2-12
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扉が開いた瞬間に浅井さんが扉の脇から飛び込む。
外にいた者へ低い姿勢のまま肘打ち。
相手も警戒はしていたのだろうが視界に捉えきれなかったのだろう。
くぐもった呻き声。
下腹部……急所近くを打たれ体を前のめりにさせたのは男。
スーツを着ているが一瞬見えた顔は悪党面だった。
俺達、男連中の顔は青かったに違いない。
もし急所だったら……そう思わざるを得なかった。
更に浅井さんは動いた。
倒れてビクビクと痙攣している男の他にも店員らに悲鳴をあげさせた連中がいると判った。
俺は低い体勢で肩から突進した浅井さんの姿が扉から見えた。
だが扉の外、通路に行ってしまって見えなくなった。
ただ怒号と戦闘音だけが聞こえた。
「通路は狭い。コウゾーは動きにくかろう、敵が来るまで待機だ」
「……うっす」
大友さん側のコウゾーも行こうとしたが大友さんのお父さんであるロトさんに止められた。
そう言ったロトさん。
言葉を選んでいるが大柄なコウゾーでは邪魔になりかねないと俺は受け取った。
スレンダーな浅井さんだからやれている。
そういう通路だったと思い出す。
だが敵が来たら前衛を頼める男だというのも解った。
身体強化の魔法……その力、見てみたい。
そこへ響いたのは乾いた銃声……一発の銃声であった。
「拳銃!?」
「っち!何者だ!?」
「あ、浅井さんは!?」
俺は単発の音を聞き拳銃だと判断。
信兄が舌打ちをし、ビルの中とはいえ街中で発砲してきた襲撃者の身元を気にしていた。
拳銃の所持を許可された者の行動とは思えない。
違法な拳銃の所持者。
不特定ながらも信兄にはいくつかの相手が思い浮かんでいそう。
信兄はそういう情報を得られる立場だからな。
そんな信兄もスーツの内側から拳銃を取り出して銃口を下に向けて構えていた。
俺は初めて見た拳銃に気をとられる。
だが詩織の深刻そうな声で我に戻った。
そうだ拳銃カッコイイとか思っている場合ではない。
発砲されたのは戦っている浅井さんのはず!
俺の視線は扉へ向かう。
だが賊がなだれ込んでくる気配はなかった。
浅井さんは無事らしい……銃弾を避けた?賊を盾に?とにかく戦闘継続中らしい。
いったいどんな戦いが繰り広げられているのだろうか?
気になる。
とても気になります。
「まだ動く時ではないようだ。コウゾー!なるべく通路には出ないで倒れている奴の確保だ。うつ伏せにして後ろ手に縛れ」
「解った!誰か縛る物はあるか?」
「布テープとコード類を結束するための奴がある」
「おう!」
そこへロトさんが指示を出した。
戦闘は浅井さんに任せるつもりなのだろう。
戦闘以外の指示であった。
コウゾーが動き、吉岡さん……ヨッシーが鞄をゴソゴソしだした。
なんでそんな物持って来てるの……引っ越しの予定でもあったんすか?
俺はそう思ったがツッコまなかった。
そういう空気ではなかったからだ。
そして俺は信兄の事を見た。
ロトさんが動いたのに信兄が動かなかったからだ。
浅井さんが一人で戦っているのに何もしないのかと思ったからでもある。
未だ、通路からは怒号が聞こえるし肉がぶつかる音も聞こえた。
銃声はさっきの一発だけ、浅井さん以外の奴が扉に来ていない事から考えても戦闘中のはず。
だから非難を込めた視線を信兄に送った。
信兄は俺をチラリと見ていたが行動は変わらなかった。
気付かない?無視?
(課長代理は、この襲撃が《東洋会》側の仕込みではないかと疑っているんだと思う)
(えっ!?)
そんな俺に小声で耳打ちをして来たのは林さん。
俺は林さんの言葉に驚き、林さんを凝視してしまった。
俺はそんな事を想像だにしていなかった。
いくら正体の解らない魔法使いとはいえクラスメイトの大友さんをそこまで疑っていなかった。
身元が解っているという安心感もあったと思う。
組織同士の会談、そして提携する未来もありそうだったから尚更だ。
拳銃を構えてジッとしている信兄。
通路に向かわないのは《東洋会》の動きを見張るためでもあったのか……。
確かに後ろからも襲われたら挟み撃ちだ。
俺はそんな想像をしてぞっとした。
改めて思った、荒事の世界に飛び込んでしまったと……。
そして信じられるモノの少なさもだ。
俺が動揺している間にも浅井さんは戦い、コウゾー達が敵の身柄を拘束している。
コウゾーが敵を部屋に引きずりこみ、ヨッシーがうつ伏せになった敵を後ろ手にし親指同士をくっ付けてプラスチック製らしい結束道具で縛っていく。
そして口、足を布テープでぐるぐる巻きにしていた。
手馴れている……うすら笑顔ながら笑っていない目をしているヨッシー、この人なんだか怖い。
何度かこんな事をやってそう……。
通路での戦闘は続いているようだったが相手側の怒号は浅井さんの安全とも言える。
時折部屋の壁にも響く音……通路側から壁を蹴っている感じ。
浅井さんが通路の壁を蹴って縦横無尽に戦っている姿が思い浮かんだ。
立体機動か!?
見たいけど危なくて行けない……。
倒れた敵の確保も出来ている。
おかげで俺は少し余裕が出て来た。
俺は何もしていないけど……。
ま、まぁあれだ、俺の仕事はこの後のはず!
身体能力が高くとも未熟な戦闘技術と狭い通路、拳銃が相手ではそれほど役には立つまい。
だが相手が何者か調べるのには役立つだろう。
俺の力はそういう力だ。
つーか浅井さんが凄すぎだ!
どこのヒーロー、いやヒロインだよ!!
後で握手とサインを貰おう。
詩織は俺の後ろで扉の方を見ている。
詩織の余裕も相手しだいという事だ。
自分達へと向かってくる暴力や自分でなんともならない相手は恐れる。
これについては誰もがそうだろう。
反応の大小はあるだろうけども。
そういや詩織は幽霊とかホラーは苦手なんだよな。
あとはこういう人を害する道具とそれを使う人か。
タイヘーはタイシって人と小声で何か話している。
こんな状況でも落ち着いているように見える。
呪術師は頼もしいと思うべきだろうか?
それとも空気読め?
マイペースな人達だ。
眼帯君ことユッキーはシャドーボクシングっぽい事をしていた。
あー、俺の出番はないかぁ、残念だ。
俺の拳が火を吹くのを見せらせないのは本当に残念だ。
俺の左目を解放させるなよ?
そんな言葉が漏れ聞こえて来た。
残念なのは、お前だぁぁ!
人の事は言えないが通路に向かわない時点でお察しである。
(しかし魔法使いなのに、こんな状況で使える魔法ってのはないのかな?)
(ね。見たいのになぁ)
(だよな)
俺は疑問を口にした。
相手は詩織である。
詩織もそう思っていたようで俺に同意してくれる。
俺達の視線の先では泰然として立っているロトさんと少し動揺している大友さんの姿があった。
それを言ったら呪術師もそうだが、チラッと聞いた話だと面と向かってやれる事はないと言っていた。
こういう場面では出来る事はないのかも知れない。
だからこそのあの態度だろうか?
魔法……俺が思っているようなモノではないのかも知れない。
「っち!卑怯者め!!」
俺達が魔法使いに疑問を持っていると扉から浅井さんが飛び込んで来た。
舌打ちをして相手を罵っている。
そして銃声。
客らしき人達の悲鳴も上がった。
浅井さんと敵が乱戦になっていて撃てなかったのかも知れない。
浅井さんが離れた事で撃てたと推察する。
「どうした?」
「賊が客や店員を人質にとった!」
「っち」
「おそらく大陸系マフィアだ」
「そっちの法案も早く可決してもらわんとな」
信兄が浅井さんに駆け寄り尋ねる。
浅井さんは無傷だった。
強い……強いのは身を持って知っていたが……。
俺の後ろで詩織もホッとした様子。
信兄の問いかけに答える浅井さん。
どうやら戦いの不利を悟って人質をとる作戦にでたらしい。
なるほど卑怯者だ。
信兄も舌打ち。
ロトさん達からも舌打ち。
形勢逆転、そう思わざるを得なかった。
そして賊は大陸系マフィア?だそうだ。
言語かな?武器かな?
とにかく浅井さんはそう判断している。
通路を歩く複数の足音。
どれだけの賊がいるっていうんだ……。
浅井さんがかなり倒したと思ったんだがなぁ。
人質に武器を向けてこっちに来ているんだな。
「……詩織、このフロアーごとやってくれ。その後は俺達からな」
「うん!解ったよ!!」
人質ごと迫って来てると思われる賊達。
そこで信兄が詩織に向けて指示。
冷静そうな声だった。
詩織からの返事は嬉しそうだった。
自分の力を頼りにされて嬉しい、かな?
みんなを守るんだ!かな?
壁際に歩く詩織。
なに?どうしたのって顔で詩織を見送るのは大友さん。
他の魔法使い達もそう思っているかも知れない。
平然として見送っているのは俺達『特対』だ。
これから起こる事は解っている。
詩織は効果範囲を少しでも減らすために店の真ん中方面へ歩いたのだろう。
そして俺は詩織の後姿を見ながら意識を失っていく。
いやきっと俺達もであろう。
賊、人質も含めて……。




