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棺桶を担ぐ少女は死に場所を探している  作者: 久我 一
#第1章
10/13

中央都市国家と笑わない道化師2

 B級冒険者のラカンさんが能力試験の相手だそうだ。


 相手の武器は大剣。大剣については父さんが使っていたので、扱い方やどういう攻撃がくるか、扱い方で二パターンしかなく、攻撃手段は僕が知る中で三つ。


 一つは上段からの振り下ろし。豪快に一撃を叩き込む技である。この技の対処法は横に避けるしかない。後ろに飛んでもいいが、いざ大剣を投げられたりでもしたら結構なダメージが蓄積されてしまう。それと今の僕ではまともに打ち合うことはできない。この技がきたら僕が使っている剣が折れてしまうかもしれない。それくらい強力なのだ。


 一つは横からの一閃。名前通りで横からくる技である。この技の対処法は跳ぶかしゃがむか、リスクが高いが後ろに下がるしかない。


 一つは突き技。あまり使用することがない技。対処法は弾くだけ。大剣の突き技はあまり弱い。簡単に凌いだり、反撃ができる。


 この三つが僕が知る大剣の攻撃手段だ。


 次に扱い方だが、攻撃と守護の二パターンがある。攻撃は防御とか関係なく、一撃一撃を豪快に放ってくる手段。守護は大剣を盾にして防ぐという手段。大剣の扱い方が上達していると両方の手段が使えるが素人には無理な話である。


 大剣で両方の手段が使えるということは一流の証。攻守の切り替えができるのは戦いの中では素晴らしい能力と評価される事は少なくはない。


 ちなみに父さんは片方の攻撃型の手段しか使えない。なので家の父さんは一流じゃない。


 まぁ、そんな事は置いておいて目の前の敵──ラカンという冒険者を観察する。


 武器は大剣。他に武器は無いが、魔法があったりしたら面倒。大剣しかないということは父さんみたいな攻撃型の使い手だろう。


 それらを踏まえて思考した。結果はカウンターを狙うしかない。


 僕は剣を鞘から抜き、構える。重心を意識して、すぐに動けるように。対して相手も大剣を構えている。


 両方の構えたのを見計らって受付の若い女性もとい審判が「始め!!」と開始の言葉を叫んだと同時にラカンさんは僕に目掛けて走ってきた。


 上からくるか、横からくるか、もしくは突き技でくるか、よく観察しなくてはいけない。攻撃がくるまで、じっくりと見る。


 ラカンさんは大剣を地面と水平に持ち、間合いの一歩手前で踏ん張ると大剣を薙ぎ払った。それを僕は回避する。


 大剣を薙ぎ払う速さは父さんを余裕で超えている。だが、決して避けられない速さではない。十分対応できる速さだ。


 回避行動をとった僕はまた距離をとって、相手の出方を待とうとするが、迎撃するために移動してきたラカンさんの方が速かった。


 上段からの振り下ろし。思考する時間もなく、直感で回避。回避したと同時に剣を振るう。剣は惜しくも防具に当たり、僕は剣と一緒に弾かれる。


 弾かれた僕はすぐに体勢を立て直し、剣を構える。


 今までの攻撃でラカンさんの攻撃の速さは大体分かった。十分に対応できるが、カウンターを狙っていれば、いつしか対応されてしまう。


 もう一度相手を見て決める。


 僕は間合いを詰めていった。


 僕とラカンさんの剣の間合いは勿論違う。ラカンさんの方が広いが小回りが効かない。逆に僕は間合いは小さいが小回りがある程度効く。


 この試合は自分の強みを生かして勝つ。


 まず強みを生かす前に間合いの中に入らないといけない。すぐ攻撃がきても回避できるようにじりじりと間合いを詰めていく。


 一歩一歩と間合いを詰めていく中で、ラカンさんの間合いの中に入ると同時に切りかかってきた。


 すぐさま回避行動に移る。まず間合いを外して避け、空振りしたと同時に一歩踏み込んで相手の腹部に強烈な一撃を与える。


 僕が与えた一撃は防具に当たったが、当たった防具は中心から亀裂が走り、防具の破片がパラパラと落ちていった。


 その直後、アーサーは不安と焦りを感じる。


 壊しちゃった。どうしよう、と。


 この試合は能力試験だ。試験という名の試合である。


 僕が相手の防具を壊しちゃったら、次の彼女の能力試験はどうなってしまうのだろうか。その事が頭に透き通っていった。


 と、と、とりあえず謝罪だ。彼女に謝る……んじゃなくて、まずはラカンさんに謝らないと。


「す、すみませんでした!!防具破壊しちゃってすみません!」


 腰の角度は九十度。頭を下げて許しを願った。


 声を発したのはラカンさんではなく、赤塚の若い女性──この能力試験の審判だ。


「試験続行不可能なのでここで終了です。お疲れ様でした」


 彼女の能力試験なくなっちゃった……。


 僕の顔は今頃青くなっている。血の気がひいて思考力が低下している。


 そんな僕に能力試験の相手のラカンさんがやってきて、僕の肩を叩いたと同時に、


「いい攻撃だなっ!すごく強いじゃないか。防具の方はギルドが請け負うから大丈夫だぞ」


 と、笑顔で言ってきた。


 防具の修繕費用を冒険者ギルドが受け持つって凄いけど、そんな事なさそう。ラカンさんはきっと、僕を安心させたくて言っているのだろう。


 僕は固まったまま小声で「ありがとうございます」とただ呟き、試験会場から出ていくラカンさんの背中を見るしかなかった。


 後悔しかない……。防具壊してすみません。


 頭が真っ白になっていく。思考力が鈍りに鈍って考えることを僕はやめた。


 後ろからポンッと肩を叩かれる。


 僕が振り返ると、彼女は微笑んで言った。


「ナイスよ。アーサー」


 え?ちょっと何言ってるか分からない。思考が一時的に止まった。


 何故、僕が褒められたのかが分からない。


 相手の防具を破損させたから?


 僕がラカンさん相手に善戦できたから?


 何か恨みでもあったのか? 


 彼女が能力試験を受けたくなかったから?


 候補はいくつもある。だが、何故、褒められたのかは僕には理解できなかった。





 ♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎



「ほら、もっと飲めって、もっと!!」


 真昼間の酒場でとある三人組が酒や料理を堪能していた。


 金髪で緑眼の男性に酒を飲ませようとしてくる中肉中背の茶髪の男性。そのやり取りに見向きもせず、テーブルに乗っている料理を堪能している紫のロープを纏った女性。


 金髪の男性の名はアーサー。そして、茶髪の男性の名がラカン。紫のロープを纏った女性の名はメル。


 彼らが何故、真昼間の酒場で酒や料理を堪能しているかと言うと、ラカンに誘われたからである。


 能力試験が終わった後、ラカンは壊れた鉄の防具を冒険者ギルドに渡すと同時に報酬金を受け取った。その報酬金はラカンのようなB級冒険者にとって少量だが、酒場で昼食と夕食を済ませる分はあった。


 ラカンはその報酬金でアーサーとメルを昼食に誘ったのだ。


 ラカンが二人を昼食に誘ったのは理由がある。それは能力試験をした先輩冒険者は後輩の新人冒険者に飯を奢るという暗黙ルールにのっとっている。


 何故、こんなルールが作られたのかはラカン自身知らない。冒険者ギルドに入った当時からあったのだから。


 そんなわけで今、冒険者ギルドの隣にある酒場でラカンは二人に飯を奢っている最中だ。


 この酒場を選んだのは単純で近いから。


 料理などは冒険者ギルドの隣の家の一階にある厨房で作っているので凄く早い。夜などは残念ながら、営業はしておらず、冒険者ギルドが閉まるまでやっている店だ。


 冒険者は朝方で依頼を受け、終わるのが夕方になる。その割合が多い。だから必然的に酒場とかで飲んだり、食べたりする時間は夕方からになる。


 この酒場も依頼を終えた冒険者達がお腹を空かせ、料理や酒などを堪能していく。(依頼を受けていない冒険者達も関係なくくる)


 それでも真昼間でここまで人がいないのはとある原因があるからだ。


 それは中央都市国家を中心として魔物の数が例年より少なくなっている傾向があると冒険者ギルドと国が発表したからだ。三年も前に。


 約八年前は中央都市国家を中心として魔物の数が尋常なくおり、近くの村からの依頼も殺到し、冒険者ギルドの提示板には依頼書で埋め尽くされ、当時の新人だったラカンは目を輝かせていた。


 まさに冒険者の時代だった。依頼は溢れるほどあるし、中央都市国家だから交易も盛んであった。


 簡単な依頼、危険な依頼を達成、時には失敗。危険で難しい依頼を達成した日は酒場で凄く盛り上がった。毎日のようにパーティーの皆で飲みに行ったり、週一のペースで娼館に通っていたり、と一日一日が楽しかった。今でも鮮明に覚えている。


 そこからは五年ほど依頼の量は日々日々減っていったが、まだ沢山の依頼書が提示板に貼り出されていた。変わらない日々だった。


 問題は三年前の国と冒険者ギルドの発表。


 その情報を鵜呑みにした冒険者は少なからずいた。特に新人冒険者などがそうだ。大半の新人や中堅の冒険者が中央都市国家から離れていったのだ。


 冒険者が離れていけば、買い手が無くなったりで困る商人まで出たのだ。その商人達もこの国から離れていった。


 一年経つと、冒険者や商人が離れていくことが少なくなった。依頼量も昨年より少なくなり、依頼版に綺麗に収まるようになった。また、とある事情でパーティーを臨時解散することになる。


 もう一年経つと、冒険者は離れていく人はいなくなったが、新しく来る人は昔と比べてだいぶ少なくなった。依頼量も激変した。平和になったのだから、嬉しいことではあるが、冒険者達にとっては職がなくなることを意味しているので最悪だ。そして商人達もこの国から離れていく人が多くなった。


 そして、また一年。現在は昨年と同じで、商人達の変動もなく、冒険者達の変動もなかった。依頼の数も同じだ。魔物討伐の依頼はほとんど無くなったが、薬草採取などの依頼が増えた。だが、依頼量は変わらなかった。


 そんなこんなでこの中央都市国家の冒険者や商人達の人口は減っていった。が、商人達は経路として使っているので、入国数は変動していない。


 危険だらけの中央都市国家が大半の冒険者と商人達の犠牲(生きている)によって平和になったのだ。


 俺にとって平和は悪だ。まず仕事が無くなる。かと言って俺はこの中央都市国家を離れられない理由がある。昔は平和とは程遠い国だったのに、今では危険の気の字まで見かけない。国にとっては良いことだ。


 戦闘にしか能がない俺にとって冒険者という職業(ジョブ)は天職だった。


 流石の俺のこのままでは駄目だと思い、最近ではアルバイトを始めた。土木工事のバイトだ。日給は少ない。質素な生活をすれば二日は生きていける金額。冒険者の一回の依頼の時よりも少ないが問題なく生きていける。


 元々、冒険者は金がかかる。武器や防具、ポーションや食料など細かく挙げたらキリが無いが代表的なのはこの四つだ。


 武器に関しては攻撃の要。防具に関しては防御の要。ポーションは回復の要である。


 魔物討伐にも少なからず費用はかかった。が費用よりも報酬金の方が高いのであまり気にしていなかったのだ。昔は。


 だが、今は違う。魔物討伐依頼なんてそもそもこない。魔物討伐にかかる費用が無くなった事は嬉しい事だが、手入れをするための金は必要になる。


 その他諸々の費用が重なっていってもう半年になる。冒険者時代に貯金していた資金はとある事情で一時解散したパーティーメンバーに九割ほどの資金を渡した。


 残り一割の資金は手入れや宿代、生活費などでもうすぐで底をつく。贅沢なんてしていられない。この二人に奢っている昼食の金だって日々の生活の足しにしていかなくてはならない、大切な金だったのに。


 頭を掻きながら、ラカンは思う。防具は壊れた分、新品に変わって戻ってくるからいいか。と前向きな姿勢で物事を捉える。


 ふと、料理が並べてあるテーブルの上を見る。ここ一年半くらい食べたことがない量の料理や自粛していた酒。


 酒を口に運び、喉を潤していく。ヒリヒリとした痛みが伴っている。


 酒の次は料理。肉の料理は少なく、野菜が多い。近くに海も池もないため、漁業もないから魚料理すらない。


 比較的野菜が多めの料理をラカンは一皿一皿丁寧に食べ進めていく。


 今日、能力試験を受け、新人冒険者となった二人、アーサーとメルは酒は飲まず、料理を平らげていった。


 食事をしながら、話していくうち二つ驚いた事がある。アーサーが成人してまま無いという事とアーサーよりメルの方が強いということだ。そして同時に怒りが湧いてくる。


 B級冒険者の俺が、新人冒険者──しかも成人したばっかりの奴に倒された事でだ。自分の力が新人冒険者に抜かれるくらい劣っていた事に怒る。


 俺──ラカンは決める。


 圧倒的な力を持っているこの新人冒険者達、二人に勝てるまで力を付け直そうと。


 この目標こそが俺の冒険者人生に置いて最後の挑戦と糧になるようにと、祈りながら余ったビールを飲んでいくのであった。


 テーブルの食事が無くなり、お腹が膨らんできたので俺──ラカンは会計を済ませて新人冒険者が泊まる宿に向かっていく。


 中央都市国家の大通りは寒い。ポツポツとある露店、芸を披露している道化師に路地裏には汚い服を着た爺さんが白い目をして座っている。


 ここ二年、これが普通だった。他に栄えている都市ならば、露店は賑わい、芸を披露している道化師じゃなく、芸団が場所を取り披露している。宿だって満員だ。


 この二人、アーサーとメルが止まる宿はここ《剣の宿屋》。かつては冒険者達で常時満員で空きが見つかる事すら珍しい宿屋だった。


 現在は泊まる冒険者などがおらず、冒険者来ないなぁと言い、この宿屋の主人が冒険者となり、薬草採取していたのを覚えている。


 《剣の宿屋》に二人を届け、俺は家へと帰っていく。


 帰路の大通りは露店を閉じていく人達が見受けられた。客からの収入がゼロの店は潰れる。この中央都市国家では露店を開いているのは暇人か、本当に売りに来ている人の二択だ。


 今日も中央都市国家は日が入り、日が沈み、今日という無駄な日々を過ごしていく。


 過去に捕らえられた人は未来には進めない。


 昔馴染みだった先輩冒険者の言葉を思い出し、息を吐いた。


 



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