第10章3話
「局長! こちらです!」
MF三輪駆動サイドカー1970年代型がエンジンの爆音を鳴らしながら赤レンガ造りの時代を感じる建物のロータリーへ入っていく。
ここは、凶悪犯罪者収容刑務所、フェルトグラード州立フォールドグラード刑務所正面玄関。
場所は丁度木々が生い茂る森林から大きな湖のある平原に建てられている。
結構な使節がそろっているこの刑務所だが、一番の特徴と言ったら、その歴史の古さだろう。
少し前に話したと思うが、この刑務所はク連時代が崩壊し、スウェットフェルクロード家がス連邦を建国、その際本星にいた元貴族たちが、”貴族追放令”という名の、総粛清の対象になり、その対象者のほとんどがこの刑務所に収監されていた。
この当時は、死刑制度がまだ定められていなかったのと、この刑務所に死刑場がなかったため、証拠やら物証が見つかった時点で銃殺刑に処されていったが、ある時処刑まじかであった、フォールドグラード侯爵が数人の貴族と結託し、大暴動を起こした。
暴動によりほとんどの看守が避難または暴行され死亡し、すきをついて大脱獄を起こした。
そんな過去がある。
その刑務所のロータリーに70過ぎの総白髪で杖を突いた男性が、手を振っている。
「こんにちは、初めまして所長。フェラン・ルーズルートです。」
サイドカーの運転手こと、ルーズルート侍従長は、所長と呼ばれた男性と固く握手を交わした。
「どうも、どうも、局長。フォールドグラード刑務所所長の紅城 進一郎です。」
所長と呼ばれた男性ことフォールドグラード刑務所所長の紅城は自分の自己紹介を終え、面会棟と呼ばれる施設へルーズルートに来るように促した。
「すみません所長、事件のせいで色々大変な時に何十人も訪れてしまって……」
ルーズルートは通された面会棟の応接室で所長に謝罪する。
国家元首暗殺罪の容疑者が獄中内で死亡したことは、マスコミ各社でさっそく取り上げられており、連日テレビや新聞を騒がせていた。
そのせいで、刑務所には様々な報道機関の人間や車が訪れており、今日の連邦捜査庁の捜査も実は密かに撮影されていた。
一応この国では報道の自由は連邦最高憲法で保障されているので、連邦捜査庁の捜査が入った様子も報道しても違憲や違法にはならない。
……なら不敬罪は違憲じゃないのか?
「ははは、まぁ、凶悪犯罪者が収監されている刑務所で、受刑者が殺害されましたからなぁ……。囚人たちも看守たちも怯えているんですよ……。そういう私も、次は私かも……と怯えているんですけどね……」
確かににこやかに答えている所長の表情はどこか怯えている様にも思えた。
そんな気分を紛らわせるためか、所長はコーヒーをルーズルートに差し出す。
「どうぞ、この辺りでとれた一流のコーヒー豆を使用したコーヒーです。」
「すいません、いただきます……」
ルーズルートは差し出されたコーヒーをそのまま口へと入れる。
……コーヒーは非常においしかった。
ふぅ、と一息ついたルーズルートはコーヒーを3分の1ほど残したあたりで本題を切り出す。
「……さて、所長。早速なのですが、事件が起きた時の詳しい状況を教えてくださいませんか? ついでに犯行時刻のアリバイもです」
「……ええっと、確か私の元に第一報が入ったのは、職員棟で朝食を取っていた時でしたかな? 職員用の食堂で食パンを加えているときに、副所長が慌ただしくしていましてね、何かあったのか? と訊ねて初めて事件のことを知ったんですよ……」
「ずいぶん遅い朝食なのですね?」
「いやいや、刑務所職員の朝食時間は午前8時30分以降、看守は一足早く7時から8時の間、囚人たちの点呼や朝食は看守たちが朝食を取り終えた8時15分以降なんですよ。」
「そうでしたか、すみません。どうぞ話を続けてください」
刑事のごとく手帳に所長から聞いた話を書いていく。
「で、副所長からの話を聞いて、ただ事ではないと思ったわけでしてね、私も現場へ向かったんですよ」
「それは、何時ごろでしたか?」
「そうですね……。……丁度ほかの囚人たちが朝食を取っていた時だったので、移動を含めて現場についたのは8時40分ほどでしたかね?」
「なるほど……では、お尋ねしますが医師の方がおっしゃった死亡時刻は何時ごろでしたか?」
「ええっと……」
所長はスーツのポケットから革製の手帳を取り出した。
ルーズルートはちらりとその手帳の中身を見る。
どうやらその日に起こった出来事や事件などが書かれているらしいく、分単位で書かれているものもあった。
「……死後硬直の具合から午前2時から午前3時の間、死因は不明です。」
「? はっきりしていないのですか?」
「司法解剖をしてみないとわからないというのが現状です。失血死なのかそのほかの死因なのか……」
「そうですか、ではその死亡時刻所長はどこで何をされていましたか?」
「その時間帯は所長室で睡眠中でしたね、ほかの職員も同じですよ」
「それを証明できる人は?」
「廊下に監視カメラがありますので、あとで見せましょうか」
「ええ、お願いします」
手帳にメモを取っていくルーズルート。
そして新たな質問を切り出す。
「あの、現場の様子はどうでしたか? 例えば丁度遺体が運び出される時だったとか……」
「確か、遺体はまだ現場にありましたね。」
「遺体の状況はどうでしたか?」
その言葉を聞いた途端、所長は薄ら笑いを浮かべこういった。
「……正直言って、鳥肌が立ちましたよ。開いた眼は真っ赤に染まっていました、心臓があった場所には大きな穴が開いており心臓というものが消えていましたよ……。私ね、こう見えて看守になる前、警察官をやっていたこともありましてね。30の時に看守へ転職したんですが、それまでこの州の州警察で捜査一課に所属してましてね、様々な遺体や死体を現場で見きたんですが、あれだけ残酷な遺体は初めてですよ……」
ちなみに現在では国家公務員の転職は原則法律によって禁止されている。
ただ、30年前までは、許可さえあれば転職は可能だったという。
「そうでしたか……。」
「ええ、2度とあんな残酷な遺体は見たくないともいましたからね。現場で遺体状況の撮影やメモをしていたほかの看守たちも、鳥肌を立てていましたよ」
「撮影ですか?」
「ええ、状況の写真は撮影しておかないといけませんしね。」
「でしたら、あとでその写真を見せていただけませんか?」
「もちろん、捜査には全面協力するつもりですから」
「それは助かります。……そういえば遺体は今どこにありますか? 遺体状況を確認したいのですが……」
「遺体はですね……」
所長は応接室に置かれていた刑務所内の地図で遺体安置所と書かれた部屋を指さした。
そこは放射状の刑務所の第2棟と呼ばれる建物の地下2階にある。
刑務所は中心に職員看守棟があり、そこから6階建ての8つの収容棟が放射状がある。第2棟は職員看守棟から見て南西側の伸びており、ここは主に独房や重房などの所謂牢屋が置かれていた。
「え? なぜ死体安置所が収容棟の地下にあるんですか?」
「さぁ……私が就任した時には、そこにあったものだからね……」
「そ、そうですか……」
若干言葉を詰まらせている所長の発言に、違和感を感じるも、追及はしない。
というより追及したら、何かが負けな気がする……。主にSAN値とか山値とかサンチとか精神とか……
「じゃぁ、死体安置所に向かうかね?」
「え、ええ、お願いします」
「では、向かいましょうか……と、その前に、班員の方にも申し上げたのですが、死体安置所へは道中で重房や捜査中の独房も通ります。くれぐれも囚人たちに話しかけないでください。さ、行きましょうか」
「あ、はい」
ルーズルートは所長に促され慌てて手帳を閉じた。




