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棺桶を担ぐ少女は死に場所を探している  作者: 久我 一
#第1章
11/13

中央都市国家と笑わない道化師3

 能力試験が終わると、僕とメルさんは能力試験の試験監督を担当してくれたラカンさんに冒険者協会の酒場で食事を奢って貰った。


 酒場には昼頃なのに全然客が来ず、僕達が酒場を出るまで誰一人も入っては来なかった。


 この酒場、人気が無い店じゃ……と思ったが、出された料理は美味しいし、初めて飲んだ酒だって美味だった。


 特におかしな所は無く、料理を堪能しているラカンさんに申し訳ないが、訳を聞いた。


 どうやら、この中央都市国家は三年前から人口が減っているそうだ。


 理由は、魔物が出現しなくなり、冒険者が離れていったのだとか。冒険者が居なくなれば、冒険者が買うはずだった物品や商品は売れなくなり、次第に商人達も違う都市に移住又は移動した。住民達は元々少なく、沢山の冒険者と商人を中心としてこの中央都市国家は経済が回っていた。だから冒険者が居なくなれば自然と経済破綻してしまう。


 だが、僕たちが入国する時には馬車が門に並んでいた。その事をラカンさんに伝えたが、ラカンさんは答えた。


「この中央都市国家は大陸の中心の都市。商人達にとって経路としては悪くないだろう。宿だってある、物価だって安い。商人達にとってこの都市より良い経路なんてないだろ」


 ぶっきらぼうに放った言葉にラカンさんが現状の都市に嘆いているように聞こえた。


 この都市の収入源である冒険者が減り、冒険者相手に商売をしていた商人達が減り、多くの冒険者達と商人達で形成されていた都市は今は壊滅状態に陥っている。


 その壊滅状態を昔からこの都市を拠点とし活動しているラカンさんにとっては喜ばしく無い。


 だからぶっきらぼうな言い方をしたのだろう。


 この都市に来る前にいた村の村長さんが言っていた事と時系列が一致する。


 三年前……中央都市国家が発表した魔物の減少。この都市周辺に近づくにつれて魔物と出会す事はなかった。十日ほど移動して着いた村の森には赤熊(レッド・ベアー)みたいに魔物がいた。


 辻褄が合う。


 三年前から冒険者として活動してきたラカンさん。でも三年前から魔物討伐が減り、仕事がなくなってしまうのは致命的。


 だが、その分街は平和になっているのは目に見えているが、経済問題が住民達の不安を嗅ぎ立てているのだろう。


 その後もラカンさんにこの街の事を教えてもらい、僕達はテーブルの上にある料理を全て平らげた。主に彼女がほとんどの料理を食べ尽くしていたのだが……。


 でも、ほとんどの料理を平らげた彼女の体型は変わらず、いつも通り。どうなってるのやら。


 代金はラカンさんが払い、その後僕達はラカンさんの案内のもと、一つの宿に辿り着く。


 《剣の宿屋》横から剣が刺さっている看板が特徴の宿屋。外観は他の家と大層変わらない大きな宿屋である。入り口のドアを開け、中に入ると、艶のある木材を床に、床に使用している木材より明暗がはっきり別れている木材で壁が、装飾品が作られている。


 外見とは大違いな内部の背景。


 華やかな雰囲気と木の香りが心を落ち着かせようとしている。


 僕らが泊まる部屋は二階の角部屋とその隣の部屋。角部屋が彼女が泊まる部屋で、その隣の部屋が僕が泊まる部屋だ。


 僕達は代金を支払ってくれたラカンさんと別れ、お互いの部屋に入る。


 部屋は一つのベッドに丸い机、椅子と派手ではなく、清潔であり、人口が減っている中でも客足が遠のいている理由が説明できない。


 生まれて始めて最初の宿になるが家の自室より良い。塵一つない部屋だ。清潔感があり、ベッドは固くはなく少し柔らかい。触り心地もよくて、一夜泊まるには勿体ないくらいだ。


 明日になれば冒険者の証が貰える。特別に彼女の冒険者の証も発行してくれる。


 ベッドに身体をゆだねて僕は眠りについた。






 夢を見た。


 赤髪の男が泣いている。赤髪の男は鎧を纏い、赤色のマントを背中に付けている風貌は騎士のようだった。

薄暗い小屋の中で何かを抱えて、泣いている。それは女性の死体だった。腹部にはナイフが刺さっておりナイフを中心に血が広がっている。


 僕は柱のように動けず、ただじっと見ているだけだった。赤髪の男が泣いている光景をずっと……ずっと……


 ……見ているしかなかった。


 泣いて泣いて泣いた赤髪の彼は彼女を抱え、小屋を出る。


 小屋の外の光が僕の視界を照らし、白く染まった。





 次に目を開くと木の天井だった。僕らが泊まっている宿の天井だ。窓から見る光景は漆黒になっていた。宿の辺りは真っ暗であり、明かりなど一つもない夜だ。


 眠りにつこうとするが、あの夢を見たからか、初めての宿だからか、理由は分からないが、眠れなかった。眠れなかった僕は鍛錬をすることにした。静かに宿を出て、近場で鍛錬できる場所を探した。


 幸い宿の裏手に空き地があったのでそこで鍛錬することにした。


 目を閉じ、瞑想する。昨日のラカンさんとの戦闘を思い出す。そして自分の弱さに対して憤りを感じた。


 何が彼女を守るんだ。そう誓った自分が恥ずかしい。守る力がないのは明らかに自分の努力不足、実力不足だ。この強さで彼女を護れる騎士に、人になれるわけがない。今の自分は明らかに弱い。


 ひとまず僕の目標はラカンさんだ。ラカンさんよりも強くならなければ、彼女を護るなんて口が裂けても言えない。僕が今出来ることは自分磨きしかない。


 新たな目標を掲げ、僕は剣を振るう。その剣はいつもより重い気がした。



 日が昇るまで僕は剣を振るっていた。宿の裏手ということもあり、日が出てきて、目に陽がさしこんできた時に気が付いた。集中していたからなのか日が昇ったことは視界に日が見えないと気づかなかった。


 宿に戻り朝食を取ろうと一階のスペースに向かう。一階のスペースには客は僕しかおらず、調理場からはトントンとナイフで調理している男性、この宿屋の主人がいる。どうやら彼女はまだ二階にいる様子。朝食ができるまで、彼女が来るまで一階のスペースにある椅子に座って、待つことにした。


 彼女が来るまでの間、調理途中の宿屋の主人と話をした。


 冒険者を志した理由、何か好きな料理はあるか、と他愛もない世間話をしていた。


世間話で時間を過ぎ、朝食が出来上がる前に主人から彼女を起こしてきなさい、と言われる。


僕は席を立ち、二階の角部屋に向かう。二回戸を叩き朝食が出来上がると部屋の中にいる彼女に伝えるが、返事は無く、物音も聞こえなかった。もう一度叩くが返事、物音すら聞こえなかった。


 もう一度、今度は強く叩く。叩いた勢いで戸が開いた。鍵はしていなかった。


 勢いで開いた戸で視界に部屋の中が映り込む。僕の視界に映ったのは部屋にポツンと置いてある黒い棺桶とベットで黒いランジェリーを着て寝ている彼女だった。


純白のベッドに漆黒のランジェリーを着た少女は寝息をたてて、ぐっすりと眠っている。


「……」


静かな間だった。僕は一度戸を閉めて、再度戸を開ける。


純白のベッドに漆黒のランジェリーを着た少女は寝息をたてて、ぐっすりと眠っている。


再度の沈黙が僕の中で訪れる。寝息を立てる彼女の愛おしい姿に見惚れ、ただ僕は見つめるだけしかできずに時間だけが過ぎていった。


 いつまで見てるんだ。そう聞かれたら僕はずっと「永遠に」と答えるだろう。


 彼女を見つめて、いつになったか分からないが、一階で朝食を作っている店主が上の階で彼女を呼びにいっていると思い、僕に問いかける。


「もうすぐ出来上がるぞ。お客さん、まだですかい?」


 その言葉で僕は、我にかえった。


 彼女は彼女で店主の声に反応し,目を覚ました。


 眠い目を擦り、部屋に置いてある棺桶を開く。


 棺桶の中は闇だった。何も無い暗闇が棺桶の中にはあった。


 そして彼女は棺桶を見ている僕を気にせず、彼女は漆黒のランジェリーを脱ぎ出した。


 目を瞑り、後ろを向いて僕は静かにドアを閉めた。


 心の鼓動がドクドクと鳴っていたのが収まった頃に、彼女は昨日と同じ漆黒のドレスに紫のロープを纏った格好で部屋から出てきた。


「……どうしたの?」


 何気のない問いかけの言葉が僕の心が締め付ける。ドクドクと鼓動が早くなって、張り裂けそうで、張り裂けない。ただ、胸が痛いだけだ。僕は痛いのを我慢して言葉を返す。


「下で主人が呼んでいましたよ。朝食ができたって……」


「そう……それは急がないといけないわね」


 彼女は言葉を発しながら一階へと向かっていく。僕も彼女に続いて一階に降りていく。


 一階にはテーブルに大量の朝食が置いてあった。昨日の夕食と同じくらいの量の料理がテーブルの皿と皿の隙間がなくなるほど置いてある。


 こんなに食べられない、よ思い、顔に出ていたのか、横から宿屋の主人が理由を話し出した。


「実はな……客さんらを最後に店を閉じようと思っているんだ」


 話に興味ないです、と言わんばかりに彼女はテーブルに置かれた料理に手をつけている。


 宿屋の主人は食べている彼女の姿を見て、微笑みを浮かべ、君も食べるといい、そういって話を続ける。


「客足も薄れて三年、泊まりに来る客さんは馴染みの客で月に一度来るか来ないか。はっきり言って、経営が成り立たないんだ。だから君達がこの宿を出たら閉める予定さ」


 重たい話なのに宿屋の主人は微笑みを崩さずに笑顔で話す。でも、その表情は暗かった。


 店を経営してきて毎日続けてきたのに辞めてしまう。辛い決断なのだろう。時折見せる後悔しているであろう目がこの店のけいえいと主人の思いが伝わってくる。


 ずっと泊まっていたい。でもずっとは無理だ、ごめんなさい。


「まぁ、この話を聞いて、あまり考えないでくれ。この商売しているから出会いと別れには慣れているんだよ。だから君達はこの都市で短い期間かもしれないけれども冒険してきなさい」


 これが私の願いだよ、と付け加え、主人は厨房の奥に行った。


 宿屋の主人の話を聞いた僕は、主人の思いを記憶にとどめ、テーブルに乗っている料理に手を付ける。


 テーブルに皿と皿の隙間がなくなるほど置かれた料理は、半分以上もう空になっている。無くなった料理は彼女のお腹の中に入っているのだろうか。こんな疑問が浮かんでくるほど彼女のすらっとした体形は変わらず、料理だけが消えていく。


 まだ、手の付けられていない料理を自分の前にもってきて朝食を取った。パンにサラダに塩っ気の多いスープを食べ終わると同時に、あれだけあった料理はほとんど彼女のお腹の中に消えている。


 食べ終えた料理の空皿を重ね、宿屋の主人が片付けやすいようにしとく。彼女は料理を食べ終えたら、二階の自室に戻っていった。


 片付けが終わった僕は、部屋に戻り、剣の手入れを開始する。


 父さんの形見の剣。長く年季が入ってあろうこの剣は刃こぼれが一切なく、切れ味もよく、今では命を奪う武器として、命を守る武器として、彼女を護る武器として、役に立っている。


 剣を腰に差し、持ち物に不備がないか確認して、部屋を出る。


 出た先には、紫のロープを纏い、漆黒の棺桶を担いだ彼女が待っていた。


「すみません、お待たせしました。それでは冒険者ギルドに向かいましょうか」


 「そうね」とつぶやいた彼女と一緒に冒険者ギルドに向かう。


 扉を開き、中に入っても、宿から冒険者ギルドに来るまでの大通り並みに活気がない。


 三年前ーー活気があった都市は、大通りには屋台が並び、僕達みたいな新人冒険者が集まり、夢を追いかける日々があって、商人は物資を運び、売り払ったり買い取ったり、宿屋はたくさんの出会いと別れを繰り返す日々。客足は絶えない日々が多く続いたであろう日々。


 だが、今となっては三年前の面影も跡形もなく、昔の話は嘘のように冒険者ギルドの中にはたった一人の受付の人一人だけ。


「すいません、ギルドカードの受け取りに来ました」


「はい、ギルドカードですね。少々お待ちください」


 昨日と変わらない笑顔で接してくれる受付の人。立ち上がった受付の人は、奥に消えていき、四角い板と針を持ってきた。


「では、このギルドカードに血を一滴垂らしてくれれば完成です。まずはアーサー君かな」


 僕は受付の人の言葉通りに針を指に浅く刺して、血を一滴垂らす。垂らされた血はギルドカードに触れた瞬間に消え、ギルドカードに文字が浮かび上がる。浮かび上がった文字は、アーサーと僕の名前が浮かび上がっていた。


「これでアーサー君のギルドカードは出来上がり!次は、メルさんだね」


 彼女も僕と同じく、指に針を刺して血を一滴垂らす。垂らした血はギルドカードに触れ、名前が浮かび上がる。


「これで、二人共冒険者になれました。メルさんがDランクでアーサー君がEランクからのスタートだよ」


 受付の人は笑って、僕達に完成されたギルドカードを渡す。


 黒色で囲われた白い表面のギルドカード。名前と職業(ジョブ)と右側に大きくEの文字。


 僕は、今から冒険者になったのだと実感するのだった。



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