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棺桶を担ぐ少女は死に場所を探している  作者: 久我 一
#第1章
12/13

中央都市国家と笑わない道化師4

 貰った協会カードを懐にしまって、僕達は宿に戻ろうとした時に、受付の人に呼び止められた。


「ちょっと待ってね」


 そう言い残して受付の人は、奥に行き一枚の紙を持ってきた。紙は茶色であり、穴は開いていないが紙の端がボロボロである。


 受付の人は茶色の紙を僕達に渡してきた。


 その茶色の紙には文字が書いており、上に大きい文字で、依頼書と書かれていた。


「これって……」


「依頼書というもので、本来ならば依頼書ボードに貼ってあるんだけど、昨日依頼されたのもあって、ちょうど君達のこともあったから私が預かっていたの。ここの冒険者協会以外だとほとんどが依頼書ボードに貼ってあるのを取ってきて、受付に見せてからが、冒険の始まりよ」


 ラカンさんが言っていたことと同じであった。


 依頼は少なく、依頼書ボードには何も貼ってない。ただ、A、B、C、D、E、F、と文字が並んでいるだけだ。おそらくランク別の依頼書ボードなのだろう。


 ただ、一つだけラカンさんが言っていた事と異なる点があった。Sランクがないのである。


 確か、ラカンさんの話では冒険者協会の最高ランクはSランク、次にAランク、B、C、D、E、Fと順になっていた。だから、Sランクがないのは、おかしな話である。


「Sランクがあると聞きましたが、何故ないのですか?」


「それは、この都市にはいないからですね。また、Sランクが圧倒的に少ないのです」


 受付の人は、何かを書きながら、冒険者ギルド最高ランクSランク冒険者について語りだした。


「Sランクは冒険者協会の最高ランクにして、冒険者協会が独立した組織として運営されている中での各国の抑止力及び、冒険者協会で管理している冒険者のことを指しています。Sランク冒険者は全員で十三名。その十三名のうちの六名が国に所属している人たちですので、実際に冒険者協会が管理しているのは七名だけになりますね」


 簡単に言えば、冒険者協会の顔ってことですね、と書いていた書類を片付けながら言う受付の人。


「ちなみにそのSランク冒険者に会ったことってあるのですか?」


「ないですよ、依頼がない場所に冒険者は愚か、冒険者ギルド最高ランクの方がいる訳無いじゃないですか」


 あぁ、そうだったな……。


 仕事がないこの都市にはSランク冒険者がいない訳か。


 確かに、仕事がない場所に人は集まらない。それが冒険者なら尚更集まらない。日々、依頼を手に取り、報酬を受け取って生活する冒険者なら尚更の事だ。


 ただ、僕が思うにまだ僕はEランク冒険者。そしてラカンさんがBランク冒険者。上には上があるって事だ。


 だから僕はまだ強くなれる。まだ彼女を守れない。


 だからこそ僕は強くならなくてはならない。そう思えた話だった。


 受付の人の話を聞いた僕達は、依頼を受ける事にした。


 依頼の内容は冒険者を始めたての新人が多く受けるという薬草採取の依頼。


 依頼の薬草が生えている場所は、中央都市国家を出てすぐの草原。ちょうど僕達が来た方向にあった。


 採取する薬草は緑草という草で、その薬草と他の薬草を練り混ぜると下位ポーションの材料となるそうだ。


 詳しくは知らないので、今度調べてみるのもいいかもしれない。


 依頼の準備ができている僕達は、冒険者協会を出た後、僕達が来た方角の門に向かった。


 門には昨日と同じ格好のお爺さんが空を見上げて座っていた。


 僕達に気づいたお爺さんは「協会カードを持っているなら、通行料は要らんよ」と言葉を残してまた空を見上げた。


 僕達はお爺さんに軽く会釈をし、門を通り過ぎて行った。


 門を出て、草原についた僕と彼女は依頼品である緑草を探す。


 緑草は一見そこら中に生えている植物に似ているが決定的な違いが一つある。葉の先端が二つに割れているのだ。


 僕達は時間や捜索範囲の都合上別れて行動する事になったが、お互いの距離を確認しながら捜索と採取する事になった。

 

 一本一本丁寧に確認しながら進んでいくが、今ここは草原である。草が生い茂っており、この中から探すのは骨が折れる依頼だ。


 何千、何万、何億と生い茂っている中から探すなんて現実的……って一本発見。そして続いて二本目と。


 現実的では無いが、と言おうとしたが、このペースでいけば、日没までには依頼の達成数百本は大丈夫そうだ。


 現実的では無い事が変わって現実的になった瞬間であった。


 それから僕達は、時間が経つにつれて一本また一本とどんどん成果を上げていった。


 そして日没。赤い夕日が消えかける直前、僕達は採取した緑草を全て持って中央都市国家に戻る。


 門に着いた僕達は門を閉める準備をしている門番のお爺さんに一声掛けてから、入国した足で冒険者教会へと向かった。


 冒険者協会に続く道は暗く、光源もなく、真っ暗だった。


 冒険者協会に着いた僕達は、採取した緑草を開いている机の上に乗せ、本数を数え始めた。


 依頼された本数は百本だが、実際に採取した緑草は百本を超えて、二百本近い百九十本だった。ほぼ二倍近い本数を採取してきてしまった……。


 依頼の達成数は百本なので、残りの九十本は僕達が持つことになった。


 他の冒険者協会だと余った素材は、冒険者協会で適正価格で買い取ってくれるそうだ。ただここの冒険者協会では買い取れないので、僕達が保管することになったのだ。


 結局、余った素材は彼女が保管することになってしまった。






 時刻は夜。人通りがない道を進んで宿に着いた。


 宿に入った僕達は、預けていた部屋の鍵を受け取り部屋に戻っていった。


 部屋は綺麗に掃除されており、塵一つなく、部屋の空気もよい。


 壁に荷物を寄せて、薄着に着替え、ストレッチして夕食までの時間を過ごす。


 依頼では剣を使っていないためか、ストレッチを早めに切り上げて、今日素振りした場所へと歩いていく。


 真っ暗な場所。光の一筋すらなく、光源はない。


 暗闇を切るように一人、一閃。一閃。一閃。


 その素振りは、夕食の時が来るまで終わる事はなかった。永遠に暗闇の中で剣を振っている青年の姿が映らなくなるまでは。





 ♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢



 暗闇に素振りを続ける青年の姿が鮮明に映し出される。


 暗闇で顔は覆われ、どのような表情なのか分からない。金色で短くも長くもない髪が一振りするごとに揺れ、程よいリズムで剣を振っている。


 青年は素振りを終え、次の目的地へと足を運ぶ。


 暗闇の中から光が失われていく。


 それはいつの時代での必ず起きた事である。そして光がない暗闇の時代に新たなる光が差し込んでくる事も必ず起きる事である事を彼は知っている。


 ただ、その光が時に未来への栄光を掴み取るのか、破滅への一手を辿るのか、それは歴史書を紐解いてみればわかる事。でもこれは未来の話。


 とある少年は歴史書を持って考えるであろう。


 本当の歴史は違うのではないか、と。





♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢




素振りを終えた僕は、宿に戻っていった。


昨日と同じで辺りは暗く、光源もない為に暗さに目を慣らして来た道を歩いていく。


宿は灯りが付いているので目印として非常に役に立つ。


宿に着いた僕は彼女と夕食をとって就寝。


朝日が登る時間帯。昨日と素振りをした同じ場所で僕は今日も剣を振っていた。


早朝、素振りを終えた僕は昨日と同じく、宿に戻り彼女と一緒に朝食を頂く。野菜のシチューに二つのパン。初日と比べれば量は少なくなったが、美味しさは変わっていない。


朝食を済ませた僕らは、都市の散策を駆り出した。


大通りを日は照らし、透き通る雲のように都市の至る所を見て周り、一日を過ごす。統一感のある住宅地に荒れた屋敷に今にも崩れそうな塔の跡地、会う人は少なく、都市の散策が終わった今でも覚えている。宿屋の主人に野菜を売っていた初老の老人、旅人の青年にふくよかな体型のおばさん、大通りには工具箱を担ぎ、作業服を着ているピエロ。数えられるくらいの人数しか見当たらないが、愛想良く話しかけてくれた。


彼女は今日の収穫は無かったそうだ。いつもと変わらない表情で僕に接してくれる。他愛のない会話でも終始表情は変わらなかった。


喜ばしいことではあるが、心が曇る。早く見つけて欲しい、見つけて欲しくないと矛盾してしまうこの思いを、僕は隠し倒せているのであろうか。まるでピエロのように分からないでいる。


明日も明後日も続く探し物。たった一つの探し物は広大なこの世界で見つけられるのだろうか。僕には不可能にしか思えない。


僕はまだこの世界を全て見たわけではないが、想像はできる。


旅出してからはもう初めての事があった。段々と増えてはいるし、全て覚えているなんて事はない。大事だと思うことだけを優先して覚えているのだ。だが、それでも限界はある。


人は全知全能ではない。そして全知全能の神はいない。いや、神はいる。村を襲った魔物達を黙認する神は神ではない。神は彼女だ。僕にとっての希望──根源となる存在。あぁ、僕の女神様。


今日も今日とて夢に入り浸る。希望の光が暗闇を裂いて現れてくる夢だ。彼女の笑顔が脳に焼き付き忘れられない。いつものように胸が痛みながらも、夢が僕を呼んでいた。




あれから二週間と時が経った。


依頼は週に一度。依頼内容には薬草の採取にちょっとだけ遠出して魔物狩りを行う程度で、その他は彼女の目的に時間を費やした。


彼女の目的は達成されず、この二週間は平穏な時を過ごしていた。この間に都市の人々との交流での情報収集に都市の図書館で知識をつけに行った。


完全に別行動になってしまったが、僕は悔いは残しっぱなしであるが、我慢する。それは彼女の知らない一面も知れたからである。


僕に足りないものはたくさんある。それは彼女にも知らないものもあった。


共通して知らない事は世界地図、貴族の爵位、魔物の三つ。


世界地図については彼女は知っていると思っていた。仮にも死に場所を探しているのだから、僕たちがいる大陸の国々は知識にあったはずだ。意外だった。案の定僕より詳しかったのは事実だったけど。


僕と彼女が生まれ育った大陸は、亜大陸と言われている。他の大陸に魔大陸と無大陸があるが、他の大陸より気温が高いと言われている。魔大陸は魔人が生息しており、無大陸は生命が住める環境下ではないと書物には記されていた。


魔大陸と無大陸は謎に包まれている。どちらとも具体的な地形ははっきりしておらず、謎が謎に包まれている。亜大陸はその逆で謎には包まれていない。地形も確立され、地図には国名がずらりと書いてある。今、僕達がいる中央都市国家は亜大陸の少し右側の真ん中にある都市であり、取り囲むように小国、大国が国境を背景に立ち尽くしているのが、垣間見れる。


貴族の爵位と魔物についてはまた今度だ。世界地図の話だけで彼女との思い出が塗り変わっていくから。


この二週間で変わった事はこれだけではない。


ある日、僕達はいつものように都市の散策に出掛けている途中でラカンさんに出会った。発達した筋肉が薄着だからか、クッキリと浮かんでいるのがわかる服を着ている。


「よぉ、久しぶりだな」


「久しぶりですね、ラカンさん」


「早速だが、お前ら暇か?」


「……暇ですけど、どうかしたんですか?」


挨拶と同時に深妙な顔つきで問うてきた。


暇かと言われれば、暇であろう。彼女の目的である都市の散策も終わり、依頼も無ければ、これからは自由行動になる予定だ。


僕は彼女に目線を合わせ、確認を取る。彼女が頷いたので、ラカンさんと言葉を交じる。


「これから少しだけ手伝ってくれ、お前らなら大丈夫だからな」


二つ返事で僕達はラカンさんについて行った。脇道を通って大通りから離れていく。少しばかり崩壊した家を通り、色素が抜けた家も通り過ぎていく。そして貧困街と呼ばれていた場所に僕達は足を踏み入れた。


貧困街──その名の通り、昔は経済的に弱かった者の多くがここに住み着いて出来たそうだ。貧困街は大都市にとっては珍しくはない。各都市に一つはあると書物には記されていた。


貧困街の一角、周りの住居が小さい中、一回り大きな建物が一軒が構えてあった。


どうやら、この家に用があるらしく、ラカンさんは戸を勝手に開けて、家の中へと侵入する。僕もラカンさんに続いて家の中へと入って行った。


質素な部屋に二階に続く階段を登り、とある一室に入っていく。


入った部屋は照明が消され、窓からの光だけが部屋全体を照らしてると思えた。ただそれだけでも少し暗い。部屋にはベットと椅子が一つずつ置いてある。


ベットには横たわった黒髪の女性が毛布をかけて寝ている。


ラカンさんは一度一階に降りて、水と布を持って二階に戻ってきた。


「お前達なら大丈夫だと思うがな……冒険者をやってるといつ何が起こるか分からん。だからこそ、これだけは気をつけてくれ。これは先輩冒険者としての頼みだよ」


布を水で濡らして、毛布を取った。


毛布が無くなった黒髪の女性の体は黒く焼け焦げているかのような皮膚と血の塊の跡が混ざり合った○○な色合いをしていた。


濡らした布で彼女の体を拭く。拭かれた体は、血の塊が消え、黒く焼け焦げた皮膚は消えずにいる。


一人で黙々と黒髪の女性の体を拭いていたラカンさんは僕達に声を掛けた。


「……お前達も手伝ってくれ」


僕達はこの一日、黒髪の女性の介護を任される事になった。




















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