2-13
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「……ちゃん……カズちゃん、むぅ」
心地よい。
なんだろう、とても穏やかだと思う。
そして耳に届く音も良い……音?いや声か?
女の声……詩織?
って痛い!
「痛ぁっ!!」
「あ、起きたー!おはよう、カズちゃん!!」
「おはよう。詩織……って左右のほっぺたがとても痛いんだが?」
「だってー、カズちゃん中々起きてくれないんだもの」
「熱も帯びてるぞ?つねっただけじゃなく叩いたな?」
「泣く泣くだよぅ。危ない人達が先に起きたら怖いもの!」
「あ……」
心地よい時間は終わった。
俺のほっぺたに痛みが走った。
とても痛い。
つい声を上げてしまったが俺に非はあるまい。
そんな俺の目に飛び込んで来たのは詩織の顔。
いつもの詩織。
詩織からの挨拶に俺も挨拶を返す。
そして痛い部分についても言う。
あれ?お腹も痛いぞ?色々やってくれたらしい。
絶対に詩織の仕業だからな!
真実はいつも一つらしい。
危ない人……起きたら?怖い?
俺は詩織の言葉を聞いて、ようやく自分が置かれている状況を思い出した。
そうだ!《東洋会》との会談、賊の襲撃、浅井さんの活躍……そして人質をとられて……詩織の『スリープ』だった!
俺は床から体を起こした。
俺の周りには寝ている人が一杯いた。
うちの人達、《東洋会》、それから賊。
賊なんだけどイメージが違う。
スーツを着用してサラリーマンに見える。
見えるけど、やっぱり顔、髪、髭でカタギではないのが解る。
しかも青竜刀やら警棒やら武器も持っている。
あ、考察している場合でもなかった。
みんなを起こさないと!!
「詩織、みんなを起こそう!俺は信兄から、詩織は浅井さんからね!」
「うん!」
俺は立って動き出す。
うちの頭脳であり責任者である信兄、それから最高戦力である浅井さんから起こさないとな!
詩織に浅井さんを頼んで、俺は信兄の元へ。
「おーい、信兄ー!」
俺はうつ伏せで倒れている信兄をゴロッと転がして仰向けにした。
寝てる。
寝てると言えば、魔法使い達全員もキッチリ寝てるな……。
大物感のあったロトさんも寝てると思う。
あっさりだ。うーん。
いや詩織を褒めるべきか。
大友さんは詩織の『スリープ』が魔法だって言ってたけど抵抗出来なかったのか?
霊力、俺は霊力と魔力は同じ力だと思っている。
その力を俺達は持っていて、アゲハ曰く、霊力に抵抗出来ると言っていた。
魔法使いを名乗るくらいだから抵抗力も高いと思うんだけどなぁ……やはり俺と詩織の力は魔法ではない?
要検証だな。
信兄が寝ているのを見て魔法使い達の眠りについて考えてしまった。
いかん。
俺は信兄の頬をペチペチと叩く。
叩く。
叩く。
起きない。
簡単には起きないって実験で解ってる。
たぶん、倒れた拍子に頭を強く打つとか、腹に何かが刺さるとかしない限り寝てしまう。
眠気を理解して事前に準備して、寝そうな時に刃物なんかを体に刺したら寝ないで済むかも。
俺と詩織はそう結論付けていた。
叩く。
叩く。
信兄の頬を叩く。
楽しんでいる訳ではない。
決してだ。
息を吸い込む。
ちょっとだけ気合を入れて信兄の腹を殴る。
ちょっとだけだ。
肉を叩く鈍い音がした。
やり過ぎたか!?と思ったが信兄は起きない。
だが寝ている顔に眉が寄った。
良い夢が悪い夢に移行してしまったか?
外的要因が影響した?
すまぬ。
でも、これ以上力を込めて殴ったら体に影響が出そうだなぁ……。
「詩織が呼んでるぞー」
俺が信兄の耳元でそう言うと、信兄の目がバチッと開いた。
こわっ!!
可能性はあったが冗談のつもりだったのに……この人怖い。
だが目をパチパチさせるだけで起き上がらない。
頭は寝ているのかも知れない。
「《東洋会》、会談、賊の襲撃、詩織が頑張った」
「おう!」
俺が単語を並べると状況を思い出したようだ。
信兄はガバッと起き上がった。
信兄復活。
俺と違って体に痛みは感じていないだろう。
俺、優しい。
「信兄、思い出した?最初に起こしたよ」
「おう!思い出した。ありがとな!」
「どういたしまして」
「ふむ……手分けして起こしていくぞ。カズはタイヘーな」
「了解」
信兄と俺は仲間達から起こすのであった。
詩織は浅井さんのほっぺを突いていたり。
手荒な真似も出来ずに困っているといった感じもあるが、楽しんでいそう。
俺もやりたい。
そんな事を思いつつタイヘーをぶん殴るのであった。
野郎相手って簡単だよね?
▼
警察官の到着は早かった。
賊の襲撃当初に林さんが連絡していたらしい。
林さん有能。
賊の武装解除、それから連行していった。
未だ現場検証やらなにやら人が動いている。
そんな部屋の片隅に俺達はいる。
「後は所轄に任せるか。後で俺達も行くがな」
「そうね」
「すまない……おそらく賊は我々を襲ったのだろう」
信兄と浅井さんがその様子を見ながら話しているとロトさんが近寄り話しかけた。
どうやら賊に心当たりがありそうだ。
信兄と浅井さんがロトさんを見た。
「我々は西洋の流れを汲んでいる。そして《東洋会》の前身は隣の大国にある都市にあった。返還された都市と言えば解るだろう?」
「なるほど……あの都市はあちらの影響を多大に受けているでしょうね」
「そうです。そしてフソウに渡った者達以外に残った者達もいたのです。返還時に別れたのです」
「何となく解ってきました。今回の襲撃はその者達に関係があるという事ですね?」
「おそらくは……あまり話したくはないのですが巻き込んでしまったようなので話さない訳にもいかないでしょう」
「我々が公的機関だからですか?」
「それもあります。今後の関係を築く上でも大切だと考えます」
「……そうですね」
ロトさんが《東洋会》の生い立ちについて語りだした。
俺達との関係を真面目に考えているからこそ、教えてくれるのだろう。
しかし壮大な話っぽいな。
そして信兄は察しがいい。
頭の回転が早いというか……元々持っている情報量が俺とは違うだけと信じたい。
「魔法使いの世界では、攻撃魔法というモノが廃れているのです」
「ん?」
「西洋でもそうです。時代の移り変わりとともに廃れていったのです。なぜなら……」
「銃といった武器類のせいですか?」
「そうです。その通りなのです。魔力という燃料では撃てる量も限られます。射程距離だって差があります。とってかわられるのは時間の問題だったのです」
「そうなのでしょうね。それは解ります」
「魔法使い達は攻撃魔法以外に活路を見出したのです」
「ふむ」
そして俺も気になっていた話になった。
攻撃魔法。
ゲーム的なあれだろう。
どうやら昔はあったらしい。
もうないのかな?
話を聞くに納得出来る理由ではある。
金さえあれば魔法使いを上回れる量と質の攻撃力。
そして使い手を選ばない。
魔法使いが変質を求められたのも無理はない。
でも魔法書とか残してないのかなぁ?
読んで解るようなモノじゃない?
うーん。
しかし攻撃魔法は廃れっちゃったかぁ……。
残念に思っているのは俺だけではあるまい。
詩織や信兄、浅井さんですらガッカリしてる気がする。
「まぁ、それは世界の魔法使いの話なんですけどね」
「まさか!?」
「はい。我々《東洋会》は攻撃魔法も昔のまま受け継がれているのですよ。追い出されて来た方達は何と言いますか……仕事ではなくロマン、そうロマンが好きな方達だったのですよ」
「おぉぉぉぉっ!!」
ロトさんがニヤリと笑った。
そんなロトさんを凝視する信兄。
魔法使いの世界で廃れてしまった攻撃魔法。
しかし《東洋会》には残っているという。
それを聞いて信兄が奇声を上げた。
俺も声には出していないが同じ気持ちだ!
うぉぉぉぉっ!!
偉い!《東洋会》の皆様!!是非見せてください!!
しかし追い出されて来たのか……その辺りも聞いてみたい。
歴史ありだな。
そして魔法にロマンを求める人達だったという!
憧れを持たずして何が魔法かっ!
こっちの魔法使い以外とは相いれない。
そんな気がした。
「金属探知機などに反応しない武器である攻撃魔法。今になって必要と感じる者達もいたのです。しかも追い出した方達についても記録があったのでしょうなぁ、あちらから接触がありました」
「……どう考えても悪い事に使う未来しか思い浮かびませんね」
「ええ。ですから接触が会った時に、教えろという依頼を断り争いになりました」
「大陸の魔法使いとですよね?」
「はい」
「なるほどなぁ……巻き込まれてはいますが、我々の立場からすると褒めるべきでしょうね」
「ふふっ、ありがとうと言っておきます」
俺にも今回の襲撃の裏側が見えて来た。
攻撃魔法……暗殺やハイジャックに使えそうだ。
失ってから気付き、そう考えた者達が大陸側にいる。
ロトさん達は、その大陸側からの依頼を断って争っているという。
信兄の言う通り、警察としては教えずにいてくれて助かると思う。
詩織の隣で話を聞いている大友さんも嬉しそうだ。
胸を張っている。
誇らしいに違いない。
大きさは普通?何がとは言わない。
「マフィアが動いていたとは思いませんでしたが装備品からして間違いないでしょう」
「あちらの言葉も話していた」
「そうなのか?ナツ」
「ええ。襲い方も躊躇がなかった」
「あちらっぽいな」
「やはり間違いないですね」
魔法使いの話から今回の賊へと話が飛んだ。
浅井さんも話に加わった。
一番身近で接していたからだろう。
大陸系マフィア……危険な奴ららしい。
拳銃まで持ってたしな。
それでも戦える浅井さんがおかしい。
俺も銃弾を避けて戦ってみたい!
いや……そんな危ない事は遠くでやってもらいたいって方が強いか……。
興奮を抑えて理性が勝った。
いくら身体能力が上がったといってもマシンガンとかには勝てないだろう。
冷静にならねばなるまい。
「落ち着いたら提携に向けて前向きに話をしましょう」
「ええ、是非!」
「大友さん、仲良くしようね!黒猫ちゃんを見に言ってもいいかな!?かな!?」
「え、ええ」
信兄の疑いは晴れているようだ。
賊と《東洋会》との関連は生い立ちを聞いたからだろう。
まぁ、単純に全てを信じるって事はないだろうけどさ。
信兄とロトさんが握手をしている横で、話を聞いていた詩織が大友さんと握手している。
でも詩織の方は猫の話かよ!
大友さんが引き気味だ。
真面目な話の流れだったからかも知れない。
俺も仲良くなりたいです!!
ロトさん達《東洋会》には問題もあるかも知れないが、上手くやっていけそう。
青竜刀と拳銃は勘弁していただきたいものだ。
まずは攻撃魔法をお願いしまっす!!




