかしかったのか、サミスの顔が赤くなっている。
僕の気持ちは嬉しさがある反面、楽しさに溢れていた。
ちょっとした言葉を付け加えてお礼の言葉をサミスに言った。
「ありがとうサミス。顔が赤いけど、どうしたの?」
笑みを浮かべながらアーサーが言った。
サミスは顔を赤くしたまま、「アーサーには関係ねぇよ」という言葉を残して家に帰っていった。
再度、僕は村の門へと向かう。
村の中は静かだ。
時刻は夕方ということもあり、村の人達は外に出る意味もないため、家の中にいるのだろう。微かに家の中から声が聞こえてくる。
「サミスと僕の力ってあんまり変わらなくなってきたな」
僕は思った事を呟いた。
昔のサミスは僕と戦って一回も勝てなかったのに、今のサミスは僕とほぼ互角レベルまで強くなった。人の成長というものは早い。
村の門へと向かうと、村の門番をしている父さんが笑いながら話しかけてきた。
「おーい、アーサー!こっちへ来い。母さんがアップルパイを作ってくれたぞ。食おうぜ」
「分かったよ、父さん。すぐ行く」
僕は走って村の門へと向かう。
アップルパイは僕の好物だ。僕が生きてきた中でただ一つの好物でもある。
僕は嫌いな食べ物は無いが、好きな食べ物も無い。
いや、人よりかは好き嫌いが激しく無い。
そんな僕でも好物と呼べる食べ物はある。そう、アップルパイだ。
僕がアップルパイと出会ったのは十二年前……僕が三歳の頃だった。
三歳の頃は僕が住んでいる土地を管理しているマフィス男爵領が饑饉になった。隣村も饑饉になっていたのだ。
僕が住んでいる村は、他の村よりも人数が少なく、畑が多かったため、毎年余った食料を蔵に閉まっておく時期がある。それはもう沢山の食料があるのだ。
その食料のおかげもあって、僕が住んでいる村や他の村の人達も飢えから助かった。
でも、いつもよりも食べられる料理は少なかった。いつも朝と昼と夜と毎日三食、食べていたのだが、饑饉では、毎日一食しか食べられなかったのだ。
毎日、お腹が空いて僕は力が出なかった。やる気も出なかった。
その時に母さんが作ってくれたのが、アップルパイだった。
お腹が空きすぎていたのか分からないが、その時のアップルパイはものすごく美味しかった。
それから僕はアップルパイが好きになったのだ。
この後、半年ぐらいで饑饉は終わったため、餓死で死ぬ人は隣村も含め、誰もいなかった。
ともあれ、これが僕がアップルパイを好きになった理由だ。
走って村の門に着いた時、父さんはアップルパイを半分に切り終わっていた。
「モグモグ……ちょうど切り終わったところだ。早く食うぞ、アーサー」
「……いや、もう食べてんじゃん……」
父さんはアップルパイを食べながら、食おうぜっと誘ってきた。
いや、もう食べるんだけどね……父さん。言っている事としている事が違うんだよ。
僕は無言で手をつけていない半分のアップルパイを片手に取り、半分に割ってから、片方だけ一口で頬張った。
アップルパイの甘さが口の中に広がった。パンの食感も良い。最高の味だ。
この時間は僕にとってまさに祝福の時間だ。
あっという間に僕の祝福の時間が終わってしまった。でもまだ分けた一つのアップルパイがまだ残っている。
僕はもう一度、アップルパイを一口で頬張った。
またもや僕の祝福の時間が訪れた。最高のひと時だ。
口の中に林檎の甘さが広がる。パンの食感もたまらない。
でもそのひと時もすぐ終わってしまう。アップルパイはいっぱいあるわけでも無い。
僕がアップルパイを食べられるのはひと月で一回、二回くらいだ。
本当は毎日のように食べたいのだが、林檎の収穫時期や商人が村に来る時期、僕の家の収益事情も関係してくるため、林檎を変えるのは、一月に十個程度。そのうちの半数以上がアップルパイ以外の料理に使われている。
本当は買った林檎で全てアップルパイに使って欲しいのだけど、母さんが反対するから無理なんだよね。
母さんは母さんで好物は林檎漬けというちょっと変わった料理で、僕も昔食べてみたが、アップルパイとは全く違く、すごく酸っぱかった。
同じ林檎からできたなんて思えないくらい酸っぱい味だった。
僕はその料理に林檎が使われているなんておかしいと思うが、きっとそれは母さんも思っている事だろう。
一月に一回、二回食べられるアップルパイだが、明日になれば毎日のように食べられるかもしれない。
何故なら僕は明日で成人するからだ。
僕が住んでいる村では成人すると働かなければならない。当たり前の話だ。
僕は親との話し合いで僕の夢でもある騎士になるために王都に行く事になっている。
隣村に行くまでの護衛が終わったら、一度村に帰ってきてから王都に行くことになっている。この事は村の住人たちに話しておいた。
そしたら村人達、全員が、行ってこい!と送り出してくれた。
憧れの騎士になるためには厳しい試練が待っている。僕はそう確信している。
憧れの騎士に……人々を守れる騎士になれるといいな、と思いながら、アップルパイを食べたのだ。父さんのアップルパイを。
もちろん僕が父さんのアップルパイを食べたので怒るーーはずだったが何故か父さんは笑っていた。
いつもの父さんであれば、自分が食べようとした果物類を他の人に食べられた時はものすごく怒るのに今日に限って怒らなかった。
父さんが父さんでないみたいだ。
不思議だ。
疑問に思ったので僕は父さんに聞くことにした。
「それはアーサーが明日で成人して王都に行くんだろ?そしたら今度買える果物半分俺のになるだろう。アーサーがいねぇから」
父さんが笑いながら言ってきた。
僕はあぁ、そういうことなんだなぁ、と思い、頷いた。
「あぁ、そういうことか……なるほどね」
僕がいなくなる分、僕が食べる予定だった林檎などの果物を自然と母さんと父さんで半分に分けられるからだ。
確かに……確かにだけど、それって僕が王都に行って騎士になればたくさん食べられるのではないだろうか。アップルパイとかアップルパイとか。
父さんもそんなに果物類が好きならば王都に行けば、たくさん食べられると思うのに……。
まぁ、別にいいか。父さんがそれに気付くまで、僕は先に王都に行って沢山のアップルパイを堪能させてもらうのだから。
父さんは急に立つと背伸びをしてから僕に言った。
「アーサー、明日護衛があるんだろう。今日の門番は俺がやるから早く家帰って寝な」
「……うん。わかった。ありがとう。門番をしている途中でくれぐれも寝ないようにしてね、父さん」
「寝るわけねぇだろ。じゃあまた明日な」
父さんが武器を持ちながら村の門へと歩き出していった。
僕は村の門へと歩く父さんの背中を見た後、家に帰るのであった。
家に帰りながら、他の家を見る。
僕が村の門へと向かっていた時より、家の中の灯りが目立つようになっていた。
さっきまで見えていた夕日はもうすぐで見えなくなりそうなくらい半分以上、切れかかっている。
夕日の反対を見てみると月が上ってきた。赤い月だ。
暗くなると道が見えづらいと思い、僕は走って家に帰ることにした。
僕が住んでいる家は村の門から少し遠いところにある。でも村の門から家に着くまで、歩いて砂時計三分程度。走れば一分で着くだろう。
走りながら帰っていると家が見えた。家の中で灯りつけているのがわかる。家の煙突からは煙が出ている。料理中なのかもしれない。僕は走らずにゆっくりと歩いて帰ることにした。
「母さん、今帰ったよ」
ドアを開けると同時に『ただいま』と言った。
母さんは台所に立って夕食を作っていた。
母さんはゆっくりと振り返って僕に言った。
「あら、おかえり、アーサー。今ちょうど夕食ができたところよ」
僕は『うん、ただいま』と言い戦闘で使った剣をドアの横に立て掛ける。
台所の隣にある椅子に腰を掛ける。
戦闘したためか、もう、お腹がペッコペコだ。
少し待つと母さんが作ってくれた料理が次々とテーブルに並んでくる。
今晩の夕食は、パンとレタスとトマトのサラダと芋とニンジンが入ったスープだ。
どの料理も美味しそう──ではなく、美味しい。
自慢になってしまうが僕の母さんは料理が上手だ。村の中では比較的に上手くないけれど、他の村や町に比べれば凄く上手いレベルだ。
確か、僕が五歳の頃に、どこかの町の料理人が、母さんの作った料理を食べて、その場でスカウトされたらしい。そう父さんが自慢していたのを、僕は覚えている。
僕としては、母さんの料理を食べた料理人が、母さんの好物を食べてみたら、どんな反応をするのか見てみたいものだ。
すべての料理をテーブルに並べ終わった母さんは、使っていた調理道具を台所に綺麗に並べ、椅子に腰を下ろした。
母さんは手を合わせ、食べる前に神にお祈りを捧げた。
「創成の女神フルメリア様。私たちがこうして生きられるのも貴方様のおかげです。私達に祝福を」
「……祝福を」
僕は母さんに続けて言う。
創成の女神フルメリア──この世界を創成されたと言われている神の名だ。人を作り、命を与え、職業を与えている。
職業とは、人種に与えられた役職である。この世界には色々な職業がある。基本的な職業は、村人、戦士、剣士、僧侶、魔法使い、騎士、盗賊などがある。
職業はものすごく便利だ。
例えば、剣士の職業についていたとしよう。
剣士の職業を持っている者は、剣術のスキルを習得しやすくなる。そして、ステータスにも補正がつく。剣士の補正は使う剣にもよるが、だいたいの剣士は力や速さに多く補正がつきやすい。
スキルも同じだ。剣士には【剣術】というスキルが早い段階で習得できるし、【身体強化】というスキルも早い段階で習得できるのだ。
職業というものは、人生を決める存在なのだ。
ちなみに僕の父さんの職業はさっき例えた剣士だ。剣士なのだが、ただの剣士ではない。大剣を使う大剣士だ。
大剣士は文字通り、大剣を振り回して使ったりする。そのため、力と耐久が高い。
父さんも普通の大剣士と同じく、力と耐久に秀でている。そして、【剣術】と【身体強化】のスキルを習得している。
ちなみに僕の職業はまだ無い。
それはまだ僕が14歳だからだ。
この世界では15歳になると創成の女神フルメリアが人に職業を授ける。なので僕はまだ職業が無い。
父さんは、僕に対して、『アーサーの職業が剣士だったら、村の中で俺は一番ではなくなるな。ワッハッハー!』と豪快に笑いながら言っているくらいだ。
実は僕も薄々だが、15歳になった時の職業が剣士であるのでは無いかと思ってしまっているのだ。
本当は騎士になりたいのだけど。
実際、僕が剣士になったとしても、剣士が進化して、もしかしたら……もしかしたらだけど、騎士系統の職業に進化できるかもしれないので、まだまだ希望はある。
職業に関して考えていると、まるで僕の考えがわかるように母さんが喋り出した。
「職業はね、人生を決めるポイントだけど、例え戦闘職じゃなくても、希望はあるのよ。母さんの職業は村人だけど、とある町の料理人より美味しかったじゃない?例えアーサーが村人でも剣を極めることはできると思うわ」
確かにそうだ。母さんの言葉には説得力がある。母さんの料理がとある町の料理人の舌を魅了したことだろう。
例え、僕の職業が村人でも剣を使えることは変わりない。いや、村人が剣士を倒せるかもしれない。そんな感じがしてきた。
そんな期待を胸に抱き、僕は職業について考えながら夕食を食べた。
考えながら食べていると、テーブルにあった夕食は無くなっている。いつ食べたのか僕にも不明だ。多分だが、考えているうちに食べてしまったのだろう。
夕食を食べ終わった僕は台所に行って、水で口の中をゆすいで吐き出す。口の中を洗うために。
明日は護衛の仕事があり、職業を貰える歳である。
僕は急激に明日が楽しみになり、ベッドに横になった。
だが、僕はこの時知らなかった。
──この村が無くなることを。
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